アブダビの不動産取引が何件だったかという数字は、毎期きちんと公表されています。ところが、その1件が何を指しているのかは、数字の横には書かれていません。先に結論を書きます。公表されている件数は、契約が成立した数ではなく、ADRECに登録された手続きの数です。だから、誰が申請を起票したのか、いつ受け付けられたのかで、どの期の数字に入るかが決まります。しかも、あなたが住戸を1戸買っただけでも、売買と抵当で2件になることがあります。この記事では、その1件がどう作られるのかを、ADRECの手続き案内とアブダビ政府メディアオフィスの発表で確認できた範囲だけで追います。件数そのものの推移や期間の比べ方はアブダビ不動産の市場規模に分けて書いているので、ここでは1件の中身に絞ります。
公表されている件数は、契約ではなく登録の数です
まず、どこで数えられているのかを押さえます。アブダビの不動産の売買も、抵当権の登記も、ADRECのDARIという仕組みの上で申請します。その申請が受け付けられ、処理されたときに1件が立ちます。
ここが日本の感覚とずれるところです。契約書に署名した日ではありません。申請が受け付けられた日が属する期の数字に入ります。年をまたいで手続きが進めば、契約は前の年、記録は次の年ということが起こります。
この違いを頭に入れておくと、公表値の読み方が変わります。ある期の件数が伸びていても、その期に契約が集中したとは限りません。前の期に決まった話が、この期にまとめて登録されただけかもしれない。当サイトが月ごとの細かい増減を語らないのは、契約の時期と登録の時期を切り分ける材料が公表されていないからです。
中古の移転は、売主が起票します
完成済みの住戸を売り買いする場合、DARIで手続きを始めるのは売主です。ADRECの案内には、売却の前に売主がそろえておくものが並んでいます。1か月(30日)を超えない評価証明書と、6か月(180日)を超えない権利証です。あわせて、投資区域や開発区域にあたることについてのディベロッパーからの書面、抵当が付いていないこと、長期のリース契約が無いこと、裁判所の命令が出ていないことも条件として挙げられています。
手続きそのものは5つの段に分かれています。買主の情報と書類を入れ、売却の日・価格・支払い方法を入れ、必要なら委任状を登録し、書類をあげ、最後に内容を確かめて買主へ送ります。買主の側から見ると、自分では起票できません。売主が動かないかぎり、記録は立ちません。
手数料の基準も案内に書かれています。評価額または売却価格のうち高いほうに対する2パーセントです。市政の手数料は手続きの中で自動的に計算されるとされています。ここで注意したいのは、契約書に書いた額だけで基準が決まるわけではないことです。評価額のほうが高ければ、そちらが基準になります。価格そのものの区別はアブダビの不動産価格データで詳しく扱いました。
オフプランは、ディベロッパーだけが起票します
完成前の住戸だと、起票する人が変わります。ADRECのオフプラン住戸の売買登録の案内には、この手続きを起票できるのは不動産ディベロッパーだけだと明記されています。入力するのは、販売の日、プロジェクトの完成予定日、販売価格、支払いプランの回数と条件、仲介の情報、買主の情報などです。
手数料は販売価格の総額に対する2パーセントで、ここまでは中古と同じ率です。違うのは基準になる額です。評価証明書は出てきません。販売価格がそのまま基準になります。
そして、オフプランには期限があります。契約の日から21日を過ぎて登録した場合、AED10,000が加算されると書かれています。中古の案内には登録の期限そのものが書かれていないので、この点は対照的です。買主にとっての意味は単純です。自分では起票できず、期限を守る責任はディベロッパーの側にあります。支払いを進める前に、登録の状況を確かめてください。
抵当権の登記は、売買とは別の1件です
融資を使う場合、もうひとつの手続きが走ります。抵当権の登記です。ADRECの案内では、これを起票するのは所有者で、DARIのサービスから対象の住戸を選び、住戸の情報と現在の抵当の状況を確かめ、銀行を選んで書類をあげ、申請を出します。そのあと銀行の側が契約を作り、銀行の確認者が承認してから、自治体の処理と支払いに進みます。
つまり、売買の登録と抵当権の登記は、起票する人も承認する人も別です。同じ住戸を買って融資を受ければ、記録は2件になります。逆に、売買がなくても、借り換えのように抵当だけが動くこともあります。
オフプランについては、引き渡し前に抵当権を登記する枠組みが新しく動き始めています。何が変わり、何が変わらないのかはアブダビのオフプランと住宅ローンにまとめました。
期限は、契約の日から進みます
3つの手続きを、起票する人と基準と期限で並べます。同じ2パーセントでも、掛ける相手が違うことに注意してください。
| 手続き | 起票する人 | 手数料の基準になる額 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 中古(完成済み)の所有権移転 | 売主 | 評価額と売却価格の高いほう | 案内に記載がありません |
| オフプラン住戸の売買登録 | ディベロッパーだけ | 販売価格 | 契約の日から21日 |
| 抵当権の登記 | 所有者(銀行が承認) | 案内に記載がありません | 案内に記載がありません |
「記載がありません」と書いた欄は、期限や基準が存在しないという意味ではありません。当サイトが参照した案内ページに書かれていないという意味です。無いものを埋めるより、確かめられなかったことを残すほうが役に立ちます。
区分ごとに、件数が公表されている行とされていない行があります
