ドバイのエリア別データを開くと、まず目に入るのは区画ごとの「価格の中央値」です。安い順に並べれば予算に合う区画が見つかりそうに見えます。ところが、この並びは、あなたが買う間取りの並びとは違います。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)が公開している登記の記録を当サイトが集計すると、区画全体の中央値では安い順の2番目だった区画が、1ベッドルームだけで見ると3番目へ下がりました。入れ替わった相手は、区画全体では3番目だった区画です。
理由は単純です。区画全体の中央値は、その区画で何が多く登記されたかで決まります。ストゥディオの登記が半数近くを占める区画の中央値は、ほとんどストゥディオの価格帯を見ています。1ベッドルームの登記が半数を占める区画なら、1ベッドルームの価格帯です。間取りの構成が違う区画どうしを区画全体の中央値で比べると、価格の水準ではなく登記された住戸の構成を比べていることになります。
この記事では、エリア別データを間取りでそろえて引き直す手順を示します。並べ替えのもとになった数字は、母数(件数)と集計の期間を付けて図と表に置き、本文には写していません。本文へ写すと、データを更新したときに本文だけが古いまま残るためです。全区画の並びはエリア別のデータ、市場全体の形は市場全体のデータにあります。物件を勧める記事ではありません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
先に数え方をそろえます
当サイトが「取引」と呼んでいるのは、DLDの登記記録のうち取引の種類がSalesの行だけです。抵当権の登録(Mortgage)と贈与(Gifts)は数えていません。混ぜると件数が増えますし、贈与の価格は市場の水準を表さないためです。件数は行数、つまり登記された物件の数で数えています。1つの取引番号が複数行に分かれることがあるので、「取引の件数」ではなく「登記された物件の件数」として読んでください。
代表値は中央値です。小さい順に並べたときの真ん中の値で、平均ではありません。ドバイの売買には数十億AEDの登記が混じるため、平均は中央値よりはっきり高く出ます。どちらを見ているかを混同すると、同じ区画について2つの違う「相場」ができます。この記事に出てくる価格は、すべて中央値です。
間取りは、DLDの記録にあるROOMSという列から取っています。ここに入っているのは Studio 1 B/R 2 B/R のような区分で、当サイトはそれを日本語に直すときも原語を併記しています。原語を落とすと、読者がDLDの記録や英語の物件情報と突き合わせられなくなるためです。
安い順の2番目と3番目が、間取りで入れ替わります
下の図は、登記件数が多い上位4区画について、区画全体の中央値と1ベッドルームだけの中央値を並べたものです。灰色の棒が区画全体、赤い棒が1ベッドルームです。
図の並びを上から読みます。区画全体の中央値では、マディナ・アル・マター(Madinat Al Mataar)がジュメイラ・ビレッジ・サークル(Jumeirah Village Circle)より安い側にいます。ところが1ベッドルームだけで見ると、順番が逆になります。区画全体では安く見えた区画のほうが、1ベッドルームでは高いという結果です。
もう1つ、図の4番目に注目してください。ビジネスベイ(Business Bay)だけは、区画全体の中央値が1ベッドルームの中央値より高いです。残りの3区画は逆で、区画全体のほうが低く出ています。この違いも間取りの構成から来ています。区画の中に高い価格帯の登記が多ければ区画全体の中央値は上へ、ストゥディオのような低い価格帯が多ければ下へ引かれます。区画全体の中央値は、1ベッドルームの価格の上限でも下限でもありません。
間取り別の中央値を、同じ表に並べる
4区画を間取りでそろえた表です。単位はAEDで、かっこ内は母数の件数です。円へは換算していません。
| 区画(DLDのAREA) | 区画全体 | ストゥディオ | 1 B/R | 2 B/R |
|---|---|---|---|---|
| ドバイ・ランド・レジデンス・コンプレックス(Dubai Land Residence Complex) | 819,676(4,464件) | 696,889(2,021件) | 1,046,333(1,661件) | 1,450,000(584件) |
| マディナ・アル・マター(Madinat Al Mataar) | 948,000(11,269件) | 654,000(5,280件) | 1,187,220(3,401件) | 1,971,888(1,543件) |
