予算が決まっていても、ドバイの物件情報を見始めると候補が絞れません。総額を並べた一覧からは、その金額帯に物件がたくさんあるのか、それとも数件しかないのかが読み取れないためです。相場として示される1つの数字も、この問いには答えてくれません。
Dubai Land Department(DLD、ドバイ土地局)が公開している登記の記録を当サイトが集計すると、2026年1月1日から8月25日までにSalesとして登記された売買は110,525件で、取引価格の中央値は1,424,503 AEDでした。ただしこの中央値は、110,525件を小さい順に並べたときの真ん中の1件を指す数字にすぎません。500,000 AED未満の帯には3,890件、その上の500,000〜1,000,000 AEDの帯には31,202件が入っています。帯の幅はどちらも500,000 AEDなのに、件数は8倍違います。
この記事が見るのは、価格の水準ではなく帯ごとの厚みです。厚みが分かると、予算を少し上げたときに候補が増えるのか、ほとんど増えないのかを自分で判断できます。金額はすべてAEDのままで、円には換算していません。換算した数字は為替が動いた時点で事実と食い違うため、この記事では目安としても併記しません。全系列の入口はドバイのデータにあります。物件を勧める記事ではありません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
数え方をそろえてから読みます
当サイトが「取引」と呼んでいるのは、DLDの登記記録のうち取引の種類がSalesの行だけです。取得した記録の全体は146,369行で、そこから抵当権の登録(Mortgage)30,043行と、贈与(Gifts)5,801行を外しています。抵当権は所有者が変わる取引ではありませんし、贈与の価格は市場の水準を表しません。混ぜると件数は増えますが、価格の分布としては読めなくなります。
件数は行数、つまり登記された物件の数で数えています。DLDの記録では1つの取引番号が複数行に分かれることがあるため、「取引の件数」ではなく「登記された物件の件数」として読んでください。この記事の件数をすべて足すと110,525件になり、集計対象のSalesと一致します。
代表値は中央値です。同じ記録の算術平均は3,118,323 AEDで、中央値よりはっきり高く出ます。ドバイの登記には数十億AEDの大型取引が混じるためで、いちばん高い1件は3,130,254,657 AEDでした。平均が間違いというわけではなく、答えている問いが違います。市場に流れた金額の規模を知りたいなら平均と合計、真ん中あたりの取引を知りたいなら中央値です。この記事は後者だけを使います。
対象には住宅以外の登記も入っています。住宅の割合は97.4%で、残りはオフィス、店舗、土地などです。エリアは240区画、プロジェクトは2,896件にまたがります。つまりここで見ている分布は「ドバイのマンション1戸の値段の分布」ではなく、登記された不動産の分布です。住宅以外の割合は小さいものの、上の方の帯にはこれらが混ざります。
同じ数字を自分で取り直したい場合は、DLDのオープンデータのページから取引(Transactions)のデータセットを取得します。照会のたびにCAPTCHAを人が解く必要がありますが、期間を指定して取れるので、1か月分を1回のクエリでそろえられます。
帯ごとの件数を見ると、予算を動かす意味が分かります
下の図は、110,525件を8つの価格帯に分け、帯ごとの件数と全体に占める割合を並べたものです。赤い棒の帯に中央値が入ります。
いちばん厚いのは500,000〜1,000,000 AEDの帯で31,202件、全体の28.2%です。次が1,000,000〜1,500,000 AEDの22,165件で20.1%です。この2つと最下段の3,890件を足すと、1,500,000 AED未満の登記が全体の約52%を占めます。件数で見ると、ドバイの売買の半分は1,500,000 AEDより下で起きています。
上の帯は急に薄くなります。5,000,000〜10,000,000 AEDが6,468件で5.9%、10,000,000 AED以上が4,836件で4.4%です。金額の桁が大きいぶん話題になりやすい層ですが、件数では1割に届きません。逆に1,500,000〜2,000,000 AEDの帯は12,372件で11.2%、2,000,000〜3,000,000 AEDは17,488件で15.8%あり、2,000,000 AED台のほうが1,500,000 AED台より厚くなっています。
