ドバイで住戸を貸すときも借りるときも、家賃は年に1枚の小切手で受け渡すのが長く当たり前でした。その前提が2026年に動いています。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)は2026年6月23日に「Flexi Rent」を発表し、月ごと・四半期ごと・半年ごとの分割払いを選べる枠組みを、参加する事業者とともに進めると公表しました。
もっとも、分割払いそのものは新しい制度ではありません。ドバイの賃貸借法(Law No.26 of 2007)は、支払日の合意がないときに年4回の均等な前払いを既定値として置いています。法律の側は以前から分割を前提にしていて、年1枚の小切手は契約でそう合意してきた結果です。ここでは、法文とDLDの発表に書かれていることだけを、既定値、発表の中身、まだ報道の段階にとどまる話、貸す側が確認する項目の順に並べます。書かれていない項目は、埋めずに「書かれていない」と示します。
法律の既定値は「年4回の前払い」です
Law No.26 of 2007 第12条は、借主が貸主へ賃料を支払う時期について、まず当事者が合意した日付によると定めています。そのうえで、合意がない場合、または支払日を確かめられない場合には、賃料を年4回の均等な分割で、前払いによって支払うと書いています。
この条文の読み方で大切なのは、法が決めているのが金額ではなく時期だという点です。年額をいくらにするかは契約で決まり、条文はそこへ介入しません。介入するのは「いつ払うか」が決まっていないときだけで、そこで引き取る既定値が年4回の前払いです。前払いである点も条文に書かれています。使ったあとに払う形ではありません。
もう一つ、同法第4条は、賃貸契約が物件の説明、利用目的、所有者名、土地の情報、所在地域、期間、賃料、そして支払方法を明らかにする書面であることを求めています。支払いの回数は契約書に書く項目であって、あとから口頭で足す項目ではありません。回数を変えるなら、契約の条項として変えることになります。
年1枚の小切手がどこから来たのかは、法文をたどっても出てきません。当サイトは、その慣行がどう定着したかを説明できる一次情報を持っていないため、理由は書きません。書けるのは、それが法の定めではないこと、したがって当事者が合意すれば回数は変えられることまでです。DLDの発表は、この「合意の側」を動かそうとするものだと読むと位置づけがはっきりします。
2026年6月23日、DLDは「Flexi Rent」を発表しました
発表の見出しは「Dubai Land Department Launches ‘Flexi Rent’ Initiative and Strengthens Strategic Partnerships to Advance Rental Market Accessibility」です。内容として書かれているのは、賃料の支払いを月ごと、四半期ごと、半年ごとの分割で選べるようにすること、そして参加する事業者が提供するインセンティブや付加価値のパッケージを組み合わせることです。
参加事業者として11社が名指しされています。法人名は登記された名称で、読者がDLDや各社の公表資料へ当たるときの手がかりになるため、カタカナにせず英語のまま並べます。Wasl Properties、Deyaar Property Management、Dubai World Real Estate、Modern Real Estate、Dubai Investment Real Estate、SBK Real Estate、Rocky Real Estate、SRG Properties、Harbor Real Estate、Driven Properties、Al Showaib Real Estate の11社です。
対象として書かれているのは、これらの参加事業者が所有または管理する、空室または対象となる住戸です。市場のすべての賃貸住戸が対象になるとは書かれていません。自分が貸している住戸、あるいは借りようとしている住戸がこの枠組みに入るかどうかは、その物件を管理している会社が参加しているかどうかで決まります。ここを取り違えると、「ドバイでは家賃を月払いにできるようになった」という一般論として読んでしまいます。
| 項目 | 発表に書かれていること |
|---|---|
| 選べる支払い | 月ごと・四半期ごと・半年ごとの分割 |
| あわせて提供されるもの | 参加事業者によるインセンティブと付加価値のパッケージ |
| 参加事業者 | 11社を名指し |
| 対象 | 参加事業者が所有または管理する、空室または対象となる住戸 |
| 段階 | パイロット段階への言及 |
| 項目 | 発表に書かれていないこと |
|---|---|
| 開始日 | 全面的に使えるようになる日付 |
| 費用 | 手数料や金利があるかどうか |
| 年額 | 分割にした場合に年額が変わるかどうか |
| 規模 | 対象となる住戸が何戸あるか |
| 発言者 | 氏名を伴う役職者の発言 |
発表には、支払いの選択肢を用意することが居住の質を高め、賃貸市場の安定を強め、より持続的で効率的な不動産の仕組みづくりに資するという趣旨の説明が置かれています。一方で、氏名を伴う役職者の発言は載っていません。パイロット段階という言葉は出てきますが、いつから全面的に使えるのかという日付は書かれていません。
「Rent Now, Pay Later」は、まだ報道の段階です
2026年の夏以降、「ドバイが家賃の後払いサービスを始める」という話を目にした読者がいるかもしれません。銀行が年額を先に貸主へ払い、入居者があとから分割で銀行へ返す、という仕組みが検討されていると報じられています。
