ドバイのディベロッパーの決算を読もうとしたとき、最初に決まるのは会社の良し悪しではありません。その会社が財務を公開しているかどうかです。四半期ごとの売上と利益を誰でも読めるのは、株式を公開して投資家向けの開示を出している会社だけです。開示を出していない会社は、どれだけ探しても財務諸表は出てきません。会社の名前をよく見かけるかどうかとは関係がありません。
開示が読める会社でも、そこで取り違えが起きます。発表に並ぶ数字は「販売額(property sales)」「売上(revenue)」「受注残(revenue backlog)」「税前利益」のように名前が分かれていて、同じ期間の発表の中で桁が大きく違います。Emaar Properties PJSC の2026年上期の発表では、売上がAED 23.9 billion、受注残がAED 164.9 billionです。この2つをどちらも「売上」として受け取ると、6倍以上離れた数字を並べることになります。
この記事では、まず財務を読めるかどうかを決める確認の順序を示し、次にエマールの2つの上場会社の違い、同じ会社の同じ期間でも開示によって数字が変わる理由、そして開示が見つからない会社をドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)の登録簿で確かめる方法を順に扱います。金額はすべて各社の公表表記のままAEDで載せ、円には換算していません。ここに挙げる会社を勧めるものではなく、当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
財務が読めるかどうかは、2つの確認で決まります
1つめの確認は、その会社の公式サイトに Investor Relations(投資家向け情報)のページがあるかどうかです。日本語の案内が用意されていない会社も多いので、英語サイトの該当ページを探します。ここに四半期ごとの財務諸表と業績発表が並んでいれば、売上と利益をその場で確かめられます。並んでいなければ、少なくとも公表された財務諸表は存在しないものとして扱います。
当サイトが2026年10月20日に各社の公式サイトで確認できた範囲では、次の法人が投資家向けの開示を出していました。ドバイの開発会社を網羅した一覧ではなく、確認できたものだけです。ここに無い会社が開示を出していないとは限りませんし、載っていることが品質の証明になるわけでもありません。
| 法人名 | 性格 | 当サイトが確認した最新の公表 | 読める場所 |
|---|---|---|---|
| Emaar Properties PJSC | 開発に加えてモールやホテルを持つ親会社 | 2026年上期(発表日 2026年8月7日) | 自社の投資家向けページ |
| Emaar Development PJSC | UAEの販売用住戸(build-to-sell) | 2026年上期(受注残は6月30日時点) | 自社の投資家向けページ |
| Deyaar Development PJSC | 開発と不動産の管理を行う公開会社 | 2026年1月〜6月 | 自社の投資家向けページ |
| Dubai Residential REIT | 賃貸住宅のREIT。開発会社ではありません | DFM上場は2025年5月28日 | 運用側の発表 |
Emaar Properties PJSC は、自社の投資家向けページで「Dubai Financial Market(DFM、ドバイ金融市場)に2000年3月から上場している公開株式会社」と説明しています。上場からの年数が長い会社は、同じ形式の開示が何年ぶんも積み上がっているため、1期だけを見るより前の期と並べて読むほうが実態に近づきます。
Deyaar Development PJSC は、2026年6月末までの6か月について、税前利益をAED 336.1 million、売上をAED 952.6 million、総資産をAED 7,979.0 millionと公表しています。エマールの発表が billion(10億)の単位で並ぶのに対し、こちらは million(100万)の単位です。単位をそろえずに「数字が小さい」と判断しないでください。開発会社の規模は、この桁の差がそのまま出ます。
Dubai Residential REIT は、賃貸住宅から収益を得る上場ファンドです。運用側の発表によると、DFMへの上場は2025年5月28日、銘柄コードは DUBAIRESI、新規公開での調達額はAED 2,145 million、上場時の時価総額はAED 14.3 billionで、住宅35,700戸を対象としています。不動産の分類の中に並んでいても、住戸を建てて売る会社とは事業の形が違います。賃料収入の指標を開発会社の売上と同じ列に置くことはできません。
「エマール」は、開示を出す会社が2つに分かれています
「エマールの決算」で検索してたどり着く先は、2つのうちのどちらかです。Emaar Properties PJSC は、住戸の開発に加えてモールやホテルを保有する親会社です。Emaar Development PJSC は、同社の投資家向けページの説明では「UAEにおける住宅・商業の build-to-sell(販売用)資産のディベロッパー」で、親会社の投資家向けページからは別の上場会社として案内されています。
親会社の2026年上期の売上AED 23.9 billionは、4つの区分に分かれています。UAEの開発がAED 17.7 billion、海外の開発がAED 1.1 billion、モールと小売がAED 3.5 billion、ホテル・レジャー・娯楽がAED 1.6 billionです。いちばん大きいのはUAEの開発ですが、モールやホテルの売上は住戸を売って得るものではありません。賃料や宿泊は景気の効き方が分譲と違うため、会社全体の数字をそのまま「分譲の勢い」として読むと、この違いが消えます。
Emaar Development PJSC 側の投資家向けページには、2026年上期の販売額AED 22.4 billion、純利益AED 6.7 billion、6月30日時点の受注残AED 127.7 billionが並びます。あわせて、2002年以降に住戸84,000戸以上を引き渡したと書かれています。引き渡した戸数は、売上や利益とは別の軸の実績です。どの年にどれだけ引き渡したかはこの表示からは分かれないため、年ごとの実績を見たいときは期ごとの開示をさかのぼることになります。
