Savills Middle East が2026年10月14日に公表したアブダビの住宅市場レポートで、2026年第3四半期の住宅の取引が6,085件だったと示されました。日本語でも「アブダビの住宅取引はオフプランが81パーセント」という形で紹介が始まっています。
先に結論を書きます。この第3四半期の数字は、政府機関が公表した値ではありません。発表したのは不動産の仲介と調査を行う民間企業で、当サイトの区分では research(公表された調査)にあたります。アブダビで不動産の取引を登録している政府機関は Abu Dhabi Real Estate Centre(ADREC、アブダビ不動産センター)ですが、当サイトがADRECの公表ページを確認した2026年10月22日の時点で、第3四半期のレポートは見つかりませんでした。ADRECの最新の集計は、2026年8月18日に公表された上半期(1月から6月)のマーケットレポートです。
これは「調査会社の数字が信用できない」という話ではありません。層の違う2つの数字を、同じ表に並べられないという話です。当サイトは出典の層を government(政府機関そのものの公表)と research(公表された調査)と platform(政府データを加工して提供する民間)に分け、本文でも書き分けています。以下では、第3四半期として公表されている値を項目ごとに並べ、ADRECが上半期について公表している値と、層を分けたまま突き合わせます。金額はAEDのまま書き、円には換算しません。
2030年までの住宅供給に、見通しが2つあります
層の違いがいちばん分かりやすく現れているのが供給の見通しです。ADRECの上半期レポートには、2030年までに加わる住宅がおよそ71,000戸と書かれています。Savillsの第3四半期レポートには、2030年までに加わる住宅がおよそ68,000戸と書かれています。期限も対象の言い方も同じなのに、値が一致していません。
どちらかが間違っているとは言えません。集計の範囲と数え方が違えば、同じ言葉でも違う数字になります。たとえば、着工しただけの計画を数えるかどうか、引き渡しの時期が未定の住戸を含めるかどうか、国民向け住宅を含めるかどうかで、合計は変わります。ADRECは、すべての結果が登録された取引データから導かれたもので、価格帯の検証、取引の絞り込み、地理的な層化という手順を踏んでいると資料に明記しています。Savillsの公表ページには、同じ水準の説明を見つけられませんでした。
これは優劣ではなく、読者が同じ数字をたどり直せるかどうかの差です。当サイトは、この2つの差を推計しません。差が生まれた理由を確かめられないまま「およそ何戸の違い」と書けば、根拠のない数字がもう1つ増えるだけです。供給の見通しを使うときは、どちらの推計なのかを必ず書き添えてください。アブダビの供給の記録のたどり方はアブダビ不動産の市場規模に整理しています。
第3四半期として公表されている値
Savillsの公表ページで確認できた項目を並べます。分母が書かれているものは、分母も一緒に書いています。分母の書かれていない比率は、他の資料と比べる材料になりません。
| 項目 | 公表されている値 | 分母・対象 |
|---|---|---|
| 住宅の取引件数 | 6,085件 | 2026年7月から9月の合計 |
| 前の四半期からの変化 | 19パーセント減 | 件数ベース |
| オフプランの比率 | 81パーセント | 取引全体に占める割合 |
| アパートの価格 | 前年同期比で9パーセント上昇 | 平均の値 |
| ヴィラ・タウンハウスの価格 | 前年同期比で8パーセント上昇 | 平均の値 |
| AED10 millionを超える取引 | 前の四半期から35パーセント増 | 件数ベース |
| 賃貸の契約件数 | 第3四半期に29パーセント増 | 更新が主な要因と記載 |
| 国際的な買主の割合 | 住宅販売額の70パーセント | 2026年上半期の値 |
| 2030年までに加わる住宅 | およそ68,000戸 | 戸数の見通し |
注意したいのは、下の2行が第3四半期の数字ではないことです。国際的な買主の70パーセントは上半期の値で、供給のおよそ68,000戸は2030年までの見通しです。四半期のレポートに載っていても、対象期間は項目ごとに違います。「第3四半期のレポートによると」と書き出して全部を四半期の値として紹介すると、2つの項目が別の期間の数字だと伝わりません。
価格の上昇幅(アパートが9パーセント、ヴィラ・タウンハウスが8パーセント)も、公表ページには平均の値としか書かれていません。平均と中央値のどちらなのかが書かれていないため、当サイトはどちらとも書きません。平均は高額の取引に引っ張られ、中央値は引っ張られません。この区別を省くと、同じ上昇幅がまったく違う意味になります。
政府が公表しているのは、上半期までです
ADRECが2026年8月18日に公表した上半期のマーケットレポートから、住宅に関わる値を抜き出します。この資料は、アブダビで取引を登録している機関そのものの公表です。
| 項目 | ADRECの公表値(2026年上半期) |
|---|---|
| 住宅の販売額 | AED70.4 billion(前年同期はAED25.3 billion) |
| オフプランの比率 | 販売額の89パーセント、取引件数の82パーセント |
| 住宅の総ストック | およそ409,000戸 |
| 2022年以降の年平均の増加 | 2.9パーセント |
| 2030年までに加わる住宅 | およそ71,000戸 |
| 引き渡しのピーク | 2028年のおよそ21,800戸 |
| 有効な住宅リース契約 | 233,000件 |
| リースの総額 | AED9.3 billion |
| 新規リースの価格 | アパートが17パーセント、ヴィラが9パーセント上昇 |
| 投資区域の住戸 | およそ72,000戸(うちAl Reem Islandが27,500戸) |
