「ドバイはオフプランが中心」という説明をよく見かけます。これは件数の話です。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)がオープンデータとして配っている登記の記録を当サイトが集計すると、2026年1月1日から8月25日までにSalesとして登記された売買110,525件のうち、オフプラン(建設前・建設中に契約されたもの)は75,805件で、比率は68.6%でした。
ところが同じ記録を取引額の合計で見ると、多い側が入れ替わります。オフプランの合計は168,128,751,777 AED、完成物件の合計は176,523,922,135 AEDです。金額では完成物件の側のほうが多く、オフプランは5割を下回ります。件数で7割弱を占める側が、金額では半分に届きません。
この記事が扱うのはオフプラン取引の「量」です。どちらが得かという話ではなく、「オフプランが何割」という数字を見たときに、それが件数の割合なのか金額の割合なのかを区別して読めるようにするためのものです。月ごとの比率の動き、物件種別の内訳、間取り別の件数まで、同じ1つの集計から順に見ていきます。金額はすべてAEDのままで、円には換算していません。
はじめに出典の層を断っておきます。この記事に出す集計値は、DLDが公表している集計ではなく、DLDの原記録を当サイトが集計したものです。「DLDの公式データ」と「DLDのデータをもとにした当サイトの集計」は別のものなので、引用するときは後者として扱ってください。データ系列の入口はドバイのデータにまとめています。特定の物件や事業者を勧める記事ではありません。値上がり、賃料収入、利回りのいずれも当社は保証しません。
オフプランとして数えている行
数え方を先に決めます。取得した記録の全体は146,369行で、そこから取引の種類がSalesのものだけを残しました。抵当権の登録(Mortgage)30,043行と贈与(Gifts)5,801行は外しています。抵当権は所有者が変わる取引ではなく、贈与の価格は市場の水準を表さないためです。残った110,525行を、DLDの記録にある区分でオフプランと完成物件に分けています。
件数は行数、つまり登記された物件の数です。DLDの記録では1つの取引番号が複数行に分かれることがあるため、「取引の件数」ではなく「登記された物件の件数」として読んでください。オフプラン75,805件と完成物件34,720件を足すと110,525件になり、集計対象のSalesと一致します。
取引額の合計には、1つ注意があります。オフプランの168,128,751,777 AEDと完成物件の176,523,922,135 AEDを足すと、全体の344,652,673,911 AEDに対して末尾が1 AEDだけ多くなります。桁の大きい値を足し合わせるときの丸めによるもので、集計の漏れや二重計上ではありません。読者が同じ手順で足したときに合わないと困るので、そのまま書いておきます。
対象のエリアは240区画、プロジェクトは2,896件にまたがります。所有権の形では、フリーホールド(自由保有)の割合がオフプランで98%、完成物件で94.8%でした。つまりここで見ているのは「ドバイの住戸1戸の値段」ではなく、この期間に登記された不動産の全体です。
自分で同じ数字を取り直す場合は、DLDのオープンデータのページから取引(Transactions)のデータセットを取得します。照会のたびにCAPTCHAを人が解く必要がありますが、期間を指定して取れるので、1か月分を1回のクエリでそろえられます。当サイトでは機械でCAPTCHAを越えることはせず、1回の照会ごとに人が解いています。
件数と金額で、多い側が入れ替わります
同じ110,525件を、件数で分けた場合と取引額の合計で分けた場合を上下に並べました。
件数の帯では、境目が真ん中より右にあります。オフプランが68.6%なので、全体の3分の2を超えています。金額の帯では、境目が真ん中より左へ移ります。合計額が多いのは完成物件の側です。
ここから言えるのは、「ドバイの不動産取引の7割はオフプラン」という文と「ドバイの不動産に流れた資金の7割はオフプラン」という文が、同じデータから出てくる別の主張だということです。前者は正しく、後者は誤りです。見かけた数字がどちらの割合なのかを確かめないまま使うと、市場の規模を取り違えます。
入れ替わる理由は、平均と面積にあります
なぜ件数で多い側が金額で少なくなるのか。合計額は「件数×1件あたりの金額」なので、1件あたりの金額を見ます。ここでは中央値と平均の両方を並べます。合計額を決めるのは平均のほうで、中央値ではありません。
| 指標 | オフプラン | 完成物件 |
|---|---|---|
| 登記の件数 | 75,805件 | 34,720件 |
| 取引額の合計 | 168,128,751,777 AED | 176,523,922,135 AED |
| 取引価格の中央値 | 1,359,800 AED | 1,700,000 AED |
| 取引価格の平均 | 2,217,911 AED | 5,084,214 AED |
| 取引価格の最高額 | 422,000,000 AED | 3,130,254,657 AED |
| 面積あたり単価の中央値 | 19,304 AED/㎡ | 15,679 AED/㎡ |
