ドバイ土地局(DLD)は2026年9月7日、国際不動産展示会IPS 2026での取り組みを伝える発表の中で、初めて住宅を買う人向けの制度「First Time Home Buyer Programme」の実績を示しました。発表によると、2026年6月までに3,200人を超える居住者が最初の住宅を取得し、2025年7月の開始以降の売買はAED 5 billionを超え、登録した人は45,000人を上回っています。
先に結論を書きます。この制度は、日本に住んだままの人には使えません。公表されている参加条件の1つ目が「UAEの居住者であること」だからです。それでも読む価値があるのは、ドバイ政府が住宅の買い手をどの価格帯でどう増やそうとしているのかと、「特典」と呼ばれているものの中身が実際には何なのかが、政府の公表資料だけで確かめられるためです。この記事では、発表の数字、参加条件、特典の中身、参加事業者、そして書かれていないことの順に並べます。書かれていない項目は推測で埋めず、書かれていないと示します。
IPS 2026で示されたのは、開始から1年あまりの実績です
今回の発表は、DLDがIPS 2026で何をしたのかを伝える内容です。投資家向けの説明、公開データと不動産指標、規制の枠組み、国内人材の育成といった話題が並び、その中の1つとして初回購入者向けの制度が取り上げられています。制度そのものが新しくなったという記述はありません。示されたのは、2025年7月に始まった枠組みが1年あまりでどこまで進んだか、という実績です。
数字は3つで、それぞれ数えているものが違います。混ぜて読むと実態を取り違えるので、分けて確認します。1つ目の「3,200人超」は、実際に最初の住宅を取得した人の数で、2026年6月までの累計です。2つ目の「AED 5 billion超」は、その取得にともなう住宅の売買の額で、2025年7月の開始からの累計として示されています。3つ目の「45,000人超」は制度に登録した人の数です。登録した人と購入した人はまったく別の数で、登録者のうち購入まで進んだ人がどれだけいるかという割合は、発表に書かれていません。
同じ発表には、上半期に完成したプロジェクトの件数や新規に加わった住戸数といった市場全体の指標も含まれています。そちらは供給の側の話なので、上期に完成したプロジェクトの記事にまとめています。この記事で扱うのは、需要の側に働きかけるこの制度だけです。
対象になるのは、UAEに住んでいる人です
制度の入口は、DLDのサービス案内に4つの条件として並んでいます。年齢、居住、既存の所有、物件の価額の4つで、1つでも外れると対象になりません。
| 参加条件 | サービス案内に書かれている内容 |
|---|---|
| 居住 | UAEの居住者であること。国籍は問わないと書かれています |
| 既存の所有 | ドバイにフリーホールドの住宅用不動産を所有していないこと |
| 年齢 | 18歳以上であること |
| 物件の価額 | 対象はAED 5 million未満の物件 |
出典はDLDのFirst Time Home Buyer Programmeのサービス案内、確認日は2026年9月10日です。所得の水準は条件に入っていません。制度の立ち上げを伝えた2025年7月2日のドバイ政府メディアオフィスの発表でも、国籍と所得の水準を問わずに開かれた制度だと説明されています。裏を返すと、絞り込みは所得ではなく居住と所有の有無で行われているということです。
日本の読者にとって決定的なのは1つ目です。UAEに住んでいない人は、投資として物件を買うことはできても、この制度の登録はできません。ドバイに住んでいても、すでにフリーホールドの住宅を持っている人は2つ目で外れます。制度の名前のとおり、対象は「最初の1戸」を買う場面に限られています。
登録の手順も公表されています。DLDのウェブサイトかDubai RESTアプリから登録し、必要な情報を送ると、承認された場合にFirst Time Home Buyerのコードを含む確認のメールが届きます。参加事業者の窓口では、このコードを提示して特典を受ける形です。案内には、申込みや参加そのものに追加の費用はかからないと書かれています。通常の登録手数料や、ディベロッパー・銀行が定める費用は、特別な条件がない限りそのままかかります。
特典は4つ。値引きではなく、順番と支払い方の話です
サービス案内は、参加者が受けられるものを4つ挙げています。読むときに気をつけたいのは、4つのうち価格そのものに触れているのは1つだけだという点です。
| 特典 | 案内に書かれている内容 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 先行アクセス | 新しく売り出される物件と既存在庫への早い段階でのアクセス | 買える順番の話で、価格の話ではありません |
| 優遇価格 | 選ばれた住戸についての優遇された価格 | 対象の住戸も割引の幅も公表されていません |
| 登録手数料の分割 | 対象のクレジットカードによる登録手数料の柔軟な支払い | 分割であって、手数料そのものの割引ではありません |
| 住宅ローン | 参加する銀行を通じた条件のよい住宅ローン | 金利・融資比率・審査の基準は公表されていません |
3つ目の「登録手数料」が何を指すかは、別のサービス案内で確かめられます。DLDのProperty sale registrationの案内では、売買登録の手数料が売主に売買価額の2%、買主に2%と示されています。この制度の特典は、その手数料を対象のクレジットカードで分けて払えるようにするもので、率が下がるとは書かれていません。支払いの時期をずらせることと、負担が軽くなることは別です。購入時にかかる費用の全体像は購入費用・諸費用のカテゴリに、住宅ローンの前提は住宅ローンのカテゴリに置いています。
