アブダビで住戸の価格を調べ始めると、日本の路線価や取引価格情報のような「一覧できる相場表」が見つからないことに気づきます。先に結論を書きます。この首長国で「価格」と呼ばれている数字は少なくとも4つあり、決める人も、確認できる場所も、手続きでの役割も違います。広告に出ている募集価格、売主と買主が合意した契約価格、有資格の評価人が出す評価額、そしてADRECのDARIに登録されて集計に載る登録額です。手続きの金額に効くのは最後の登録額で、しかもその基準は中古とオフプランで違います。この記事では、4つの違いと、提示された価格を自分で検算する手順を、ADRECの案内ページとアブダビ政府メディアオフィスの発表で確認できた範囲だけで整理します。首長国全体の取引額の読み方はアブダビ不動産の市場規模に、資料ごとの細かさの違いはアブダビのエリア別データにまとめているので、ここでは価格そのものの扱いに絞ります。
「価格」と呼ばれる数字は4つあります
同じ住戸について、次の4つはどれも「価格」と呼ばれます。ところが指しているものが違うので、そのまま横に並べると比較になりません。
募集価格は、広告に出ている売り出しの額です。決めるのは売主と仲介で、買い手が現れなければ動きます。契約価格は、売主と買主が実際に合意した額です。評価額は、有資格の評価人が出す額で、DARIでは評価証明書という形になります。登録額は、手続きの中でDARIに登録され、集計に載る値です。
| 呼び方 | 誰が決めるか | どこで確認できるか | 手続きでの役割 |
|---|---|---|---|
| 募集価格 | 売主と仲介 | 広告。ADRECのMadhmounに検証済みの掲載がある | 交渉の出発点。成約額ではありません |
| 契約価格 | 売主と買主 | 当事者の契約書 | 売却の申請に入力する額 |
| 評価額 | 有資格の評価人 | DARIで発行される評価証明書 | 中古の移転で、基準の候補になります |
| 登録額 | 手続きの結果として決まる | 集計として公表される | 手数料の基準になり、市場の数字として残ります |
この記事で扱うのは、この4つを取り違えないための区別です。「アブダビの物件はいくらか」という問いに、一枚の表で答えられる公的な資料を、当サイトは確認日の時点で見つけられませんでした。無いものを埋めるより、いま確かめられる値の性質を書くほうが役に立つと考えています。
中古の移転では、評価額と契約価格の高いほうが基準です
ADRECのDARIに置かれている売買手続きの案内には、売主が用意するものとして1か月(30日)を超えない評価証明書が挙げられています。そして手数料について、評価額または売却価格のうち高いほうに対する2パーセントと書かれています。市政手数料も、手続きの中で自動的に計算されると説明されています。
ここが、価格を読むうえでいちばん大事な点です。契約書に書いた額だけで基準が決まるわけではありません。評価額のほうが高ければ、そちらが基準になります。つまりアブダビでは、当事者が決めた額と、第三者が出した額を突き合わせる仕組みが手続きの中に組み込まれています。
読者にとっての意味は2つあります。ひとつは、提示された価格が評価額から大きく離れていないかを確かめる意味があるということです。もうひとつは、手数料の額から逆算すれば、どちらが基準になったのかが分かるということです。費用の全体像と、どの費用に金額の公表があるかはアブダビ不動産の購入費用にまとめています。
評価証明書そのものは、DARIのサービス案内に料金が出ています。住戸1件の評価証明書を単体で申請する場合はAED1,000で、書類は不要と書かれています。有効な期間が1か月なので、売却の時期が動くと取り直しになります。価格の交渉が長引いたときは、証明書の日付を必ず見てください。
オフプランは、ディベロッパーが販売価格を登録します
完成前の住戸を買う場合、手続きの形が変わります。DARIのオフプラン住戸の売買登録の案内には、ディベロッパーだけがこの手続きを起票すると書かれています。入力するのは、販売の日、プロジェクトの完成予定日、そして販売価格です。手数料は販売価格の総額に対する2パーセントで、契約の日から21日を過ぎて登録した場合はAED10,000が加算されるとされています。
中古の移転と読み比べると、違いがはっきりします。中古では評価額との比較が入りますが、オフプランの案内に評価証明書は出てきません。基準になるのは販売価格です。一方で、中古の案内には登録の期限が書かれていませんが、オフプランには日数と遅れたときの加算額が明記されています。
買主の側から見ると、オフプランでは自分で登録を起票できません。登録されたかどうか、いくらで登録されたかは、ディベロッパーの手続きに依存します。だからこそ、支払いを進める前に登録の状況を確認してください。手続きの順序そのものはアブダビ不動産の買い方で扱っています。
集計された価格データは、DARIで毎日更新されています
登録された値がどこで見られるかも、公表ページで確認できます。DARIのサポートページには、ホーム画面の市場データについて、アブダビの自治体交通局(DMT)が直接提供していると書かれています。別の項目では、そのデータはDMTが検証しており正確だと説明されています。更新の頻度についても、マーケットインサイトの画面は毎日、自動で更新されると案内されています。
一方で、同じサポートページは、より詳しい分析や高度な道具が必要な場合はDARIの窓口へ問い合わせるようにと書いています。公開されている画面は概観です。エリアや期間を自分で切り替えて掘っていく用途には設計されていません。当サイトがドバイのように1件ずつのデータを集計し直したページをアブダビで作っていないのは、この違いによるものです。
首長国全体の売買額は公表されていますが、1戸あたりは出ていません
アブダビ政府メディアオフィスは、2026年上半期の不動産取引について、総額がAED117 billionに達したと発表しました。前年の同じ期間と比べて、金額で112パーセント、件数で61.7パーセントの増加です。内訳のうち売買はAED86.1 billionで16,838件、金額では163.7パーセントの増加とされています。抵当はAED26.7 billionで8,876件です。
