オフプランの案件を2つ3つと見せられて、どれを選べばいいのか決められない。そういうときにまずやることは、良し悪しを考えることではなく、同じ項目で横に並べることです。並べる項目がそろっていないと、片方は立地の説明が厚く、片方は利回りの話が厚い、というだけの比較になります。
この記事は、ドバイのオフプラン案件を並べるための表の作り方です。使うのは Dubai Land Department(DLD、ドバイ土地局)がオープンデータとして配っているプロジェクトの登録簿で、案件ごとに1行が入っています。誰でも同じ条件で取り直せるので、読者が同じ表を作り直せます。
ただし、この登録簿で埋まる列と、埋まらない列があります。いちばん知りたい住戸1戸の価格と支払いプランは、埋まらないほうです。だからこの記事では、列を2種類に分けたうえで、埋まらない列をどう扱うかまで書きます。会社の単位で並べたい場合は、ディベロッパーを法人名で並べた記事のほうが近い内容です。
比較する前に、列を2種類に分けます
比較表を作るときにいちばん起こりやすい事故は、公表されている値と、営業資料にしか書かれていない値を、同じ表の隣り合った列に並べてしまうことです。表になった瞬間に、どちらも同じ確かさを持っているように見えます。読者は、どの列なら自分で確かめ直せるのかを判断できなくなります。
そこで最初に、列を2つの箱に分けます。片方は「公表された登録簿を開けば誰でも同じ値に行き着く列」、もう片方は「ディベロッパーの資料か契約書を見ないと埋まらない列」です。前者は比較の土台になり、後者は担当者に質問する項目のリストになります。同じ表に混ぜず、別の表にします。
分け方そのものは単純ですが、効き方は大きいです。右側の列に書いた数字は、出典として示せるのが「担当者からもらった資料」だけになります。それを表の中央に置いて比較の結論を出すと、あとから条件が変わったときに、何を根拠に選んだのかを自分でも再現できません。
登録簿から埋まる8つの列
DLDのオープンデータのページには、取引、賃貸、プロジェクト、評価、土地、建物、住戸、仲介業者、ディベロッパーというデータセットが並んでいます。オフプランの案件を並べるのに使うのは、このうちプロジェクトのデータセットです。案件の番号と名前、ディベロッパー、開始日と終了予定日、案件の種別と価額、エスクロー口座の番号、案件の状況、完了した割合、検査日、区画、建物や住戸やヴィラの数といった項目が入っています。
このうち、購入を検討している人が比較に使えるのは次の8つです。残りは案件を特定するための識別子か、比較に向かない項目です。
| 登録簿の列 | この列から言えること | この列では言えないこと |
|---|---|---|
| Project Status | 案件がいまどの状態として登録されているか | 工事が順調かどうか |
| Completed (%) | 登録上の進み具合 | いつ引き渡されるか |
| End Date | 終了の予定として届け出られている日 | 確定した引き渡し日 |
| Inspection Date | 検査の記録が残っているか | 検査の結果 |
| Escrow Account Number | 案件ごとの口座が設定されているか | 口座にいくら入っているか |
| Total Units / Total Villas | 登録上の供給の規模 | 間取りごとの内訳 |
| Area | どの区画にあるか | 周辺の環境や利便性 |
| Project Value | 案件全体の価額 | 住戸1戸あたりの価格 |
右端の列を必ず作ってください。比較表は、書いてあることよりも書いていないことを読み違えたときに間違います。とくに Completed (%) は引き渡し時期の予告ではありませんし、Project Status も工事の順調さを表す指標ではありません。
案件の状況として使われる区分は、DLDの照会画面でそのまま選べます。Freezed、Under Reviewing、Under Cancellation、Cancelled、Finished、Active、Conditional、Activating の8つです。日本語のまとめ記事では「進行中」「停止中」の2区分に丸められていることがありますが、丸めた時点でDLDの画面と突き合わせられなくなります。原語のまま表に書き写してください。
案件の価額を戸数で割らないでください
登録簿には案件全体の価額(Project Value)と住戸の数(Total Units)の両方が入っているので、割り算をしたくなります。その割り算の答えは、住戸1戸の価格ではありません。
理由は3つあります。1つ目は、この列が何を指すのかをDLDが定義として示していないことです。販売価格の合計だとは、データセットの案内のどこにも書かれていません。2つ目は、同じ案件の中に広さも階数も向きも違う住戸が入っていて、平均が意味を持たないことです。3つ目は、ヴィラと住戸が別の列に分かれている案件では、そもそも割るべき分母が決まらないことです。
住戸1戸の価格を比べたいなら、経路は2つしかありません。ディベロッパーの公表資料で住戸ごとの価格表をもらうか、同じ区画の登記された取引の記録を見るかです。前者は出典が営業資料になり、後者は完成済みの物件の値になります。どちらもオフプランの案件どうしを直接比べる値にはならないので、比較表の外に置いて、別の根拠として扱います。
この区別は面倒に見えますが、守らないと表の意味が反転します。価額を戸数で割った値が小さい案件は、単に狭い住戸が多いだけのことがあります。それを「割安」と書いた瞬間に、読者も自分自身も、確かめようのない結論を信じることになります。
終了の予定年は、その年の混み具合とセットで見ます