4つ目についても同じことが言えます。参加する銀行は5行と公表されていますが、その銀行が非参加の場合とどう条件を変えるのかは、案内にも発表にも書かれていません。「条件のよい住宅ローン」という説明だけを根拠に、金利や借入可能額を見積もることはできません。実際の条件は、取引しようとしている銀行に直接確認する必要があります。
数字は半年ごとに公表され、指標は毎回そろわない
この制度は、開始から4回にわたって数字が公表されています。並べると、何が積み上がったのかと、何が同じ値のまま再掲されたのかが分かります。
開始から半年の時点を伝えた2026年1月22日の発表では、2,000人を超える居住者が住宅を取得し、売買の額はAED 3.25 billion、登録した人は41,000人を超えたとされています。ここには買い手の内訳も1つだけ示されていて、購入された住戸のうち49%が、ドバイに5年以上住んでいる人によるものだったと書かれています。移り住んだばかりの人ではなく、長く住んでいる人が賃貸から購入へ動いたという説明です。
2026年6月8日の発表では、購入した人が3,200人超、売買の額がAED 5 billion超になり、参加ディベロッパーが9社増えたと伝えられています。そして9月7日のDLDの発表では、登録した人が45,000人超と更新された一方で、購入した人と売買の額は6月までの実績として同じ値が示されています。3つの指標が毎回そろって更新されるわけではありません。半年で増えた分を計算したくなりますが、指標の基準日がそろっていないため、当サイトでは増分を作らずに公表値をそのまま並べます。
参加している事業者は21社か22社か
参加事業者の数は、資料によって食い違います。どちらかが誤りだと決めつけられないので、両方を確認日つきで示します。
| 時点 | ディベロッパー | 銀行 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2025年7月2日 | 12社 | 5行 | ドバイ政府メディアオフィスの立ち上げ発表 |
| 2026年6月8日 | 22社(9社を追加) | 5行 | ドバイ政府メディアオフィスの発表 |
| 2026年9月10日 | 21社 | 5行 | DLDのサービス案内に掲載された一覧(当サイトの確認日) |
6月の発表は追加された9社の名前を挙げており、その中にはArada、Reportage Properties、SAMANA Developers、Sky View Real Estate、Qube Development、Manam、IRTH Group、4Direction Developments、Dubai World Trade Centreが含まれます。一方、DLDのサービス案内に並んでいる一覧は、当サイトが2026年9月10日に確認した時点で21社です。差がどこから生まれているのかは、どちらの資料にも書かれていません。掲載の更新のずれなのか、参加の状態が変わったのかを、当サイトの側で決めることはできません。銀行はどちらの資料でも5行で一致しています。
事業者の登録や免許そのものを確かめたい場合は、制度の参加一覧とは別の照会が必要です。仲介や登録の監督の枠組みはRERAとDLDの役割の解説にまとめています。
日本の読者にとって、この制度はどう関係するのか
繰り返しになりますが、日本に住んでいる人はこの制度の対象になりません。関係があるのは、UAEの居住資格を持って現地で暮らしている人です。それ以外の読者にとっての意味は、市場をどう読むかという点にあります。
読み取れることは2つです。1つは、この制度が働きかけている価格帯がAED 5 million未満だと明示されていることです。政府が居住者の需要を押し上げようとしている範囲が、価額の上限という形ではっきり示されています。もう1つは、1月の発表にあった49%という内訳から、ドバイに長く住んでいる層が買い手として動いていることが公表値で確かめられる点です。投資家の資金だけで動く市場だ、という単純な見方は、この数字とは合いません。
ただし、需要を支える制度があることと、個別の物件が値上がりすることは別の話です。当社は不動産の値上がりも賃料収入も利回りも保証しません。制度の対象になる価格帯だから安全だ、という説明もしません。買い手が増えるかどうかと、自分が買う住戸の条件がよいかどうかは、別々に確かめる必要があります。制度そのものの動きは不動産政策・規制で追い、登録手続きの側の変更はInitial Registrationの解説にまとめています。市場の数字はドバイの不動産データから確認できます。
発表にも案内にも書かれていないこと
推測で埋めずに、そのまま並べます。
- 優遇価格の割引の幅と、対象になる住戸の範囲
- 参加する銀行が提示する金利、融資比率、審査の基準
- 登録手数料を分割できる回数、対象になるクレジットカードの範囲
- 発行されるコードの有効期限と、登録から購入までに使える期間
- 登録した45,000人超のうち、購入まで進んだ人の割合
- 対象がオフプランに限られるのか、完成済みの住戸も含むのかの明示
- 制度の終了時期、または期限が設けられているかどうか
- 参加ディベロッパーの数が資料によって21社と22社に分かれている理由
これらが公表された時点で、この記事に出典と確認日を添えて足します。制度を紹介する記事の中には、割引の幅や金利に踏み込んでいるものもありますが、当サイトでは政府の資料で確かめられない事項は書きません。読者が同じページを開いて、同じ結論に行き着けることを優先します。