ここで重要な注意があります。この8つの帯は幅がそろっていません。下の3つは500,000刻み、その上は1,000,000刻みと2,000,000刻み、最上段は上限なしです。幅が違う棒を並べているので、棒の長短を「分布の山の形」として読むと誤ります。帯の幅が広いほど件数も集まりやすく、最上段の4,836件は10,000,000 AEDから3,130,254,657 AEDまでを1本にまとめた結果です。読めるのは「その帯に何件あるか」であって、帯の中の形ではありません。
予算の判断に使うなら、こう使います。予算の上限を1,000,000 AEDから1,500,000 AEDへ上げると、入ってくる帯は22,165件の層です。2,000,000 AEDから3,000,000 AEDへ上げると17,488件の層が加わります。いっぽう5,000,000 AEDから10,000,000 AEDへ上げても、増えるのは6,468件の層だけです。同じ「500万AED上げる」でも、候補が増える量はまったく違います。
中央値は分布のどこにいるのか
中央値だけだと、自分の予算がそこから離れているときに何も分かりません。分位点(下から何%の位置にある値か)を並べると、位置関係が見えます。取引価格と、面積あたりの単価を同じ表に置きました。
| 分位点 | 取引価格(AED) | 面積あたり単価(AED/㎡) |
|---|---|---|
| 下から5% | 540,000 | 8,885 |
| 下から25% | 822,999 | 14,851 |
| 中央値(下から50%) | 1,424,503 | 18,510 |
| 下から75% | 2,746,000 | 23,919 |
| 下から90% | 5,034,000 | 33,409 |
| 下から95% | 8,578,000 | 39,246 |
取引価格の列を見ると、真ん中の半分(下から25%〜75%)は822,999 AEDから2,746,000 AEDの間に入ります。予算がこの範囲なら、分布の中心にいるということです。下から95%が8,578,000 AEDなので、それを超える予算は上位5%の層に入ります。
2つの列を見比べると、散らばり方が違うことに気づきます。取引価格は下から5%の540,000 AEDから下から95%の8,578,000 AEDまで、15倍以上に広がっています。いっぽう面積あたりの単価は8,885 AEDから39,246 AEDまでで、4倍強です。総額の散らばりの多くは、単価の違いではなく広さの違いから生まれています。実際、面積の中央値は77.6㎡で、平均は255.9㎡です。広い物件が少数混じると総額は大きく動きますが、単価はそこまで動きません。
このことは、予算を上げるときに何が買えるようになるかを考えるときに効きます。単価の分布が4倍強に収まっているということは、予算を2倍にしても単価の等級が2段階上がるのではなく、多くの場合は広さが増えるという意味です。どちらを得たいのかで、見る列が変わります。
総額で安い側と、単価で安い側は逆になります
同じ110,525件を、オフプラン(建設前・建設中の登記)と完成物件(Ready)に分けます。オフプランが75,805件、完成物件が34,720件で、オフプランの比率は68.6%です。
総額の中央値は、オフプランが1,359,800 AED、完成物件が1,700,000 AEDです。ここだけ見ると「オフプランのほうが安い」と読めます。ところが面積あたりの単価の中央値は、オフプランが19,304 AED/㎡、完成物件が15,679 AED/㎡で、向きが逆になります。
理由は面積です。面積の中央値はオフプランが72.5㎡、完成物件が109.3㎡でした。オフプランとして登記されているのは、より小さい住戸が中心です。総額が安いのは1戸が小さいからで、同じ広さに換算すると割高になっています。「オフプランは安い」という言い方は、総額の話なのか単価の話なのかを決めないと検証できません。
もう1つ、完成物件の側には住宅以外の登記が多く混ざります。住宅の割合はオフプランが100%、完成物件が91.7%です。土地や商業施設の登記は金額が大きいため、完成物件の総額の中央値を押し上げます。つまり1,700,000 AEDという数字は、「完成した住戸の値段」よりも少し高い位置にあります。
間取りをそろえると、安い側が入れ替わります