| ジュメイラ・ビレッジ・サークル(Jumeirah Village Circle) | 1,029,847(6,912件) | 710,552(2,031件) | 1,090,000(3,505件) | 1,654,314(900件) |
| ビジネスベイ(Business Bay) | 2,275,000(4,470件) | 1,050,000(724件) | 2,000,000(1,513件) | 3,032,692(900件) |
表を列ごとに読むと、入れ替わりがどこで起きているかが分かります。ストゥディオの列では、マディナ・アル・マターがジュメイラ・ビレッジ・サークルより安い側のままです。間取りを1つ上げた列で、順番が入れ替わります。2ベッドルームの列でも、同じ向きのままです。
つまり、この2区画のどちらが安いかという問いには、間取りを決めないと答えが出ません。ストゥディオを買うなら片方、1ベッドルーム以上を買うならもう片方です。区画全体の中央値だけを見て候補を落としていたら、自分が買う間取りでは安かった区画を外していたことになります。
母数は、間取りで絞るほど小さくなります
間取り別の中央値は便利ですが、分けるほど母数が減ります。下の図は、ビジネスベイの登記を間取りで分けたものです。
図でいちばん高い棒が1ベッドルームで、そこから右へ行くほど棒が短くなります。4ベッドルームと店舗は、破線で引いた20件のすぐ上まで下がります。この母数の中央値は、1件の登記で動きます。当サイトがエリア別の一覧に売買20件未満の区画を載せていないのは同じ理由で、240区画のうち一覧に並ぶのは144区画です。残りの96区画は、件数が足りないという理由で外しています。
区画を一覧に載せる下限が20件なら、間取りで分けた後の数字にも同じ下限を当ててください。区画全体では4桁の件数があっても、その区画のその間取りが2桁しかないことは珍しくありません。間取り別の中央値を使うときは、価格と一緒に件数を見る習慣にしてください。
もう1つ、図の灰色の棒を見てください。間取りの記載がない行(NA)が、この区画の登記の1割を超えています。室数で絞ると、この行はどの間取りにも入りません。間取り別の件数を足しても、区画全体の件数にはなりません。
平米単価は、間取りをそろえられないときの代わりになります
間取り別の母数が足りないときは、面積あたりの単価に切り替えます。総額は住戸の広さで動くので、広さの違う区画どうしを総額で比べると、価格の水準ではなく部屋の大きさを比べることになります。単価なら、広さの差を割って落とせます。
| 区画 | 平米単価の中央値 AED/平米 | 住戸面積の中央値 平米 | オフプランの比率 |
|---|---|---|---|
| ドバイ・ランド・レジデンス・コンプレックス | 15,410 | 66.3 | 91.4% |
| マディナ・アル・マター | 18,167 | 61.4 | 97.5% |
| ジュメイラ・ビレッジ・サークル | 15,825 | 70.6 | 57.4% |
| ビジネスベイ | 26,963 | 83.8 | 52.2% |
| ドバイ全体 | 18,510 | 77.6 | 68.6% |
単価の列で見ると、総額とは別の並びになります。マディナ・アル・マターは総額の中央値が低いのに、単価はドバイ全体に近い水準です。登記されている住戸が小さいほど、同じ単価でも総額が下がるためです。「安い」と「小さい」は別のことです。この関係を1区画で詳しく追ったものがJVCの不動産データにあり、区画をまたいで単価を並べたものは平米・sqft単価にあります。
ただし単価にも限界があります。単価は面積が記録されている行だけで計算していて、面積の記録はバルコニーや共用部の扱いで変わり得ます。単価は区画の水準をそろえて見るための道具で、特定の住戸の価格を言い当てるものではありません。
オフプランの比率が違うと、同じ間取りでも水準が違います
上の表のいちばん右の列が、登記のうち完成前(オフプラン)が占める比率です。4区画でかなり違います。ここが近くない区画どうしを間取りだけそろえて比べても、条件はそろいません。
| 間取り | オフプラン | 完成済み |
|---|---|---|
| ストゥディオ | 687,765(22,676件) | 560,001(5,339件) |
| 1 B/R | 1,291,025(26,344件) | 1,030,000(9,375件) |