ここまでの手続きが、公表値ではどう並ぶのかを見ます。アブダビ政府メディアオフィスの発表から、区分ごとの金額と件数を書き写します。
| 区分 | 2026年上半期 | 2025年通年 |
|---|---|---|
| 売買 | AED86.1 billion/16,838件 | AED99.4 billion/25,604件 |
| 抵当 | AED26.7 billion/8,876件 | AED42.7 billion/17,210件 |
| ムサタハ・長期リース | AED4 billion/件数の記載がありません | 記載がありません |
| 贈与 | AED311.5 million/件数の記載がありません | 記載がありません |
| 合計 | AED117 billion/件数の記載がありません | AED142 billion/42,814件 |
この表から2つのことが読めます。ひとつは、すべての区分に件数が公表されているわけではないことです。金額だけの行があります。もうひとつは、期によって公表される項目が違うことです。2025年の通年は合計の件数が出ていますが、2026年上半期は伸び率だけで実数がありません。時系列で追いたい項目は、期ごとに記載の有無を確かめてください。
売買と抵当を足したくなりますが、足せません。上で見たとおり、同じ購入から2件が立つことがあるからです。伸び方も別々です。2026年上半期の売買は、金額で163.7パーセントの増加とされています。合計のほうは金額で112パーセント、件数で61.7パーセントの増加です。区分ごとに動きが違うので、合計だけを見て市場を語らないでください。
記録に立ったかを確かめる4つの問い
自分の取引がどう記録されるのかは、次の4つを順に確かめれば整理できます。
とくに大きいのは1つめです。中古なら売主、オフプランならディベロッパーが起票します。買い手が待っているだけでは、記録は立ちません。手続きが止まっているように見えるときは、まず誰の順番なのかを確かめてください。
4つめも見落としがちです。融資を使った場合、売買が登録されても抵当権の登記はまだかもしれません。所有者が起票し、銀行が作って承認する流れなので、関わる人が増えるぶん時間もかかります。
集計された取引データは、DARIで毎日更新されています
登録された1件が、その後どこで集計として見えるのかも確認しておきます。ADRECの案内には、DARIのホーム画面に出ている市場データについて、アブダビの自治体交通局(DMT)が直接提供していると書かれています。更新の頻度についても、マーケットインサイトの画面は毎日、自動で更新されると案内されています。
つまり、公開されている画面はその日ごとの姿です。ある日に見た数字を引用するなら、いつ見たのかを必ず書き残してください。日をまたいで開けば、同じ期間の数字でも増えています。登録が進むぶんだけ、あとから積み上がるからです。
この記事で確認できなかったこと
ADRECの公開ダッシュボードのページと、その画面が読み込んでいるデータの取得先は、確認日の時点で当サイトの自動取得に応答しませんでした。ダッシュボードそのものの数字は、この記事では扱っていません。人がブラウザで開く経路は残っているので、原典はご自身で開いて確かめてください。
登録の申請が受け付けられてから集計に反映されるまでに、どれくらいの時間差があるのかも分かりませんでした。毎日更新されるとは書かれていますが、当日ぶんが当日に載るのかどうかは、参照した案内ページに記載がありません。
抵当権の登記にかかる費用も、参照した案内ページには金額の記載がありませんでした。売買の2パーセントのように率で示されているのか、定額なのかを確かめられていません。確かめられていない金額を、他の手続きから類推して書くことはしません。
そして、区分ごとの件数が地区別・物件タイプ別にどこまで公表されているかも、この記事では扱いませんでした。公表の範囲が資料ごとに違うため、確かめられた分だけを別の記事で扱います。
値上がりも賃料収入も保証しません
当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれについても保証しません。この記事で扱ったのは登録の仕組みと、登録された過去の記録です。件数が増えていることは、これから買う住戸が値上がりすることの証明にはなりません。
登録の件数が伸びる理由もひとつではありません。取引そのものが増えることもあれば、手続きが早く進んで前の期の分が寄ることもあります。件数の増減を、そのまま市場の勢いに置き換えないでください。
伸び率を見るときは、必ず元の金額と件数に戻ってください。前の期の水準が低ければ、同じ増加でも率は大きく出ます。この記事で率より先に実数を置いているのは、そのためです。
まとめ
アブダビで公表されている不動産取引の件数は、契約の数ではなく、ADRECに登録された手続きの数です。だから、いつ記録に立つかは、契約の日ではなく登録が受け付けられた日で決まります。
起票する人は手続きによって違います。中古の所有権移転は売主、オフプラン住戸の売買登録はディベロッパーだけ、抵当権の登記は所有者です。手数料はどちらも2パーセントですが、基準になる額が中古では評価額と売却価格の高いほう、オフプランでは販売価格と分かれます。オフプランには契約の日から21日という期限があり、過ぎるとAED10,000が加算されます。
そして、1戸の購入から売買と抵当の2件が立つことがあります。区分ごとの金額と件数を、足さずにそのまま読んでください。当サイトが持っているアブダビのデータはアブダビのデータから一覧できます。