Dubai International Financial Centre(DIFC、ドバイ国際金融センター)の公式サイトに2026年10月16日、開発会社のH&Hが Water Gardens という複合開発を公表したことが掲載されました。4棟が中央の庭を囲む配置で、オフィス、住戸、宿泊、物販が同じ敷地に入り、完成の予定は2028年、工事はすでに進んでいると書かれています。
先に結論を書きます。この発表に出てくる数字は1つだけです。The Offices at Water Gardens という建物の、純賃貸面積21,965平方メートルです。住戸の戸数、価格、支払いプラン、引き渡しの時期、そして住戸を売るのか貸すのかは1行も書かれていません。つまりこれは、いま買える物件の発表ではありません。
それでも読む価値があるのは、2つの理由からです。1つは、位置と上下のつながりが具体的に書かれていること。もう1つは、この開発がDIFCの区域の中にあるため、不動産の登録簿がドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)のものとは別になることです。日本から検討する人にとっては、照会の窓口がどこになるかが最初の分かれ目になります。
以下では、発表の記載を表に並べ、たった1つの数字が何を指しているのかを確かめ、立体のつながりを図にします。そのうえで、DIFCとDLDで登録の経路がどう分かれているかを、両者の公表しているサービス案内の記載から並べます。数値はすべて公表資料からの転記で、当サイトが補った推計はありません。価格が公表されていないため、AEDの金額も円の目安もこの記事には出てきません。
発表の主体はH&Hで、掲載先がDIFCです
出典の読み方を先に揃えます。このページはDIFCの公式サイトにありますが、開発の内容を公表しているのは民間の開発会社であるH&Hです。DIFC Investments Ltd. の Chief Real Estate Officer である Saleh Al Akrabi 氏の発言も同じページに載っていますが、それは区域の側からの歓迎の言葉で、政府機関が集計して示した統計ではありません。
この区別を崩すと、「DIFCが公表した数字」という紹介が生まれます。当サイトは、政府機関そのものの公表と、民間の発表を分けて書きます。したがってここではDIFCの公式サイトに掲載されたH&Hの発表として扱い、後半で引用するDIFCの不動産登記官のサービス案内とは層を分けます。
公表された項目と、書かれていない項目を同じ表に並べます。右の列が埋まっているものが、いま確かめられる事実です。
| 項目 | 発表の記載 |
|---|---|
| 掲載日 | 2026年10月16日 |
| 掲載先 | DIFCの公式サイト |
| 発表の主体 | H&H(開発会社) |
| 場所 | DIFCの中心部 |
| 構成 | 4棟が中央の庭と歩行者の空間を囲む |
| 同じ敷地に入るもの | オフィス、住戸、宿泊、物販 |
| オフィスの名称 | The Offices at Water Gardens |
| オフィスの純賃貸面積 | 21,965平方メートル |
| オフィスの区画 | 3フロアがマイクロスイート、ほかに大きめの形式 |
| 環境認証 | LEED Platinumの取得を目指すと記載 |
| オフィスの募集 | JLLを独占のリーシング・パートナーに指名 |
| 完成の予定 | 2028年 |
| 工事の状況 | すでに進んでいると記載 |
| 住戸の戸数 | 記載がありません |
| 住戸の価格と支払いプラン | 記載がありません |
| 住戸を売るのか貸すのか | 記載がありません |
| ホテルの運営者と客室数 | 記載がありません |
| 延べ床面積と総事業費 | 記載がありません |
| 物販の床面積 | 記載がありません |
| 引き渡しの時期 | 記載がありません |
表の下半分が、この発表の限界です。戸数が無いということは規模が分からないということで、価格と支払いプランが無いということは初回にいくら必要なのかも総額も分からないということです。そして売るのか貸すのかが書かれていないので、所有できる住戸が出てくるのかどうかも、この発表からは決まりません。
数字は21,965平方メートルの1つだけです
