ドバイの物件を探していると、同じ「価格」という言葉で、性質のまったく違う数字が手元に集まります。仲介の担当者が出してきた提示額、ポータルに並ぶ募集価格、ディベロッパーの価格表、そしてドバイ土地局(Dubai Land Department、DLD)が公開している取引データ。これらを1枚の表に並べた時点で、比較はもう成立していません。
この記事は、価格そのものの一覧ではありません。手元の数字を同じ表に載せてよいかを見分け、載せてよいものだけを同じ条件でそろえるための手順です。使うのはDLDがオープンデータとして配っている取引データの照会で、条件を書き残しておけば誰でも同じ数字を取り直せます。
先に結論を書きます。同じ列に並べてよいのは、登記された売買どうしだけです。そのうえで、期間、取引の種類、登録の区分、所有できる権利、区画、用途、物件の種別という7つをそろえます。面積あたりの単価まで出すなら、面積の列が2つあるので、どちらで割ったのかも書き残します。
並べる前に、その数字が何の金額かを決めます
比較表でいちばん起きやすい事故は、桁も見た目も似ているせいで、性質の違う金額が同じ列に収まってしまうことです。表の形になった瞬間、どれも同じ確かさを持つ「ドバイの物件価格」に見えます。読者は、どれが成立した金額でどれが希望額なのかを見分けられません。
DLDの取引データは、照会の時点で Transaction Type という区分を持っています。選べるのは All、Sales、Mortgages、Gifts です。All のまま取ると、売買ではない登録が同じ表に入ります。
Mortgages は融資に関する登録です。物件がいくらで売れたかを示す金額ではありません。Gifts は無償で所有権を移す手続きで、DLDの案内によれば、この登録の手数料は物件の評価額に対して 0.125%、最低でも AED 2,000 と定められています。料率が評価額に掛かるということは、贈与の行に入っている金額は、当事者が交渉して決めた売買価格ではないということです。
募集価格とディベロッパーの価格表も、同じ列には置けません。募集価格は売主が出している希望額で、まだ成立していません。ディベロッパーの価格表は、これから建つ住戸に付いた提示価格です。どちらも検討の材料としては欠かせませんが、登記された売買と混ぜると、表の中で「成立した金額」と「言い値」の区別が消えます。
照会でそろえる7つの絞り込み
金額の種類を1つに決めたら、次は範囲をそろえます。DLDのオープンデータの案内ページには、Transactions を引くための絞り込みが並んでいます。期間を指す From Date と To Date、Transaction Type、Registration type、Is Free Hold?、Area、Usage、Property Type です。
| 絞り込み(照会画面の表記) | 選べる値 | そろえないと混ざるもの |
|---|---|---|
| From Date / To Date | 期間を日付で指定する | 時期の違う取引 |
| Transaction Type | All / Sales / Mortgages / Gifts | 融資の登録と、無償の移転の登録 |
| Registration type | All / Ready / Off Plan | 完成済みの住戸と、これから建つ住戸 |
| Is Free Hold? | All / Yes / No | 取得できる権利の違う物件 |
| Area | 区画を選ぶ | 別の区画の取引 |
| Usage | All / Residential / Commercial / Other | 住宅と商業と、その他の用途 |
| Property Type | All / Land / Building / Unit | 土地と、建物1棟と、住戸1戸 |
落としやすいのは Registration type です。Ready と Off Plan では、売られているものが違います。いま引き渡せる住戸と、竣工していない住戸を同じ束に入れると、出てきた金額が何を指しているのかを説明できなくなります。案件そのものを項目で並べたい場合は、オフプラン案件を横に並べる記事のほうが近い内容です。
Is Free Hold? も、ドバイでは意味の大きい区分です。UAE政府の公式ポータルは、ドバイでの外国人の所有はフリーホールドとして指定された区域で認められるとしたうえで、UAEに住んでいない外国人と外国人居住者が、制限なくフリーホールドの所有権、ユースフルクトの権利、あるいは99年までのリースホールドの権利を取得できると案内しています。取得できる権利が違えば、価格の差の一部は権利の差です。同じ平均に入れると、その差が区画の差として読まれます。
Property Type の Land、Building、Unit も混ぜません。土地、建物1棟、住戸1戸では、金額も面積も桁が違います。Usage の Residential と Commercial も同じで、用途が違えば買い手も資金の出どころも違います。絞り込みを緩めるほど件数は増えますが、増えた件数は精度ではありません。
比べているのは、手数料が入る前の金額です
登記された売買どうしに絞っても、まだ1つ残っています。比較表に並ぶ売買価額は、買主が実際に用意する金額ではありません。登記の手続きそのものに、価額とは別の費用が掛かります。
