アブダビの物件資料や契約書には、ownership、usufruct、musataha、long lease という4つの言葉が出てきます。日本語の案内では、どれも「所有できます」と一言でまとめられることがあります。ところがUAE政府のポータルは、この4つを別々の区分として、それぞれ違う年数とともに説明しています。どの区分で契約するかによって、何年その状態が続くのか、土地が含まれるのか、建物に手を入れられるのか、担保に入れられるのかが変わります。
この記事は、アブダビの投資区域で外国人が取得できる4つの区分を、UAE政府ポータルに書かれている範囲だけで並べ直したものです。どのエリアを選ぶかという話や、9つの投資区域の一覧はアブダビのエリア比較にまとめてあります。ここでは、区域の可否をひとまず脇に置いて、手元の契約が4区分のどれなのかを読み分けることだけを扱います。価格や利回りは扱いません。
4つの区分は、期間も中身も違う
UAE政府のポータルは、アブダビの根拠法としてLaw No. 19 of 2005を挙げ、外国人が投資区域で取得できるものとして次の4つを説明しています。ページの最終更新は2024年12月30日と表示されています。まず、書かれている内容をそのまま並べます。
| 区分 | 書かれている期間 | 中身として書かれていること |
|---|---|---|
| 所有(Ownership) | 99年 | 住戸についての所有。土地は含まないと説明されています |
| 用益(Usufruct) | 99年 | 使用と収益ができる。対象は元の状態のままにしておきます |
| ムサタハ(Musataha) | 50年 | 建築や改変ができる。当事者の合意により同じ期間だけ更新できます |
| 長期リース(Long lease) | 25年以上 | 最初の期間が25年以上と示されています |
この表で読み取れるのは、年数だけでは区分が決まらないということです。同じ99年が2つあり、しかもその2つは中身が違います。長さを比べる図にすると、違いがどこにあるのかがはっきりします。
図で棒が同じ長さになっている所有と用益が、この記事でいちばん取り違えやすい組み合わせです。営業の場で「99年です」とだけ説明されたときに、どちらの99年なのかを聞かないまま話が進むことがあります。年数は同じでも、手に入るものが違います。
99年が2つあるので、年数で見分けない
所有は、住戸についての所有として説明されています。ポータルはあわせて、そこに土地は含まれないとしています。集合住宅の一戸を買う場合、日本でも土地は敷地権という形で持分になりますが、アブダビの説明はそれとも違い、土地を含まないと明記されている点が特徴です。土地の扱いは、建て替えや将来の再開発の場面で効いてきます。ここを確かめないまま「土地付きだと思っていた」となると、後から取り返しがつきません。
用益は、使用と収益に関する権利です。ポータルの説明では、対象を元の状態のままにしておくことが条件になっています。言い換えると、住んで使うことや貸して収益を得ることは想定されている一方で、間取りを変えるような改変は想定されていません。同じ99年でも、所有が「持っている状態」を指すのに対し、用益は「使える状態」を指します。
したがって、契約書の英語表記を確かめる意味は大きくなります。日本語の資料に「所有権」とだけ書かれていても、原文がusufructであれば、それは用益です。翻訳のときに落ちた1語が、改変の可否という具体的な違いにつながります。カタカナと日本語訳だけを保存せず、英語の原文を必ず控えてください。
ムサタハは建てる側の権利、長期リースは借りる側の契約
ムサタハは50年です。ポータルは、建築や改変ができること、そして当事者の合意により同じ期間だけ更新できることを説明しています。ここで注意したいのは「合意により」という条件です。自動的に延びるとは書かれていません。更新が合意に至らなかったときにどうなるのかは、ポータルには書かれていないので、この記事でも書けません。書かれていないことは、未定という意味でも、できないという意味でもありません。確かめられていない、というだけです。
長期リースについて示されているのは、最初の期間が25年以上という下限だけです。上限も、更新の条件も、ポータルには出てきません。25年で終わると読むことも、延長できると読むことも、この記載からはできません。長期リースは4区分の中で唯一、性質としては賃借にあたるものです。契約の相手方に賃貸人がいる形になるため、更新や譲渡の条件は個別の契約書で決まります。
4つを並べたときに見えてくるのは、年数の長さが優劣を意味しないということです。99年の用益より、50年のムサタハのほうが建築の自由度は高く、25年以上の長期リースは短いかわりに拘束も軽い、という関係になります。何を目的にするかで、向いている区分が変わります。目的が決まらないうちに年数だけで選ぶと、あとから合わないことに気づきます。
2019年の改正で広がったのは、投資区域の中の話です
制度そのものの動きも、日付で追えます。UAE政府ポータルは、2019年4月の改正により、非UAE国民が投資区域にある不動産について物的権利のすべてを取得・所有できるようになったと説明しています。あわせて、10年を超える用益とムサタハの保有者は、所有者の同意を得ずに不動産を処分でき、そこには抵当の設定も含まれる、と書かれています。融資や売却を考えるときに効いてくる部分です。
ただし、この改正が広げたのは投資区域の中での扱いです。区域そのものが増えたという説明ではありません。区域の外がどうなるのかは、確認日の時点で当サイトは確かめられていません。制度の節目を並べると、次のようになります。