| 販売額の多いエリア | Hudayriyat Island がAED19 billion(住宅販売額の27パーセント)、Saadiyat Island がAED13.3 billion |
ADRECは別の発表で、2026年上半期に登録された不動産取引の総額をAED117 billionとし、前年同期から金額で112パーセント、件数で61.7パーセント増えたとしています。内訳は、売買がAED86.1 billionで16,838件、抵当がAED26.7 billionで8,876件です。海外からの直接投資はAED13.8 billionで309パーセントの増加、投資した人の国籍は116でした。
このAED117 billionは住宅だけの数字ではありません。売買と抵当、ムサタハや長期リースを含む登録取引の合計です。住宅の販売額として引くなら、上の表のAED70.4 billionです。総額と住宅の販売額を同じ段落に並べると、片方だけを読んだ人が住宅市場の規模を取り違えます。上半期の発表を発表ごとに整理したものはアブダビ不動産の2026年上半期レポートにあります。
オフプランの81パーセントは、89パーセントが下がった数字ではありません
ここがいちばん取り違えやすいところです。ADRECはオフプランの比率を2つ示しています。販売額の89パーセントと、取引件数の82パーセントです。いっぽうSavillsが示しているのは、取引に占める割合の81パーセントです。
件数ベースでそろえると、上半期の82パーセントと第3四半期の81パーセントで、ほぼ同じ水準です。ところが、金額ベースの89パーセントと件数ベースの81パーセントを並べて「オフプランの比率が下がった」と書くと、分母の違いを変化として読んだことになります。市場は何も変わっていないのに、減ったように見える文章ができあがります。
金額ベースと件数ベースで差が出るのは、1件あたりの金額が区分ごとに違うからです。ADRECが両方の分母を示しているのは、この差が実際に生じるためです。片方だけを引けば、同じ市場が違う姿で見えます。比率を引用するときは、必ず分母を一緒に書き写してください。オフプランそのものの仕組みはアブダビのオフプラン物件とはに分けて書きました。
賃貸の「29パーセント増」は、更新を含む件数です
Savillsの第3四半期レポートは、賃貸の契約件数が29パーセント増え、その主な要因が更新だとしています。これは賃料が29パーセント上がったという意味ではありません。動いたのは契約の件数です。
賃料の水準については、ADRECの上半期レポートが、新規のリースでアパートが17パーセント、ヴィラが9パーセント上昇したと示しています。有効な住宅リース契約は233,000件、リースの総額はAED9.3 billionです。更新の契約と新規の契約は、同じ賃料で動きません。更新には上げられる幅の決まりがあり、新規は募集時の条件で決まります。件数の増加と価格の上昇を同じ行に並べると、賃料が件数と同じ勢いで上がったように読めてしまいます。アブダビの賃貸データの出どころと更新の決まりはアブダビの家賃データにまとめています。
数字を引用する前に通す4つの分岐
ここまでの読み分けを、手順にしておきます。アブダビの不動産の数字は、発表元も期間も分母もそろっていないまま流通します。引用する前に、次の4つを順に確かめてください。
今回の第3四半期の値と上半期の値は、分岐の1(発表元)と2(対象期間)の両方が違います。さらにオフプランの比率では分岐の3(分母)も違いました。3つが違う2つの数字を引き算してはいけません。並べるとしても、行を分け、発表元と期間と分母を各行に書き添える形にします。アブダビの取引データがどの画面で、どの頻度で更新されるのかはアブダビの不動産取引データに整理しています。
この2つの資料から分からないこと
埋められなかった項目を、そのまま並べます。右の列が「記載がありません」になっているものは、公表を待つしかありません。
| 知りたいこと | 2つの資料の扱い |
|---|---|
| 第3四半期の住宅販売額(政府の値) | ADRECの公表を確認できません |
| 第3四半期のエリア別の販売額 | どちらにも記載がありません |
| Savillsの集計の範囲と除外の条件 | 公表ページに記載を見つけられません |
| 第3四半期の住宅とそれ以外の内訳 | 記載がありません |
| 2030年までに加わる住宅の内訳 | エリア別・種別の記載がありません |
| 第3四半期の外国人買主の比率 | 上半期の値しかありません |
| 価格が下がっているエリアの一覧 | どちらにも記載がありません |
| 平均と中央値のどちらを示した値か | Savillsの公表ページには記載がありません |
項目が多いように見えますが、四半期のレポートとしてはこれが普通の姿です。問題になるのは、ここを推測で埋めた説明を読んでしまうことです。「アブダビの住宅市場は第3四半期に19パーセント縮小した」と書いてある説明を見たら、何の19パーセントなのかを確かめてください。公表されているのは件数が前の四半期から19パーセント減ったという値で、販売額が減ったという値ではありません。
次の公表で確かめること
追う価値があるのは2点です。1つは、ADRECが第3四半期または年初から9か月ぶんの集計を公表するかどうかです。公表されれば、政府の値だけで四半期の動きをたどれるようになり、調査会社の値と層を分けたまま突き合わせられます。もう1つは、2030年までの供給の見通しが次の資料でどう変わるかです。およそ71,000戸とおよそ68,000戸の両方を記録しておけば、次に出た数字がどちらの系列の更新なのかを判断できます。
当サイトは、この2つの数字を足したり平均したりしません。発表元ごとに別の系列として残し、引用するときは公表元と公表日と分母を必ず添えます。読者が同じ数字にたどり着けることが、このサイトが信頼の根拠にしているものです。なお当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。市場の数字がどう動いても、将来の成果を示すものではありません。