ここで「売買の金額を件数で割れば1戸あたりの価格になるのでは」と考えたくなります。当サイトはその割り算をした値を本文に書きません。理由は3つあります。
まず、発表に無い数字になるからです。読者が出典にあたっても、同じ値が見つかりません。次に、分母の定義を決めなければならないからです。売買の件数には、住戸だけでなく土地や区画も含まれ得ます。何を含めて何を除いたのかを共有しないまま平均を出すと、他社の数字と比べたときに差の原因が分からなくなります。そして3つめに、平均と中央値のどちらを見ているのかが混ざるからです。大型の登録が数件入るだけで平均は動きます。
| 区分 | 2026年上半期の公表値 | 件数 | 価格を読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| 取引の総額 | AED117 billion | 記載がありません | 売買以外の登録も含みます |
| 売買 | AED86.1 billion | 16,838件 | 1戸あたりの額は公表されていません |
| 抵当 | AED26.7 billion | 8,876件 | 融資の登記であり、購入額ではありません |
募集価格は「検証済み」でも、成約額ではありません
ADRECは、掲載情報を扱う仕組みとしてMadhmounを導入したと発表しています。発表では、掲載される物件はいずれも検証されており、実時間で更新され、誤解を招く広告をなくすと説明されています。掲載の正確さが担保されることは、買う側にとって大きな前進です。
それでも、検証済みであることと、その額で売れることは別です。掲載されているのは売り出しの条件であり、交渉の前の数字です。募集価格の一覧を集めて「相場」と呼ぶと、実際に登録された額とはずれた水準を見ることになります。募集価格を見るときは、掲載日と、同じ建物の他の住戸の条件をあわせて確かめてください。
賃料の指標値と価格を、そのまま割らないでください
ADRECは住宅向けの賃料インデックスも立ち上げています。発表によれば、住宅・商業・工業の物件を対象に、アブダビ各地のエリアにある物件について四半期単位の指標となる賃料が見られると説明されています。
利回りを知りたい方は、ここで指標賃料を募集価格で割りたくなります。別々の系列を割ることになるので、その値は当サイトでは使いません。指標賃料は成約額ではなく指標であり、募集価格も成約額ではありません。分子と分母のどちらも「実際に決まった額」ではない計算になります。賃料の資料の性質はアブダビのエリア別データで詳しく扱っています。
比べる前にそろえる条件があります
同じエリアの同じ広さでも、次の条件が違えば価格は比べられません。
権利の種類がまず違います。所有権なのか、ムサタハなのか、長期リースなのかで、買っているものが違います。区分の意味と年数はアブダビの不動産所有権の種類にまとめました。次に、投資区域の中かどうかです。外国人が取得できる権利は区域によって変わります。
そのうえで、完成済みかオフプランか、支払いの条件がどうなっているか、家具が付くかどうか、面積をどう取っているかを確かめます。オフプランの分割払いは、支払いの時期が違えば実質の負担が変わります。条件をそろえずに並べた表は、価格の比較ではなく条件の寄せ集めです。
この記事で確認できなかったこと
ADRECの公式サイトは、当サイトの自動取得では開けませんでした。確認日の時点でCAPTCHAの画面で止まります。当サイトはCAPTCHAを機械で越えない方針なので、ADRECが公表している市場レポートの本文と、そこに載っている価格の動きや地区ごとの内訳は、この記事では数値として扱っていません。人がブラウザで開く経路は残っているため、原典はADRECのサイトで直接確かめてください。
アブダビ統計センターのサイトにも接続できていません。したがって、価格の指数がどのように作られているかについては、この記事では説明しません。
そして、エリア別・物件種別ごとの1平方メートルあたりの価格表について、公的に公表されているものを確認できませんでした。民間の集計は複数ありますが、集計の対象と除外の条件が公表されていないものは、当サイトの出典にしていません。確かめられた事実と、確かめられていない数字を同じページに並べないためです。
値上がりも賃料収入も保証しません
当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれについても保証しません。登録額の集計は過去の記録であって、この先の価格を示すものではありません。評価額も、その時点の評価であって将来の売却額の約束ではありません。
伸び率にも気をつけてください。前の期間の水準が低ければ、同じ増加額でも伸び率は大きく出ます。価格を判断するときは、率ではなく、どの値がいくらだったのかに戻ってください。
まとめ
アブダビで「価格」と呼ばれる数字は4つあります。募集価格、契約価格、評価額、そして登録額です。
手続きの基準になるのは登録額で、その決まり方は中古とオフプランで違います。中古の移転では評価額と売却価格の高いほうが基準になり、売主は1か月を超えない評価証明書を用意します。オフプランではディベロッパーだけが起票し、販売価格が基準になります。契約の日から21日という期限と、遅れたときの加算額も公表されています。
集計された値は、DMTが提供しDMTが検証したデータとしてDARIで毎日更新されますが、公開されている画面は概観です。首長国全体の売買額と件数は半期の発表で確認できるものの、1戸あたりの価格は公表されていません。当サイトが割り算で作らないのは、出典にあたった読者が同じ値にたどり着けなくなるからです。
価格を調べるときは、いま見ている数字が4つのどれなのかを最初に決めてください。当サイトが持っているアブダビのデータはアブダビのデータから一覧できます。