10年という区切りは、契約の期間を決めるときの判断材料になります。10年を超える用益やムサタハであれば、所有者の同意なしに処分できると説明されているためです。とはいえ、これは制度の説明であって、個別の金融機関が実際に融資に応じるかどうかとは別の話です。制度上できることと、相手が受けてくれることは違います。銀行の条件は銀行に確かめてください。
日本語の「所有権」に引き寄せて読まない
日本の所有権には期限がありません。土地と建物の両方を対象にでき、改変も売却も相続も所有者が判断できます。この前提のまま4区分を読むと、どれも「所有権の一種」に見えてしまいます。実際には、4つとも年数が示されており、所有ですら土地を含まないと説明されています。
ドバイの資料に慣れている人ほど注意が要ります。ドバイではフリーホールドという言葉が広く使われており、その仕組みはドバイのフリーホールドとはにまとめました。首長国が違えば根拠になる法律も担当する機関も別なので、ドバイで使われている区分の名前を、そのままアブダビの契約に当てはめないでください。同じ英単語が出てきても、根拠と条件は別に確かめる必要があります。
権利の区分と、登記を扱う相手は別の話
取得できる権利が決まっても、手続きの相手が自動的に決まるわけではありません。ADGMは公式サイトで、2023年4月24日にアブダビとADGMにとっての節目があったとし、管轄がAl Maryah島とAl Reem島の両方を含む範囲へ広がり、合計で14.38百万平方メートルになったと説明しています。この事情はアル・リーム島に固有のもので、アル・リーム島の不動産で詳しく扱っています。
アブダビ全体については、DMTがアブダビ不動産センター(ADREC)の設立を公表したことを、アブダビ政府のメディアオフィスが2023年11月2日に伝えています。発表では、戦略立案、振興、規制、取引管理の4つを柱にすると説明されています。ADRECは市場のデータも公表しており、当サイトではアブダビのデータに整理しています。
つまり、同じアブダビの物件でも、島によって手続きの相手が変わることがあります。権利の種類と、その権利をどこに登記するかは、別々に確かめる項目です。営業の説明で「アブダビの物件です」とまとめられているときは、対象の島と、手続きの相手の名前まで聞いてください。
契約の前に確かめる項目
区分を読み分けるために、書面で確かめられることを整理します。ここに挙げたものは、いずれも相手に質問すれば答えが返るはずの項目です。答えが返らない場合は、その時点で判断を止める材料になります。
| 確かめること | どこで確かめるか | 注意すること |
|---|---|---|
| 契約の英語表記 | 契約書の原文 | ownership、usufruct、musataha、leaseのどれかを控える |
| 期間 | 契約書の原文 | 開始日と終了日、更新の条件が書かれているか |
| 土地の扱い | 契約書と物件の資料 | 所有でも土地を含まないと説明されている点をふまえる |
| 改変の可否 | 契約書の原文 | 用益は元の状態のままにしておくと説明されている |
| 10年を超えるか | 契約書の期間 | 処分と抵当の扱いが変わると説明されている |
| 登記の相手 | 売主または仲介からの説明 | 島によって手続きの枠組みが分かれることがある |
| 投資区域かどうか | UAE政府ポータルの区域一覧 | 区域の単位。住戸ごとの可否を示すものではない |
この表の各行は、どれも短い質問に置き換えられます。「この契約はどの区分ですか」「終わりはいつですか」「更新の条件はどこに書かれていますか」といった具合です。答えが口頭でしか返らない項目は、書面に書いてもらってください。口頭の説明は、あとから確かめる手立てがありません。
この記事で確認できなかったこと
アブダビ不動産センター(ADREC)の公式サイトにある規則のページと、そこに置かれている法令のPDFは、確認日の時点で自動取得に対して確認用の画面が表示され、本文を読み取れませんでした。当サイトはこの種の確認画面を迂回しません。そのため、この記事の権利に関する説明は、UAE政府ポータルの記載に基づいています。法令の原文と突き合わせた確認は行えていません。
各区分の登記手数料、必要な書類、処理にかかる日数も確認できていません。相続や法人による取得の扱い、投資区域の外での扱いも、この記事では扱えていません。いずれも公表資料を読み取れた時点で追記します。ADGMのページは管轄が広がった事実を説明していますが、その島での不動産登記の手続きそのものは書かれていないため、手続きの詳細は本文に書いていません。
当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。この記事が扱っているのは権利の区分だけで、その区分を選べば価格が上がるといった関係を示すものではありません。
まとめ
アブダビの投資区域で外国人が取得できるものとして、UAE政府ポータルは4つの区分を説明しています。住戸についての所有が99年で土地を含まないこと、用益が99年で元の状態のままにしておくこと、ムサタハが50年で建築や改変ができ合意により更新できること、長期リースは最初の期間が25年以上であることです。
年数だけを見ると所有と用益は同じに見えますが、手に入るものが違います。2019年4月の改正で投資区域内の物的権利を取得できるとされ、10年を超える用益とムサタハでは処分と抵当の扱いが変わると説明されています。契約書の英語表記、期間、土地の扱い、改変の可否、登記の相手を、価格を検討する前に確かめてください。区域そのものの選び方はアブダビのエリア比較へ続きます。