期間でとる数字と、ある時点の数字を同じ列に置かない
同じ発表の中にも、区切り方の違う数字が混ざっています。販売額・売上・利益は「2026年1月から6月まで」という期間の数字ですが、受注残は「2026年6月30日」という時点の数字です。前者は期間が長くなるほど積み上がり、後者は在庫のように増えたり減ったりします。
| 数字 | 2026年上期の公表値 | どの区切りの数字か |
|---|---|---|
| 販売額(property sales) | AED 26.6 billion | 2026年1月〜6月に契約した額 |
| 売上(revenue) | AED 23.9 billion | 同じ期間に売上として計上された額 |
| 税前利益(net profit before tax) | AED 12.8 billion | 同じ期間 |
| 受注残(revenue backlog) | AED 164.9 billion | 2026年6月30日の時点 |
販売額AED 26.6 billionと売上AED 23.9 billionは、同じ期間の数字でありながら一致しません。同じ発表の中に、名前の違う別の項目として並んでいます。受注残AED 164.9 billionも、同じ発表が「revenue backlog」として出している別の項目です。発表には、この3つを結びつける計算式も定義も書かれていません。そのため当サイトは、受注残を売上の実績としても将来の見通しとしても扱わず、会社が公表した時点の集計値として、そのまま載せています。
数字を他社と比べたいときは、この区切りをそろえるところから始めます。片方の会社の受注残と、もう片方の会社の年間売上を並べると、常に受注残が大きく見えます。会社の勢いを比べたことにはならず、区切りの違いを比べているだけになります。期間の数字は期間の数字と、時点の数字は時点の数字と並べてください。
同じ1社でも、どの開示を見るかで数字が変わります
いちばん間違えやすいのがここです。Emaar Development の2026年上期について、親会社の発表は税前利益AED 7.8 billionと書き、同社自身の投資家向けページは純利益AED 6.7 billionと書いています。受注残も、親会社の発表では「UAEの開発」という区分でAED 135.7 billion、同社側では会社の受注残としてAED 127.7 billionです。
どちらかが誤っているわけではありません。ラベルが「税の前」か「税を引いた後」かで違い、受注残は数えている範囲が区分と会社で違います。販売額はどちらの開示もAED 22.4 billionで一致していて、同社側には JV・JDA(共同事業)を含むという注記が付いています。違う数字が出るのは集計の定義が違うところで、定義が同じところは一致します。
この性質があるため、資料から数字を引き写すときは、金額と一緒に出どころの開示名・ラベル・期間の3つを控えてください。この3つを残しておけば、半年後に別の資料と突き合わせるときも同じ比較ができます。残していないと、自分が去年どちらの数字をメモしたのか分からなくなります。当サイトが数値のそばに必ず確認日と出典を置いているのは、この照合ができる形を保つためです。
開示が見つからない会社は、DLDの登録簿で確かめます
投資家向けの開示が見つからない会社でも、ドバイで開発を行うには登録が必要なので、DLDのオープンデータ側には残ります。配られているデータセットは Transactions、Rents、Projects、Valuations、Land、Building、Unit、Broker、Developer の9つで、会社そのものを引くときに使うのは Developer です。
| Developer のデータセットの列 | 読み取れること |
|---|---|
| Developer Number / Developer Name | 登録されている法人の番号と名称 |
| Registration Date | DLDに登録された日 |
| License Source / License Type / Legal Status | 免許の出所・種別と、法人の形態 |
| License Number / License Issue Date / License Expiry Date | 免許の番号と、発行日・有効期限 |
| Website / Phone / Fax | 登録されている連絡先 |
| Chamber of Commerce No. | 商業会議所の番号 |
この一覧に、売上も利益も自己資本もありません。登録簿で確かめられるのは「登録と免許が有効か」までで、財務の健全性は分かりません。それでも、免許の有効期限が切れていないこと、法人の形態が公表の表記と合っていることは、会社名の確認よりはるかに具体的な手がかりになります。案件の側は Projects のデータセットに状況と進み具合の列があり、ディベロッパー別データの読み方にまとめています。
登録簿で並べられる項目と、その限界はディベロッパー比較で登録簿から並べられる項目に整理しました。免許そのものを監督しているのがどの機関なのかはRERAの役割で扱っています。財務が読めない会社について、当サイトが推測で規模や安定性を書くことはありません。確認できなかった項目は、確認できなかったものとして空けておきます。
比べる前にそろえる3つ
決算の数字を自分で比べるとき、そろえるのは次の3つです。1つめは期間で、上期と1年、四半期と半年を混ぜません。2つめはラベルで、販売額・売上・受注残・税前利益・純利益を同じ列に入れません。3つめは範囲で、親会社の連結と、その中の1区分と、子会社そのものを区別します。この3つがそろって初めて、2つの会社の数字が同じ意味を持ちます。
そして、公表された決算は過ぎた期間の記録です。売上が伸びた会社の物件が値上がりするとも、受注残の大きい会社の引き渡しが予定どおり進むとも決まっていません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれについても保証しません。会社を選ぶ材料として決算を見るのは有効ですが、将来の約束として読まないでください。
開示は期ごとに更新されます。この記事の数字は2026年上期のもので、確認日は2026年10月20日です。次の期の発表が出たら、同じ会社の同じラベルの数字がどう動いたかを並べてください。1期だけの数字より、同じラベルで並べた複数の期のほうが、読み取れることが多いです。