「ドバイの不動産は利回りが高い」という話を読んだあと、では実際にどのエリアが高いのかを調べ始めると、出所の違う数字がばらばらに集まります。そして多くの資料は、その割合が何を何で割った値なのかを書いていません。分子と分母が分からない数字は、別の数字と同じ列に置けません。利回りの比較で最初にやることは、エリアを選ぶことではなく、比べられる形にそろえることです。
この記事は、どのエリアが買いなのかを決めるものではありません。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)がオープンデータとして公開している売買と賃貸の記録を当サイトが集計し、同じ式で計算できた組み合わせだけを並べたうえで、その並びをどこまで読んでよいのかを示します。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
先に結論を書きます。同じ列に置いてよいのは、同じ式、同じ期間、同じ賃料の区分、十分な件数という4つがそろった値どうしだけです。この条件で計算できたのは、エリアと物件種別の組み合わせで50件でした。高い順に並べると中央値は4%台で、いちばん高いものが8%台、いちばん低いものが1%台です。この開きの大きな部分は、賃料の高さではなく価格の高さから出ています。
分子と分母を言葉で決めてから並べる
当サイトの集計は、同じエリア・同じ物件種別について、新規契約の年間賃料の中央値を、売買の取引価格の中央値で割っています。どちらも1平米あたりに直した値です。面積で割っておかないと、広い住戸が多いエリアほど分母が大きくなり、エリアの差ではなく住戸の大きさの差を比べることになります。
代表値は平均ではなく中央値です。平均は高額な数件に強く引っ張られます。ドバイの売買記録には建物を一棟まとめた取引や大きな土地も混ざるため、平均で代表させると、住戸を1戸買う人には縁のない水準が出てきます。平均と中央値のどちらを見ているのかは、数字を引き写すときに必ず控えてください。
ここで出る値は表面利回りで、費用を引く前の割合です。さらに注意が必要なのは、分子と分母が別々の物件群から来ていることです。同じ住戸の買値とその住戸の賃料を追いかけた実績ではなく、同じ区画で成立した賃貸の中央値と、同じ区画で成立した売買の中央値の比です。個別の住戸の利回りとしては使えません。
分子に入れたのは住宅だけです。労働者宿舎のような区分は賃貸側から外し、1つの契約で複数の住戸を借りている一括契約も外しています。一括契約は面積が1戸分しか記録されず、面積あたりの単価が出せないためです。分母の側も、抵当権の設定と贈与の登録を外し、所有権が移った売買だけを数えています。除外した区分を書き残しておかないと、他社の数字との差がどこから来たのか説明できなくなります。
分子の賃料は、新規契約と更新契約で別の水準になる
賃料をどちらで取るかは、好みの問題ではありません。ドバイには更新時の賃料の引き上げに上限があります。Dubai Legislation Portal が公開している Decree No. 43 of 2013 は、更新のときに認められる引き上げの上限を、いまの賃料が同種の住戸の平均賃料よりどれだけ低いかで段階的に定めています。
| 現在の賃料が、同種の住戸の平均賃料より | 更新時に認められる引き上げの上限 |
|---|---|
| 10%以下しか低くない | 引き上げなし |
| 11%から20%低い | 5% |
| 21%から30%低い | 10% |
| 31%から40%低い | 15% |
| 40%を超えて低い | 20% |
同じ政令は、この平均賃料を、不動産規制庁(RERA)が承認したドバイの賃料指数で決めるとしています。適用の範囲は民間と公的機関のどちらの貸主にも及び、特別開発区域やドバイ国際金融センター(DIFC)のようなフリーゾーンも含むと書かれています。発令は2013年です。
上限があるということは、長く住んでいる入居者の賃料は、市場の水準より低いところに留まりやすいということです。当サイトの集計でも、新規契約の年間賃料の中央値は、更新契約の中央値より2割ほど高く出ています。入居者のいる住戸を買う場合、引き継ぐのは更新側の賃料です。募集中の相場で計算した利回りは、その住戸ではすぐには実現しません。
そのため分子には新規契約だけを使い、そのことを数字のそばに書いています。空室の住戸を買ってこれから貸す場合は新規契約の水準に近く、入居者ごと買う場合は更新側の水準に近くなります。どちらの場面にいるのかで、同じ表の読み方が変わります。資料に「利回り」とだけ書かれていたら、どちらの賃料で計算したのかを聞いてください。
件数の足りない組み合わせは、列から外す
中央値は、件数が少ないと1件の取引で大きく動きます。当サイトは、賃貸と売買のどちらも30件以上ある組み合わせだけを計算しています。これを緩めれば並べられるエリアは増えますが、増えた行は精度ではありません。数件の成約から出した中央値を取引の多いエリアの中央値と同じ列に置くと、見た目の上では同じ確かさを持ってしまいます。