この1つの数字も、指している範囲が狭いことに注意が要ります。21,965平方メートルは The Offices at Water Gardens の純賃貸面積(net leasable area)で、テナントへ貸し出せる面積です。建物の延べ床面積ではなく、4棟を合わせた規模でもありません。発表には延べ床面積が書かれていないため、この値から開発全体の大きさを計算することはできません。
同じ段落には、3フロアがマイクロスイートで、ほかに大きめの形式があることと、LEED Platinumの取得を目指していることが書かれています。目指しているという書き方は、取得済みという意味ではありません。認証は完成と審査を経て決まるものなので、2028年の完成予定より前に確定したものとして読まないでください。
オフィスについては、JLLが独占のリーシング・パートナーに指名されたとあります。リーシングは賃貸の募集です。つまりオフィスは貸し出す経路が示されている一方で、住戸については売るとも貸すとも書かれていません。ここを「オフィスは賃貸、住戸は分譲」と補うのは、発表に無い内容を足すことになります。
数字が1つしかないことは、この発表の欠点ではありません。発表の段階がまだ早いということです。問題が起きるのは、他の場所で見かけた総事業費やホテルの客室数といった数字が、この発表の内容として紹介されたときです。当サイトは、発表に書かれていない数値を本文に書きません。記事の数値を発表本文と突き合わせる作業を機械で行っているため、出所の違う数字が混じると公開できない仕組みにしています。
通りより高い位置にあり、下はGate Avenueにつながります
場所の説明は、平面よりも上下の関係で書かれています。Water Gardens は周囲の通りより高い位置にあり、Al Sukook Street と Al Mustaqbal Street から階段で歩行者の空間へ上がると記載されています。そしてその下では、開発がGate Avenueへ直接つながり、既存の物販と歩行者の経路を、飲食、ファッション、美容、ライフスタイルの構成で延ばすと書かれています。
もう1つ、DIFC側の発言に入っている位置づけがあります。Water Gardens は、もとのGate Districtのマスタープランの最後の構成要素のひとつだと述べられています。既存の街区の中に差し込まれる開発で、周囲の通りや公共空間の網目を延ばす形だという説明です。更地に新しい街を作る案件とは、前提が違います。
庭の扱いも書かれています。庭は1棟に属する共用施設ではなく、Water Gardens全体の共通の地面であり、Bureau Bas Smets が設計し、中央の水の景を中心に植栽と水と空地を重ねるとされています。設計に名前が挙がっているのは次の面々です。
| 担当 | 名前 |
|---|---|
| 全体の建築 | Sir David Chipperfield |
| 造園 | Bureau Bas Smets |
| オフィスの内装 | Patricia Urquiola |
| 棟ごとの内装 | Patricia Urquiola、Tihany Design、Tristan Auer |
| 物販と飲食の体験 | Studio KKD |
| オフィスの賃貸募集 | JLL |
設計者の名前は、住戸の仕様や価格の代わりにはなりません。読者が確認できる事実としては、「この名前が発表に挙がっている」までです。名前を根拠に価格や将来の値動きを説明する話を聞いたときは、その前提が公表資料のどこにあるのかを確かめてください。
DIFCの中の不動産は、DLDとは別の登録簿に載ります
ここが、この開発をドバイの他の案件と同じようには扱えない理由です。DIFCは独自の登録の仕組みを公表しています。DIFCの不動産登記官(Registrar of Real Property)は、DIFCの不動産について Real Property Law、Strata Title Law、Leasing Law に基づく登録を扱い、DIFCの不動産登録簿を管理すると案内されています。扱うサービスとして、所有権の移転の登録、相続や内部の移転、賃貸借の登録・解約・変更、抵当の設定・変更・抹消、権利証の発行、caveat(留保の登録)の管理、物件の照会などが並びます。日々の処理はDIFC Servicesが行い、手順はRegistrar of Real Property Handbookに置かれていると書かれています。根拠になる法令は、DIFCの法令データベースで統合版として公開されています。
