ドバイの住宅価格には公式の指数があります。Dubai Land Department(DLD、ドバイ土地局)が「Mo’asher」という名前で公表している住宅売買価格指数で、オープンデータの案内ページには参照期間の表記としてIndex 2012 = 1と書かれています。つまり指数の値は金額ではなく、2012年の水準を1としたときの位置です。ある月のアパートメントの指数が1.482だったとしても、それは価格でも面積あたりの単価でもありません。
この記事は、公式ページとDLDの公表資料に書かれている範囲だけを使って、この指数の目盛りを合わせるためのものです。何を測っているのか、どの頻度でどの区分が並ぶのか、作り方は何か、そしてDLD自身が利用について何と書いているのかを順に確認します。金額の水準そのものを知りたい場合は、当サイトがDLDの原記録を集計したドバイ不動産の価格中央値のほうが近い答えになります。指数と中央値は答えている問いが違うので、この記事では両者の役割の違いも整理します。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
公式の指数は「Mo’asher」という名前で出ています
DLDの公表資料には、DLDがProperty Finderと協力してMo’asherを公表していると書かれています。ここは出典の層を分けて読む必要があります。指数を出しているのは政府機関であるDLDですが、作成には民間の事業者が関わっています。したがって「DLDの公式指数」と呼ぶのは正しく、「政府機関だけで作った統計」と読むのは正確ではありません。当サイトでは、政府機関そのものの公表と、公的データを民間が加工して提供するものを書き分けています。
公表されているのは売買の指数だけではありません。DLDの発表のひとつは、Mo’asherを「ドバイの公式な売買および賃料パフォーマンスの指数」として紹介しています。売買の価格指数と賃料の指数が別の系列として出ているため、「ドバイの不動産指数が上がった」という表現だけでは、売買と賃料のどちらの話なのかが決まりません。数字を引用するときは、どちらの系列なのかを先に確かめてください。
名前の読み方も押さえておくと混乱が減ります。Mo’asherはアラビア語で指標を指す語をローマ字にしたもので、商品名ではなく指数そのものの名前です。日本語の記事では「ドバイの公式価格指数」と訳されることがありますが、原語を併記しておかないと、読者がDLDのページで同じ資料を探し当てられません。当サイトでは原語の表記を落とさずに残します。
指数の値は金額ではなく、2012年を1とした比です
基準の置き方は公表資料に明記されています。基準年は2012年で、月次の指数の基準月は2012年1月、四半期の指数の基準となる四半期はQ1 2012です。この取り方のため、指数の値はそのまま「2012年の水準に対していまどの位置にいるか」を意味します。基準より高ければ1を超え、基準より低ければ1を下回ります。
読み違えが起きやすいのはここです。ある月の全体の指数が1.387、同じ月のアパートメントが1.482、ヴィラ・タウンハウスが1.343という並びを見たとき、これは3つの価格ではありません。それぞれの区分が基準の年からどれだけ離れた位置にいるかを示す値です。金額の大小を比べたいなら、指数ではなく後で触れるIndex Priceの列か、取引価格そのものの集計を見ます。
もうひとつ、他の資料と数字が噛み合わないときの原因になるのが、基準を100に置き換えた表記です。指数は基準を1にも100にも置けるため、同じ系列が小数で書かれることもあれば、基準を100とした三桁の数字で書かれることもあります。桁がまるごと違う数字を見たときは、値が間違っているのではなく基準の置き方が違う可能性を先に疑ってください。公式ページの表記は2012年を1とする形です。
ページには年次・四半期・月次の3つが並びます
当サイトが2026年10月23日に公式ページの表示を確認したところ、参照期間はQ3 2022と記され、年次・四半期・月次の3つの頻度の値が並んでいました。先頭の位置には暫定値として年次1.193、四半期1.383、月次1.387の3つと、9か月の変化17.10%、前期比4.14%が置かれています。
注意したいのは、3つの頻度が同じ期間を見ていないことです。表示されていた年次の値は2021年、四半期は2022年第3四半期、月次は2022年11月のものでした。頻度ごとに対象の期間が違うので、年次の1.193と月次の1.387を並べて「短い期間でこれだけ動いた」と読むことはできません。同じ頻度の系列どうしを並べたときに、はじめて変化として読めます。