では、同じ間取りでそろえるとどうなるか。DLDの記録にあるROOMSの列で分けた表です。件数と、その件数で計算した中央値を並べています。
| 間取り(ROOMS) | オフプランの件数 | オフプランの中央値(AED) | 完成物件の件数 | 完成物件の中央値(AED) |
|---|---|---|---|---|
| ストゥディオ(Studio) | 22,676 | 687,765 | 5,339 | 560,001 |
| 1ベッドルーム(1 B/R) | 26,344 | 1,291,025 | 9,375 | 1,030,000 |
| 2ベッドルーム(2 B/R) | 14,447 | 2,265,929 | 5,958 | 2,007,695 |
| 3ベッドルーム(3 B/R) | 4,270 | 3,695,444 | 2,675 | 3,350,000 |
4つの行すべてで、完成物件のほうが安くなっています。全体の総額の中央値では完成物件のほうが高かったのに、間取りをそろえると向きが逆になります。ストゥディオでは687,765 AEDと560,001 AED、1ベッドルームでは1,291,025 AEDと1,030,000 AEDです。
矛盾ではありません。全体の中央値は、その区分で何が多く登記されたかで決まります。完成物件の側には、間取りの記載がない行が8,643件あり、その中央値は6,954,888 AEDでした。土地や商業施設、間取りで数えられない物件がここに入ります。この高い層が全体の中央値を引き上げているため、「完成物件は総額が高い」という結果になります。間取りで絞ると、その層が落ちます。
ここから言えることは1つです。オフプランと完成物件のどちらが安いかという問いは、間取りを決めない限り答えが出ません。そして間取りを決めたうえで比べるなら、この表の範囲では完成物件のほうが安い側です。同じ考え方をエリアに当てはめた集計はドバイのエリア別データにあります。区画全体の中央値と、間取りをそろえた中央値で安い順が入れ替わる例を扱っています。
間取りの数え方にも注意が必要です。1 B/Rは寝室(Bedroom)が1つという意味で、日本の1LDKとは数え方が違います。キッチンが独立しているかどうか、メイド室をどう扱うかが違うため、おおむね対応するとしか言えません。
予算から候補を絞る順番
ここまでの数字を、予算から候補を絞る手順として並べ直します。
最初にAEDで予算を決めます。取引も公表値もAEDで行われるため、AEDで決めてから為替を考えるほうが順番として楽です。為替の判断と価格の判断を同時にすると、どちらの影響で数字が動いたのか分からなくなります。
次に、その帯の件数を見ます。厚い帯なら、条件を足しても候補が残ります。薄い帯なら、エリアや間取りの条件を足した時点で候補が消えるかもしれません。ここで予算を動かす価値があるかどうかが決まります。
3番目に、オフプランか完成物件かを決めます。前の節で見たとおり、ここで単価と面積が分かれます。最後に、面積あたりの単価で帯の中の位置を確かめます。同じ1,424,503 AEDでも、単価が14,851 AED/㎡なら広い物件、23,919 AED/㎡なら狭い物件です。総額が同じでも中身は違います。
この集計では答えられないこと
いくつか、この数字でできないことがあります。
これは登記された取引の記録です。売り出し中の価格や、成約に至らなかった条件は入っていません。いま募集されている物件の価格が、この分布のどこに当たるかは、募集価格の側を別に調べる必要があります。登記の価格と募集の価格は違う数字です。
期間は2026年1月1日から8月25日までで、前年との比較ができません。DLDの照会画面が当年ぶんしか返さないためです。「去年より上がったか」という問いには、この集計では答えられません。また、DLDの公表は後から修正されることがあり、直近の期間ほど変わる可能性があります。
価格の外側にある費用も入っていません。登録手数料や仲介手数料は取引価格に含まれないため、予算の上限をそのまま価格の上限として使うと足りなくなります。費用の項目は購入費用・諸費用に分けて置いています。
最後に、この分布は過去に登記された事実の集計です。将来の価格を示すものではありません。帯が厚いことは選択肢が多いという意味で、値上がりしやすいという意味ではありません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。