DIFCの外のドバイでは、DLDが権利証を発行し、真正性はVerify Title Deed、物件の状況はProperty Status Enquiryという案内で照会できます。権利証そのものの役割と確認の手順はドバイ不動産のTitle Deedに分けて書いています。2つの経路があるということは、自分の物件がどちらの登録簿に載るのかを確かめないと、照会の入口を間違えるということです。DLDの画面で出てこないことを「登録されていない」と早合点する事故も、ここから起こります。
そのため、DIFCの区域の中にある住戸を検討する場合は、権利証をどこが発行するのか、どの登録簿に記載されるのか、照会はどのポータルで行うのか、賃貸に出すときの契約の登録はどの法令に基づくのかを、契約の前に書面で確かめてください。なお当サイトは、Water Gardens の住戸がDIFCの登録簿に記載されているかどうかを、この記事の時点では確認していません。発表に住戸の販売についての記載がなく、照会の対象になる物件の名前も公表されていないためです。
案件そのものの進み具合を公表データで確かめる手順は、DLDの登録簿を使う場合はオフプラン案件を横に並べる記事に、登録の窓口の作りが変わりつつある経緯はDLDの初期登録プラットフォームにまとめています。ただしどちらもDLDの仕組みで、DIFCの区域の中にそのまま当てはまるとは書かれていません。
発表に書かれていないことを、そのまま並べます
推測で埋めずに並べます。2026年10月16日の掲載からは、次の項目は分かりませんでした。
- 住戸の戸数、間取り、面積
- 住戸の価格、支払いプラン、販売を開始する日
- 住戸を所有できるのか、賃貸だけなのか
- ホテルの運営者、ブランド、客室数
- 開発全体の延べ床面積と総事業費
- 物販と飲食の床面積、入る店の数
- 4棟それぞれの用途、階数、完成の順序
- 住戸と宿泊の部分の引き渡しの時期(記載は開発全体の完成予定2028年まで)
- オフィスの賃料の水準と、賃貸の最低の期間
営業の場では、このうちの何項目かが口頭で埋められることがあります。そのときは、同じ内容がH&Hまたは掲載先の公表資料のどこに書かれているかを確かめてください。発表に無い項目を当サイトが補うことはしません。
名前は英語の綴りのまま控えてください
この記事では、Water Gardens、H&H、The Offices at Water Gardens、Gate Avenue、Gate District、Al Sukook Street、Al Mustaqbal Street をカタカナに置き換えていません。登記の照会も賃貸の募集も契約書も、この綴りで動くためです。当サイトがカタカナと英語を併記しているのは区画名(エリア名)だけで、法人名とプロジェクト名は英語のまま出しています。
綴りをそのまま控えておく実益は、照合のときに出ます。DIFCという区域の名前と、DLDの取引データに出てくるエリアの名前は別の体系です。資料の中で「DIFC」と書かれているのか、周辺のエリア名で書かれているのかによって、どの登録簿とどのデータを見ればよいかが変わります。エリア単位で市場の数字を見たい場合はドバイの不動産データにまとめています。
値上がりも賃料も保証されません
新しい複合開発が公表されることは、その区域で計画が進んでいることを示す出来事です。それは、価格が上がることや、賃料が取れることの根拠にはなりません。当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
この案件について利回りを計算することもできません。住戸の価格も賃料の見込みも、オフィスの賃料の水準も公表されていないため、分母と分子の両方がそろっていないからです。供給の実績として数えられるのは完成したあとで、上期に完成した住戸の数え方はドバイの完成プロジェクトに分けて書いています。別の開発会社が同じ月に公表した案件との並べ方はDubai IslandsのBay Estateの記事でも同じ作りにしています。
この記事は、DIFCの公式サイトに掲載されたH&Hの発表と、DIFCの不動産登記官の案内、DIFCの法令データベース、そしてDLDの2つのサービス案内だけを材料にしています。住戸の戸数、価格、支払いプラン、売買の区別、引き渡しの時期のいずれかが公表された時点で、この記事を更新します。