| 2 B/R | 2,265,929(14,447件) | 2,007,695(5,958件) |
| 3 B/R | 3,695,444(4,270件) | 3,350,000(2,675件) |
ドバイ全体を完成前と完成済みに分けると、どの間取りでも完成前の中央値のほうが高いです。向きが4つの間取りでそろっているので、特定の間取りだけの偶然ではありません。
ただし、この差を「完成前のほうが割高」とは読めません。完成前の登記には、支払いを数年に分けるプランが付くものが含まれます。同じ金額でも、いつ払うかが違えば負担は違います。立地や建物の新しさも混ざっています。この表から言えるのは、完成前と完成済みを混ぜた中央値は、どちらの市場も表さないということだけです。支払い時点の違いはオフプラン物件に、同じ選び分けを1区画で見たものはビジネス・ベイのオフプランと完成済みにあります。
「1 B/R」は寝室の数です
ここで用語を1つ確かめます。1 B/R のB/Rは寝室(Bedroom)のことで、寝室が1つという意味です。日本の「1LDK」と似ていますが、数え方が同じではありません。日本の表記はリビング・ダイニング・キッチンを別に数えますが、ドバイの表記は寝室の数だけを示します。キッチンが独立しているか、メイド室があるかは、この表記からは分かりません。
ストゥディオは、寝室が独立していない1部屋の住戸です。日本のワンルームに近い形ですが、面積の幅が広いので、面積の列と合わせて見てください。上の表で住戸面積の中央値を併記しているのは、同じ「1 B/R」でも区画によって広さが違うためです。
間取りの表記を読み替えるときに、「1 B/R=1LDK」と言い切らないでください。読み替えた前提で予算を組むと、実際に見た住戸が想像と違います。間取りの数字は部屋の数を絞る道具として使い、広さは面積の列で確かめるのが安全です。
3つの確認を通してから並べる
ここまでの確認を順番に並べると、下の図になります。
図の確認は3つです。買う間取りが決まっているか、その区画のその間取りの登記が20件以上あるか、比べる区画のオフプランの比率が近いか。間取りが決まっていない段階では、区画全体の中央値と平米単価で広く絞るところまでにとどめます。間取りが決まっていない人にとって、区画全体の中央値はまだ使える数字です。入口の数字として使う分には問題がありません。
3つを通ったら、その間取りの中央値で並べて候補を数区画に絞ります。そのとき、母数と集計の期間を表の中に残してください。期間を書かない表は、別の期間で作った表と並べられません。価格という言葉で集まった数字の見分け方はドバイの不動産価格を比べる、区画という単位そのものをそろえる手順はエリア比較に分けてあります。
この数字のもとになっているデータ
この記事の数字は、DLDが公開しているデータを当サイトが集計したものです。DLDの公式データそのものではなく、DLDの公開データをReheatが集計した値です。集計の条件を変えれば数字は変わるので、条件を図と表に併記しています。
このデータは登記された売買の記録です。売り出し中の価格や、成約に至らなかった条件は入っていません。広告に出ている価格と中央値が合わないのは、見ているものが違うからです。また、DLDの公表は後から修正されることがあるため、直近の期間ほど数字が動く可能性があります。
当サイトは期間を区切ってこのデータを取り直しています。取得そのものは自動ですが、照会の画面に人の確認が入る仕組みがあるため、完全な無人運転にはしていません。確認の仕組みを機械で回避することはしません。
この数字でできないこと
最後に、できないことを書いておきます。間取り別の中央値は、特定の住戸の価格ではありません。同じ区画の同じ間取りでも、階数、向き、建物、仕上げで価格は変わります。中央値は候補の区画を絞るための数字で、個別の物件の値付けを判定する数字ではありません。
利回りを間取り別に出すこともできません。当サイトの表面利回りは、賃貸の記録と売買の記録を区分(Flat・Villa)の単位で突き合わせています。賃貸の記録に間取りの列が同じ形で入っていないため、「この区画の1ベッドルームの利回り」は出せません。利回りをそろえて比べる条件はドバイ不動産の利回り比較にまとめています。
そして、間取りと区画が決まっても、それは価格の話だけです。登録手数料や管理費は価格の外側にあり、購入にかかる費用に分けてあります。繰り返しになりますが、当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。データは判断の材料で、結果の約束ではありません。