このしきい値のため、売買の記録に名前が出てくる区画の多くは表に並びません。賃貸の登録が少ない区画、売買がほとんど動かない区画、そして両方あっても物件種別で分けると届かなくなる区画が落ちます。落ちた区画は「利回りが低い区画」ではなく、「この方法では計算できなかった区画」です。表に無いことを低い評価として読まないでください。計算できた母数が50件であることは、一覧のそばに必ず出しています。
高い順に並ぶのは、価格の安い区画
高い順に並べると、上に来るのは1平米あたりの取引価格が低い区画で、下に来るのは価格が高い区画です。いちばん高い Zaabeel First(ザービール 1)のアパートメントだけは価格の単価も高いのですが、賃料の単価がそれ以上に高く出ているため上に来ています。利回りは賃料と価格の比なので、価格が下がるだけでも上がります。
下のほうに並ぶ Jumeirah Second(ジュメイラ 2)、Trade Center Second(トレード・センター 2)、Marsa Dubai(マルサ・ドバイ。通称ドバイ・マリーナ)のアパートメントは、賃料の単価が低いわけではありません。価格の単価が高いぶん、比が小さくなっています。低い利回りは、売却時に見込める金額や売りやすさとは別の指標です。利回りだけで並べ替えた順位を、投資先の優劣として読まないでください。
上に来る区画にも、賃料が下がる余地や空室の期間という別の論点があります。この表はその論点を測っていません。順位の基準は表面利回りの高い順という1つだけで、立地、建物の状態、管理の質、今後の供給は入っていません。同じ基準で機械的に並べ替えられることが、この表の唯一の長所です。読者が同じ記録から同じ順位を作り直せる範囲に、意図して留めています。
同じ区画でも、種別で上下が入れ替わる
エリアを決めても、まだ比較は終わりません。賃貸と売買のどちらも30件以上そろい、アパートメントとヴィラの両方を計算できた区画は8つありました。そのうち6つはアパートメントのほうが高く、2つはヴィラのほうが高く出ています。同じ区画名で話していても、種別をそろえないと上下が入れ替わります。
差の大きさも一定ではありません。Dubai Investment Park First(ドバイ・インベストメント・パーク 1)では種別の違いで3ポイント近く開き、Madinat Al Mataar(マディナ・アル・マター)ではほとんど差がありません。「このエリアの利回り」という言い方は、種別を書かないかぎり値が決まらないということです。候補の資料を読むときは、エリア名の隣に Flat か Villa のどちらなのかを必ず控えてください。
ヴィラは1戸あたりの面積が大きいため、同じ区画でも賃料の総額と価格の総額がアパートメントとは桁から違います。面積あたりに直してあるからこそ上下を比べられますが、総額で見た必要資金はまったく別です。利回りの順位と、用意できる資金の制約は、別の列として扱ってください。
表面から実質へ下げる費用は、物件ごとに調べる
表面利回りは費用を引く前の数字なので、手元に残る割合はこれより低くなります。いちばん効くのはサービスチャージで、建物ごとに違うため、エリアの平均では代わりになりません。DLDは、共同所有の物件についてRERAが承認したサービスチャージを照会できる Service Charge Index を案内しています。プロジェクト名、用途、年を選んで引く形です。
候補の住戸が決まったら、ここで調べた金額と、売主や管理会社から示された請求を突き合わせます。対象の期間、面積などの計算条件、別の費用が含まれていないかを確かめます。照会できない場合は、近くの建物の金額で埋めないでください。確認できた項目と、確認できていない項目を分けたまま保有の計画を立てます。
空室の期間、仲介手数料、修繕、登録の手続きに掛かる費用も同じです。これらは物件と時期で変わるため、公開データの集計からは出てきません。価格の外側にある費用の考え方は、ドバイの不動産価格を比べる記事に分けて書いています。
比較表に残す列
最後に、自分で表を作るときに残しておく列を挙げます。これを書き残しておけば、同じ数字を後から取り直せます。
| 残す列 | 書く内容 |
|---|---|
| 計算式 | 分子と分母に入れたものと、面積で割ったかどうか |
| 代表値 | 平均か中央値か |
| 期間 | データに実際に入っていた日付の範囲 |
| 賃料の区分 | 新規契約か更新契約か |
| 件数 | 賃貸と売買それぞれの件数 |
| 物件種別 | アパートメントかヴィラか |
| 控除 | 引いた費用と、引いていない費用 |
当サイトの一覧はドバイの利回りデータにあり、同じ組み合わせの賃料と価格、件数まで並べています。賃料そのものの水準は家賃データ、サービスチャージを含む監督の範囲はRERAの解説、首長国ごとの制度と費用の違いはドバイとアブダビを並べた記事にあります。使っているデータの出どころは出典の一覧にまとめています。
なお、ここで並べた値は当サイトがDLDの公開記録を集計したもので、DLDが利回りとして公表している値ではありません。政府機関そのものの公表値と、公開データを加工した集計は別のものとして扱ってください。個別の住戸についてのご相談はお問い合わせから承ります。当社は値上がり・賃料収入・利回りのいずれも保証しません。