| 区分 | 年次(2021年) | 四半期(2022年第3四半期) | 月次(2022年11月) |
|---|---|---|---|
| 全体(Overall) | 1.193/AED 1,133,776 | 1.383/AED 1,315,810 | 1.387/AED 1,334,010 |
| アパートメント(Apartments) | 1.201/AED 1,041,679 | 1.444/AED 1,232,604 | 1.482/AED 1,268,623 |
| ヴィラ・タウンハウス(Villas/Townhouses) | 1.198/AED 1,961,679 | 1.276/AED 2,134,295 | 1.343/AED 2,189,579 |
各セルでスラッシュの後ろに置いた金額は、公式ページがIndex Priceとして示している値です。指数に対応する金額として並んでいるもので、売り出し中の物件の価格でも、その区分の最安値でもありません。候補の住戸の見積りと並べる数字ではないという前提で見てください。
そしてこれらは、当サイトが確認した時点の表示です。参照期間が過年度のものである点を見ても、公式ページの表示が常に直近の月を指しているとは限りません。最新の値が必要なときは、後述の配布経路から当月のレポートを確認してください。当サイトは、確認できた表示をそのまま記録し、推測で新しい値を埋めることはしません。
指数の順位と金額の順位は一致しません
同じ年次の表示を区分ごとに見ると、全体1.193、アパートメント1.201、ヴィラ・タウンハウス1.198で、3つはほとんど同じ位置にあります。いっぽう同じ行のIndex Priceは、全体がAED 1,133,776、アパートメントがAED 1,041,679、ヴィラ・タウンハウスがAED 1,961,679です。指数はほぼ横並びなのに、金額の側は大きく離れています。
これは矛盾ではありません。指数は基準の年からの変化を見る値で、区分どうしの金額の高さを比べる値ではないからです。ヴィラ・タウンハウスのほうが金額が大きいことと、基準年からの変化の度合いが他の区分と近いことは、同時に成り立ちます。「指数が高い区分は高い物件が多い区分」という読み方をしないでください。
この区別は、資料を人に渡すときにも効きます。指数の値だけを抜き出した表は、見た目が整っているぶん、金額の表と取り違えられやすくなります。当サイトで指数を引用するときに、基準の置き方と区分、参照期間をそろえて書いているのはそのためです。
作り方はヘドニック回帰モデルだと書かれています
公式ページには、DLDがヘドニック価格の方法論(hedonic price methodology)を採用してドバイの住宅価格指数を作っていること、住宅は属性によって記述される異質な財であること、そして指数がヘドニック回帰モデルで作られていることが書かれています。方法論を説明した文書も、同じページから配布されています。
属性を調整するという考え方が、中央値との大きな違いです。中央値は、その期間に登記された物件の組み合わせがそのまま効きます。高額なエリアの大型住戸が多く登記された月は、個々の住戸の価値が動いていなくても中央値が上がります。ヘドニック回帰は、面積や所在地のような属性の違いを統計的に取り除き、価格そのものの動きに近づけることを狙う方法です。
ただし当サイトでは、モデルの説明変数の一覧や、集計から除く取引の条件を確認できていません。方法論の文書は公開されているものの、今回は機械で本文を読み取れず、記載を引用できませんでした。確認できていないことを推測で埋めることはしないので、ここは空けておきます。モデルの中身まで追う必要がある場合は、公開されている方法論の文書を直接確認してください。
DLDは「価格決定や投資判断に使わないように」と書いています
公式ページには利用についての注意書きがあります。この指数を、価格の決定や投資判断、実績の測定を含む商業目的に使うべきではないと明記されています。さらに、現時点では精度の指標を提供しておらず、指数の作成には十分な注意と統計的な厳密さを払っているものの、予測の精度は主張しないとも書かれています。
これは指数が信用できないという意味ではありません。公的な指数の多くと同じで、用途が限定されているということです。市場全体の方向を見る物差しとしては使えますが、特定の住戸の価格を決める根拠や、将来の価格を見込む根拠としては、公表元自身が想定していません。指数の値を引いて「いま買えば上がる」と主張する資料を見たときは、その使い方が公表元の注意書きと噛み合っているかを確かめてください。