このページの手数料欄には、登録手数料が売主に売買価額の 2%、買主に売買価額の 2% と並んでいます。これとは別に、Title Deed の発行が AED 250、Dubai Municipality の統一図面が AED 225、Dubai Municipality の管轄外にある土地の地図が AED 100、ヴィラ・アパートが AED 250、知識料と革新料がそれぞれ AED 10 と書かれています。手続きを扱うサービスパートナーの費用は、売買価額が AED 500,000 以上なら AED 4,000、それ未満なら AED 2,000 で、いずれもVATが加わります。
これらは価格の外側にある費用です。比較表の価格へ足し込むと、公開データから取り直せる数字ではなくなり、読者は検算できなくなります。支払総額を見積もる表は作ってかまいませんが、価格の表とは列を分けてください。登録の手数料が何に対して掛かるのかを首長国ごとに比べたい場合は、ドバイとアブダビを制度と費用で並べた記事にまとめています。
単価を出すなら、どちらの面積で割ったかを書きます
金額をそのまま比べると、広さの違いが残ります。そこで面積あたりの単価にしたくなりますが、ここに落とし穴があります。
DLDの Transactions の結果には、面積の列が2つ並んでいます。Transaction Size (sq.m) と Property Size (sq.m) です。オープンデータの案内ページには、この2つの違いを説明する記述がありません(確認日 2026-09-30)。列が別に用意されている以上、同じ行でも別の値が入りうると考えるほかありません。
単価を出すこと自体は問題ありません。ただし、どちらの列で割ったのかを、列の名前を原語のまま書き添えてください。書いてあれば、読者は同じ手順で同じ数字にたどり着けます。書かなければ、どれだけ丁寧に計算しても、外からは検算できない数字になります。
面積の欄が空いている行もあります。推測で埋めず、単価の母数から外し、外した行数を表に残してください。母数を書かないまま「平均単価」とだけ書くと、少ない行から出した数字が全体の姿のように読まれます。Property Type で Land を残したままにすると、住戸とは桁の違う面積が同じ分母に混ざる点も、あわせて確かめます。
平均と中央値は、別の名前で書きます
絞り込みと分母がそろったら、最後は代表値の取り方です。ドバイの取引は、同じ区画の中でも金額の幅が大きく、飛び抜けて高い数件が平均を押し上げます。平均と中央値は、同じデータから作っても別の数字です。
どちらを使ってもかまいませんが、どちらを見ているのかを必ず書きます。「平均」と書かれた表と「中央値」と書かれた表を、そのまま並べて大小を論じないでください。作り方が違うので、差の一部は市場の差ではなく計算の差です。他社のデータサイトと数字が食い違うときも、多くはここと絞り込みの条件の差から生まれます。
件数も一緒に出します。数件しかない区画の代表値は、1件の大きな取引で大きく動きます。件数の書かれていない代表値は、どれだけの取引を束ねたものか分かりません。区画ごとの実データを見ながら条件を決めたい場合は、ドバイ不動産データの入口から進めます。
比較表に残しておく欄
ここまでをそのまま欄にすると、読者が同じ表を作り直せる形になります。価格の欄より条件の欄のほうが多くなりますが、それでかまいません。条件の欄が、その価格を再現するための手順書になります。
| 比較表に残す欄 | 何を書くか | 書かないと起きること |
|---|---|---|
| 照会した期間 | From Date と To Date をそのまま | いつの取引の話か分からない |
| 絞り込みの7項目 | 選んだ値を原語のまま | 同じ表を作り直せない |
| 件数 | 束ねた取引の数 | 少ない件数の代表値と見分けられない |
| 代表値の種類 | 平均か中央値かを明記する | 作り方の違う数字どうしを比べる |
| 単価の分母 | どちらの面積の列で割ったか | 単価を検算できない |
| 除いた行 | 面積が空欄で外した行数 | 母数がずれたまま読まれる |
| 確認日 | データを取り直した日 | 更新が要るかどうかを判断できない |
この欄がそろっていれば、半年後に自分で見直すときにも、同じ条件で取り直して差だけを見られます。条件を書かずに数字だけ残した表は、時間が経つと、何と比べたのか分からない数字の列になります。
この比べ方で分からないこと
最後に、この手順では判断できないことを並べておきます。表の外にあるものを、表の中にあるかのように扱わないための確認です。
登記された売買価額は、成立した金額であって、適正な金額ではありません。売り急ぎ、当事者の関係、建物の状態、家具が付いているかどうかといった事情は、データの列になっていません。当社は、値上がりも賃料収入も利回りも保証しません。この手順は、比べる前提をそろえるためのものであって、得をする物件を見つけるためのものではありません。
住戸の階数、向き、眺望、仕上げの水準、管理の質も列にありません。同じ建物の同じ間取りでも、これらで価格は動きます。どこまでが自分の専有部分で、どこからが共用部分なのかは建物ごとの資料で確かめる話で、共同所有不動産の仕組みをまとめた記事で扱っています。
そして、この表は将来の価格を示しません。過去に登記された金額を、同じ条件でそろえて並べ直したものです。数字を増やすより、条件を書き足すほうが表の価値は上がります。再現できない数字は、いくつ並べても比較になりません。