この件について当サイトは数値を書きません。回数、金利の有無、対象者、開始日といった条件を、DLDの公式発表として確認できていないためです。発見元は Gulf News の2026年8月13日付の記事「Dubai to launch ‘Rent Now, Pay Later’ service with zero-interest instalments」で、そこにも現地紙 Emarat Al Youm の報道にもとづくこと、仕組みは検討中であること、条件は正式に開始される時点で公表される見込みであることが書かれています。正式に発表された情報ではありません。
報道されている数字をそのまま引き写すと、当サイトが確認した値のように読まれます。読者が同じ資料で検算できなくなるので、公式発表が出た時点でこの節を書き換えます。それまでは「そうした検討があると報じられている」という以上のことは書きません。上のFlexi Rentと混ぜて理解しないでください。片方はDLDが公表した取り組みで、もう片方は媒体の報道です。
支払いの回数と、賃料の上げ幅は別の制度です
混ざりやすいので分けておきます。支払いを分割にできるかどうかと、更新時に賃料をいくら上げられるかは、根拠になる規定が違います。
後者を定めているのは Decree No.43 of 2013 です。2013年12月18日に発せられ、同日から効力を持っています。更新時の増額の上限を、現在の賃料が同種の住戸の平均賃料からどれだけ下回っているかによって5段階に区切っています。
| 現在の賃料が平均賃料を下回る幅 | 更新時に認められる増額の上限 |
|---|---|
| 10%以下 | 増額なし |
| 11〜20% | 5% |
| 21〜30% | 10% |
| 31〜40% | 15% |
| 40%超 | 20% |
平均賃料は、RERA(不動産規制庁)が承認する「Rent Index of the Emirate of Dubai」によって決まると同令に書かれています。適用の範囲は、特別開発区域とフリーゾーン(DIFCを含む)の貸主も含むと明記されています。
支払いを12回に分けても、この上限の計算は変わりません。分割は支払いの時期の話であって、年額そのものを増減させる仕組みとしては発表されていません。DLDの発表にも、分割にすることで年額が変わるとは書かれていません。手数料や金利についても書かれていないので、実際に契約する場面では、年額と支払条件を必ず別々に確認してください。ひとつの合計額として提示されると、どちらの条件が変わったのかが見えなくなります。
貸す側にとって変わるのは、入金の時期です
日本からドバイの住戸を買って貸している読者にとって、分割払いは収支の「金額」ではなく「時期」に効きます。年1回の入金なら、その1回で1年分の管理費やサービスチャージ、修繕の原資をまとめて手当てできます。月次になると、入る側も出る側も年間を通じて分散します。どちらがよいかは、その物件で年間にどんな支出がいつ発生するかによって変わります。
円で受け取る読者には、もうひとつ論点があります。年1回の送金なら為替の水準は1回で決まりますが、月次になると受け取りが12回に分かれます。どちらが有利かは事後にしか分かりません。当社は賃料収入も利回りも、為替の損益も保証しません。ここで言えるのは、受け取りの回数が変われば、送金の回数と手数料の発生の仕方も変わるという事実だけです。
空室の観点では、支払いの負担が分散すれば入居者の裾野が広がるという見方があります。ただし、入居率や滞納率がどう動くかを示すデータは、発表にも法文にもありません。当サイトはその予測を書きません。判断の材料になるのは、いま自分の契約がどうなっていて、管理している会社がこの枠組みに参加しているかどうかという、確かめられる事実のほうです。
契約とEjari登録は、これまでどおり必要です
支払方法を分割へ変えても、契約と登録の枠組みは変わりません。Law No.26 of 2007 第4条は、対象となる賃貸契約とその変更をRERAへ登録することを求め、登録されていない契約について、司法当局や政府の各部門・機関が、その契約に関する紛争や請求を扱わないと定めています。
つまり、支払いの回数を変えたのに契約書と登録へ反映していない状態は、争いになったときに不利へ働きます。回数を変える合意をしたら、契約の条項として書き、DLDの「Register / Renew Tenancy Contract」の案内に沿って登録の内容を合わせてください。手順はEjari登録の記事に、契約全体で確認する論点はドバイ賃貸借法の解説にまとめています。
いま確認できること
法文と発表の範囲で、読者が自分で確かめられる項目を並べます。いずれも、この記事の出典に根拠があるものだけです。
- 自分の物件を管理している会社が、Flexi Rentの参加事業者11社に含まれているか
- いまの契約書に、支払日と回数がどう書かれているか
- 支払日の合意が書かれていない場合、年4回の均等前払いが既定値になること
- 回数を変えるなら、契約の変更と登録の内容をどう合わせるか
- 更新時の増額は、支払回数ではなく Rent Index と Decree No.43 of 2013 で決まること
発表にも法文にも書かれていないこと
推測で埋めずに、そのまま並べます。
- Flexi Rentが全面的に始まる日と、パイロット段階がいつ終わるのか
- 分割にした場合の手数料や金利の有無
- 参加事業者が今後増えるのか、増えるとしたらどのような基準か
- 対象になる住戸の具体的な条件
- 報道されている後払いサービスの回数・条件・開始日
追加の発表が出た時点で、この記事を更新します。
支払いの回数は、法律が最後に引き取ってくれる項目である一方、本来は契約で決める項目です。だからこそ、決めたことを契約書と登録に残せているかどうかが分かれ目になります。制度の変更は不動産政策・規制で追い、賃料と手取りの考え方は利回り・家賃収入、賃貸に関わる制度全体は法律・規制に置いています。