| 項目 | 公式ページでの記載 |
|---|---|
| 基準 | Index 2012 = 1(基準年は2012年、月次の基準月は2012年1月、四半期はQ1 2012) |
| 頻度 | 年次・四半期・月次の3つ |
| 作り方 | ヘドニック価格の方法論(hedonic price methodology)/ヘドニック回帰モデル |
| 区分 | 全体、アパートメント、ヴィラ・タウンハウス |
| 公表の体制 | DLDがProperty Finderと協力して公表 |
| 利用上の注意 | 価格決定・投資判断・実績測定を含む商業目的には使うべきでないと明記 |
| 予測の精度 | 精度の指標は提供しておらず、予測精度は主張しないと明記 |
当社も、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。この記事は公表資料の読み方を整理したもので、購入の勧誘でも投資の助言でもありません。指数の水準から特定の住戸の適正価格を導くことはできないという点だけは、譲らずに守っています。
当サイトの集計とは、役割が違います
当サイトは、DLDが配布している原記録を自分で集計した値を別に持っています。2026年1月1日から8月25日までにSalesとして登記された売買110,525件で、価格の中央値は1,424,503 AED、平均は3,118,323 AEDです。集計ファイルは2026年8月28日に生成したものです。これはDLDが公表した統計ではなく、DLDの原記録を当サイトが集計したものなので、引用するときは後者として扱ってください。
公式指数と当サイトの集計は、答えている問いが違います。公式指数は「基準の年からどれだけ動いたか」、中央値は「登記された売買の真ん中はいくらだったか」です。候補の価格が分布のどこにあるかを見るなら中央値、期間をまたいだ変化の向きを見るなら指数、という使い分けになります。どちらか一方だけで両方の問いに答えようとすると、無理が出ます。
区分ごとの中央値と平均の開きはドバイ不動産の価格中央値、価格帯ごとの登記件数はドバイ不動産の価格帯分布にまとめています。系列全体の入口はドバイのデータです。
最新の指数値をどこで取るか
DLDの公表資料には、Mo’asherの入手先として、DLDの調査・研究の区画と、協力先であるProperty Finderのブログに掲載される月次のレポートが挙げられています。公式の案内ページ自体は、オープンデータの区画に住宅売買価格指数として置かれています。月次のレポートはPDFの形で公開されており、表題に対象の月が入っています。
ここでも出典の層を分けてください。民間の分析サイトが「ドバイの価格指数」として示す数字は、DLDの公式指数と同じ系列とは限りません。基準年、対象とする物件、集計の方法のどれかが違えば、値は一致しません。引用するときは、公式のMo’asherなのか、民間が独自に作った指数なのかを明示してください。当サイトは、まとめサイトや他社のデータサイトを出典にしません。
確認できなかったこと
当年の指数値は確認できていません。当サイトが確認した公式ページの表示は、参照期間が過年度のもので、今年の値は載っていませんでした。表示がどの周期で入れ替わるのかという更新の実績も、公表されているものを確認できていません。
ヘドニック回帰モデルの説明変数の一覧、集計から除く取引の条件、そして指数の対象に含まれる物件の範囲も未確認です。方法論の文書は公開されているため、必要な場合は原本を確認してください。これらが分からない状態で、指数の値から個別の住戸の価格を逆算することはできません。
指数を見る前に決めておくこと
最初に決めるのは、自分が知りたいのが「変化」なのか「水準」なのかです。変化を知りたいなら指数、水準を知りたいなら取引価格の集計、というだけで、見るべき資料が分かれます。ここを決めずに数字を集めると、基準の違う値を並べて比べてしまいます。
次に、引用する数字ごとに、基準の置き方、区分、参照期間、公表元の4つを記録してください。この4つがそろっていない指数の数字は、他の資料と突き合わせられません。当サイトが数値に出典と確認日を併記しているのは、読者が同じ数字をたどり直せるようにするためです。基準と数え方の方針は出典と数え方にまとめています。
価格そのものを調べる段へ進む場合は、ドバイの不動産価格・相場に関連する記事を集めています。指数は市場の方向を見る道具で、候補の住戸の値段を決める道具ではありません。その線を引いたうえで使えば、公式指数は数少ない公的な手がかりとして役に立ちます。