| 面積あたり単価の平均 | 22,170 AED/㎡ | 17,637 AED/㎡ |
| 面積の中央値 | 72.5 ㎡ | 109.3 ㎡ |
| 面積の平均 | 90.8 ㎡ | 616.4 ㎡ |
中央値で見ると、両者の差は1,359,800 AEDと1,700,000 AEDで、それほど離れていません。ところが平均は2,217,911 AEDと5,084,214 AEDで、2倍以上開きます。中央値の差より平均の差のほうがずっと大きい、というのがこの表のいちばん重要な点です。
差がどこから来ているかは、最高額と面積の行に出ています。オフプランの最高額は422,000,000 AEDですが、完成物件の最高額は3,130,254,657 AEDです。面積の平均も、オフプランが90.8 ㎡に対して完成物件は616.4 ㎡あります。完成物件の面積の中央値は109.3 ㎡ですから、平均が中央値の5倍以上になるほど広いものが少数混じっているということです。土地や一棟の建物の登記がここに入ります。
オフプランの側は、面積の中央値72.5 ㎡に対して平均90.8 ㎡で、散らばりが小さいままです。建設前に契約される住戸は大きさがそろっており、桁違いの登記が入りにくいためです。結果として、件数が2倍以上あっても合計額では追い越されません。
平均と中央値のどちらが正しいという話ではなく、答えている問いが違います。市場に流れた金額の規模を知りたいなら平均と合計、真ん中あたりの取引を知りたいなら中央値です。中央値どうしの比較と、そこから予算を判断する手順はドバイ不動産の価格帯分布で扱いました。この記事が見ているのは、その中央値では見えない合計と平均の側です。
月ごとの比率は動きますが、理由は比率では決まりません
次に、オフプランの比率が期間の中でどう動いたかを見ます。下の図は、上に比率、下にその分母となる月ごとの登記件数を並べたものです。
比率は1月が64.3%、2月が62.1%で、期間の中ではこの2か月がいちばん低くなっています。3月に70.1%へ上がり、4月の72.9%が最も高い月です。5月72.3%、6月72.5%と続き、7月は69.1%へ下がります。期間を通じて60%台前半から70%台前半のあいだで動いており、一方向に動き続けてはいません。
ここで比率だけを見て「オフプランが増えた」と読まないでください。比率は割り算の結果なので、分子が増えても分母が減っても上がります。下の棒を見ると、分母そのものが大きく動いています。1月は17,413件、2月は17,028件ですが、5月は10,273件です。比率が上がった月に、登記の件数が増えているとは限りません。実際、比率が最も高い4月の件数は14,021件で、比率が最も低い2月の17,028件より少ないです。
では月ごとのオフプランの件数を出せばよいのではないか、と考えるところですが、この記事ではそれをしていません。当サイトの集計が月別に持っているのは比率までで、月別のオフプランの件数は持っていないからです。比率は小数第1位までに丸めてあるため、件数に掛け戻すと数十件の誤差が入ります。誤差つきの件数を「集計値」として出すと、読者が同じ数字を再現できません。掛けて出せる数字を、出せる数字として扱わないという判断です。
8月の69.0%と10,203件も、他の月と同じようには読めません。この月は25日までの記録で、観測している日数が他の月より短いからです。件数が少ないことだけを見て取引が縮んだと判断できません。白抜きの棒と破線は、そこを混ぜないための印です。
さらに、この期間は当年ぶんしか取れていません。DLDの照会画面が当年の範囲しか返さないため、前年の同じ月と比べることができません。「去年よりオフプランの比率が上がったのか」という問いには、この集計では答えられません。
オフプランの中身はアパートメントだけではありません
オフプランとして登記された75,805件を、DLDの物件種別(PROPERTY_SUB_TYPE_EN)で分けます。
| 物件種別 | 件数 | 取引価格の中央値(AED) |
|---|---|---|
| アパートメント(Flat) | 65,425 | 1,251,000 |
| ヴィラ・戸建て(Villa) | 6,333 | 2,982,000 |
| オフィス(Office) | 2,067 | 2,882,648 |
| ホテルアパートメント(Hotel Apartment) | 1,069 | 633,000 |
| 店舗(Shop) | 642 | 3,563,970 |
| ホテル客室(Hotel Rooms) | 264 | 1,051,650 |
| Show Rooms | 5 | 4,620,000 |
アパートメント(原語はFlat)が65,425件で大半を占めますが、オフィスが2,067件、店舗が642件あります。オフプランは住戸だけの話ではありません。検討しているのが住戸なら、この表の1行目と2行目だけを見るほうが近い数字になります。
いちばん中央値が低いのはホテルアパートメントの633,000 AEDです。ホテルの運営が入る住戸で、1件あたりの金額はアパートメントより小さく出ています。件数が1,069件なので、全体の水準を動かすほどの量ではありません。最後のShow Roomsは5件しかなく、当サイトの用語辞書に日本語の訳を確定できていないため、原語のまま出しています。読みを当てずに英語で残すのは、読者がDLDの原データと突き合わせられるようにするためです。