案件ごとの終了予定日は登録簿に入っているので、単純に「早いほうが先に引き渡される予定だ」と読めます。ただし、比較のときにもう一段見ておきたいのは、同じ年に終わる予定の住戸がどれだけ重なっているかです。
終了の予定年ごとに住戸とヴィラを足し上げると、年によって規模が倍以上違います。引き渡しの集中は、同じ時期に引き渡しの検査や登記の手続きが集まるということでもあり、完成後に同じ区画で貸し出す予定なら、募集が重なる時期という意味も持ちます。案件を選ぶ理由にはなりませんが、選んだあとの予定を立てるときの前提にはなります。
実際に完成した実績のほうは、DLDが上期の市場指標として別に公表しています。予定と実績は別の数字なので、上期に完成したプロジェクトの実績をまとめた記事と混ぜないでください。予定年の集計は、これから起きることの見込みではなく、いま登録簿にそう届け出られているという事実です。
エスクロー口座の欄は、代金の預け先の話です
オフプランは、建っていないものに先に代金を払う取引です。その代金をどこへ入れるかを定めているのが、エスクロー口座に関する Law No. (8) of 2007 です。この法律は、開発業者が口座の開設を土地局へ申請することと、案件ごとに口座を分けることを求めています。口座を管理するのは認定された金融機関で、完成の証明が出たあとも口座の残高の一部が留保され、住戸の登記から一定の期間が過ぎてから解放される仕組みになっています。
登録簿には、この口座の番号を入れる欄があります。欄が埋まっていれば、その案件に口座が設定されていることが公表データで確かめられます。逆に欄が空のままの案件も実際にあります。空いているからといって、その案件に問題があると決まるわけではありません。まだ登録の途中という場合もあります。比較表の上では「この案件だけ、代金の預け先を別の方法で確かめる必要がある」という印として扱います。
払った代金がどう記録されるかも、同じ流れの中にあります。オフプランで売られた住戸は、開発業者が Oqood の窓口から仮の登記簿へ登録します。この手続きの手数料は売買価額に対して売主と買主がそれぞれ2%と公表されていて、知識料と革新料が別に加わります。買主の側からは起票できない手続きなので、登録が済んだことを示す証明書を受け取れるかどうかを、契約の前に確かめておく項目に入れてください。登録の仕組みそのものが1つの基盤へまとまりつつある経緯は、初期登録のプラットフォームについての記事にあります。
3つの欄を順に見て、次に確かめることを決めます
エスクロー口座、案件の状況、完了した割合。この3つの欄は、どれか1つでも空いていると、その先の比較の意味が変わります。順番に見ていくと、次に何を確かめればよいかが決まります。
案件ごとの状況をその場で確かめたいときは、DLDが案内している Project Status の照会があります。案内ページでは Dubai REST のアプリから Mashrooi を開く経路が示されていて、案件の番号や所在、住戸の数、登録の状態、開始と完了の日付、開発業者の連絡先、エスクロー口座の情報、検査の写真といった内容に触れられます。オープンデータの一括ダウンロードで表を作ったあと、気になった案件だけをこの照会で個別に見るという順番が現実的です。
同じ表を自分で作り直す手順
この記事の表は、次の順でもう一度作れます。特別な資格や契約は要りません。
| 手順 | すること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 1 | DLDのオープンデータでプロジェクトのデータセットを選ぶ | 期間と区画の条件を控えておく |
| 2 | 検討している案件の行を抜き出す | 案件名ではなく案件の番号で特定する |
| 3 | 8つの列だけを残して並べる | 列の名前を原語のまま残す |
| 4 | 空欄になった欄に印を付ける | 空欄を推測で埋めない |
| 5 | 価格と支払いプランを別の表に分ける | 出典が営業資料であることを書き添える |
| 6 | 気になった案件を Project Status で個別に照会する | 照会した日付を残す |
手順2で案件名ではなく番号を使うのは、似た名前の案件が同じ区画に並ぶことがあるためです。手順3で列の名前を原語のまま残すのは、あとで読者や担当者と突き合わせるときに、日本語に訳した時点で対応が取れなくなるからです。
手順4の印が、この表でいちばん価値のある部分になることがあります。埋まらなかった欄は、担当者に聞くべきことの一覧そのものです。空欄を埋めないまま残しておけば、何を確かめていないのかを自分で見失いません。
この比較表で分からないこと
最後に、この表で判断できないことを並べておきます。表の外にあるものを表の中にあるかのように扱わないための確認です。
登録簿は、案件の品質を表しません。仕上げの水準も、共用部の設計も、管理の体制も列になっていません。完成後の賃料や売却価格も当然入っていません。当社は、値上がりも賃料収入も利回りも保証しません。この表は、比べる前提をそろえるための道具であって、儲かる案件を見つけるための道具ではありません。
終了の予定日は予定であって、約束ではありません。予定年ごとの集計も、登録簿にそう届け出られているという事実を束ねたものです。実際の引き渡し時期は、契約書に書かれた条件と、そのときの工事の進み方で決まります。
そして、住戸1戸の価格と支払いプランは、どうやってもこの表には入りません。そこだけは、ディベロッパーの公表資料と契約書を読むしかありません。公表データで並べられるところまでを先にそろえておくと、資料を読むときに、どこが比較できてどこが比較できないのかを分かったうえで読めます。オフプランの仕組みそのものを先に押さえたい場合は、ドバイのオフプランのカテゴリに解説を置いています。