この表には、確認できていない食い違いが1つあります。当サイトの集計では、用途の列から見た住宅の割合はオフプラン側が100%と出る一方、この物件種別の列ではオフィスや店舗が含まれています。DLDの記録では用途と物件種別が別の列として入っているためですが、なぜ両者が一致しないのかは確認できていません。そのためこの記事では物件種別の列だけで読み、用途の列の割合は使っていません。
間取り別では、寝室が多いほど高いとは並びません
同じ75,805件を、DLDの記録にあるROOMS(間取り)の区分で分けます。件数の多い順に並べ、各区分の取引価格の中央値を右に添えました。
いちばん多いのは1ベッドルームの26,344件で、次がストゥディオの22,676件です。この2つを合わせるとオフプラン全体の6割を超えます(当サイトの計算)。2ベッドルームが14,447件、3ベッドルームは4,270件まで落ちます。オフプランの件数は、小さい住戸に強く寄っています。
そのうえで、中央値の並びに引っかかるところがあります。3ベッドルームの中央値は3,695,444 AEDですが、4ベッドルームは2,903,000 AEDで、寝室が1つ多い側のほうが安く出ています。件数は4,270件と3,847件で、どちらも少なくはありません。
これは「4ベッドルームのほうが安く買える」という意味ではありません。中央値はその区分の中で真ん中の1件を指すだけなので、どのエリアのどのプロジェクトが多く登記されたかで動きます。間取りが同じでも、登記された区画の構成が違えば中央値は動きます。この集計からは、どの区画の寄与でこの並びになったのかを特定できません。間取りの区分だけで価格の順番を説明しないでください。エリアをそろえて見直す手順はドバイのエリア別データにあります。
間取りの読み方にも注意が必要です。1 B/Rは寝室(Bedroom)が1つという意味で、日本の1LDKとは数え方が違います。キッチンが独立しているかどうか、メイド室をどう扱うかが違うため、おおむね対応するとしか言えません。6ベッドルームは39件しかなく、中央値27,457,850 AEDはその39件の真ん中の1件にすぎません。件数が少ない区分の中央値を相場として扱わないでください。
この件数は、どの手続きから生まれるのか
オフプランとして登記された75,805件は、完成した住戸の所有権の移転ではありません。建設前・建設中の契約を記録する初期登録の手続きから生まれています。買主が直接操作する画面ではなく、申請するのは開発会社の側です。
この発表で統合されたと書かれているのは3つです。プロジェクトの登録、不動産取引の登録、エスクロー口座の管理です。つまりオフプランの1件が記録に現れる前に、プロジェクトが登録されており、代金の受け皿となる口座が管理されている、という順序があります。発表の中身と、買主側の確認事項がそれで変わるかどうかはDLDがInitial Registrationを開始で扱っています。
供給の側の記録も別に配られています。当サイトの集計では、この期間のプロジェクトの登録は368件、登録された住戸は87,405戸、ヴィラは14,305棟、エスクロー口座の記載があるものは271件、関わる開発会社は230社でした。この368件は登録されたプロジェクトの数で、75,805件の取引とは別の数え方です。同じ数字として足したり比べたりできません。
検討している案件を同じ項目で横に並べたい場合は、登録簿で埋まる列と埋まらない列を分けておく必要があります。価格や支払いプランは登録簿には入っていないため、ドバイのオフプラン物件を比較するで、埋まる列と埋まらない列を整理しています。
この集計では答えられないこと
最後に、この数字で言えないことを並べます。
これは登記された取引の記録です。売り出し中の価格や、成約に至らなかった条件は入っていません。いま募集されているオフプランの価格が、この集計のどこに当たるかを知るには、募集価格の側を別に調べる必要があります。登記の価格と募集の価格は違う数字です。
完成の予定時期も、この集計には入っていません。オフプランとして登記された75,805件が、いつ引き渡されるのかはここから読めません。完成の実績については、DLDが公表した上期の指標をドバイの上期の完成実績で扱っています。こちらはDLDが公表した数字そのもので、当サイトの集計ではありません。出典の層が違うので、同じ表に混ぜないでください。
契約の解除やキャンセルの件数も分かりません。登記の記録は成立した取引を並べたもので、後から取り消されたものがどう扱われるかは、この集計の範囲外です。エスクロー口座への入金が実際に行われたかどうかも、取引データからは確認できません。
そして、DLDの公表は後から修正されることがあります。直近の期間ほど変わる可能性が高いため、当サイトでは90日ごとに取り直して数字を見直しています。この記事の集計は2026年8月28日に作ったファイルにもとづいており、同じ条件でいま取り直すと値が動くことがあります。
件数が多いことは、選択肢が多いという意味です。値上がりしやすいという意味ではありません。この記事は過去に登記された事実の集計であって、将来の価格を示すものではありません。値上がり、賃料収入、利回りのいずれについても、当社は保証しません。