オフプラン、つまりまだ建っていない住戸を買う話を聞くとき、説明の中心になるのはたいてい価格と支払いプランです。けれども買う側が本当に気にしているのは、その手前にある別のことのはずです。完成までの数年間、まだ存在しないものに代金を入れ続けるのだから、払ったお金はどこに置かれ、誰が動かせるのかを知りたい。
アブダビの場合、この問いに答えているのは会社の方針ではなく法律です。首長国の不動産分野を規律するLaw No. 3 of 2015には、オフプランで売ってよい条件、代金を置く口座の作り方、その口座からお金を出せるようになる地点、工事が止まったときの扱いまでが条番号ごとに書かれています。数字も入っています。工事の出来高が2割に届くまで口座から資金を出せないこと、完成証明から1年は工事代金の一部が残されること、面積が契約と違ったときに価格がどう動くこと。いずれも、契約書の文言ではなく条文の側に書かれている決まりです。
この記事は、その条文を順番に並べ直したものです。個別の案件が安全かどうかを判定するものではありませんし、特定のディベロッパーを評価するものでもありません。読み終わったときに、手元の契約書と資料のどこを見れば法令どおりかを確かめられるかが分かる状態を目指しています。所有権そのものの種類(所有・用益・ムサタハ・長期リース)についてはアブダビ不動産の所有権は4種類で扱っているので、ここでは触れません。
オフプランで売るには、先に4つの条件がそろっている必要があります
オフプラン販売は、契約書に署名した時点から始まるわけではありません。その手前に、売る側が通らなければならない段が積み上がっています。
まず第12条です。主たるディベロッパーであれ下位のディベロッパーであれ、不動産開発登録簿(Real Estate Development Register)に登録されていない者は、不動産開発の活動を行えません。会社としての登録が最初の関門にあたります。次が第13条で、ディベロッパーは個々の不動産プロジェクトをADRECへ登録しなければなりません。会社の登録と案件の登録は別の手続きで、片方だけでは足りません。
広告もこの段階に入ります。第14条は、ADRECの書面による許可を得る前に、国内外の媒体で広告を出したり、展示会に出展してオフプランの住戸を売り込んだりしてはならないと定めています。許可は、必要な書類をそろえて申請してから30日以内に発行されるとも書かれています。日本で開かれる物件セミナーや海外の展示会で見かける案件も、この条文の対象に入ります。
そのうえで第15条が、売却そのものの条件を並べています。原文で確認できる形では、次の条件が満たされない限り住戸をオフプランで売ってはならない、という書き方です。条件として挙がっているのは、権限のある機関がそのプロジェクトを承認していること、主たる開発計画または付随する開発計画を、初期の各階図面と区画図面を含めてADRECの不動産登記簿へ預けていること、ディベロッパーが土地について何らかの権利を持っていること、そしてプロジェクト・エスクロー口座を開いていることです。同じ条には、買主の側の義務も書かれています。買主は実際の出来高に応じて代金を支払う、という一文です。
ここが、この記事のいちばん重要な出発点になります。オフプランの支払いは、日付だけで決まるものとして条文に書かれていません。工事がどこまで進んだかと結び付けられています。支払いプランの表に並んでいる区切りが、実際の進捗とどう対応しているのかを聞くと、会社によって答えの粒度がまったく違います。
代金はプロジェクトごとの口座に入り、出来高で出ていきます
エスクロー口座は、第18条から第24条までがまとめて扱っています。まず第18条が、ディベロッパーは必要書類を添えてADRECへ申請し、承認された書式に沿って「エスクロー口座契約(The Escrow Account Agreement)」を結ぶと定めています。そして口座は個々の不動産開発プロジェクトごとに開かれます。同じ会社が複数の案件を進めていても、資金を1つの口座にまとめることはできません。この法律が施行される前に工事が7割以上進んでいた案件は、この条件の適用から外れるという例外も同じ条に書かれています。
口座に入ったお金が動く条件は第19条です。引き出しにあたっては口座契約の条件に従うこととしたうえで、ディベロッパーが建設工事の2割以上を完了していなければ、いかなる金額も引き出せないと定めています。裏を返せば、着工直後にまとまった金額を集めたとしても、その資金は工事が一定まで進むまで口座の中に留め置かれることになります。
完成しても、全額がすぐに出ていくわけではありません。第24条は、口座受託者が不動産開発プロジェクトの全体価額の5%以上を留保すると定めています。留保された分を引き出せるのは、不動産開発の完成証明の日から1年が経過したあとです。ADRECが認めれば、銀行保証と引き換えに早く引き出すこともできると書かれています。竣工直後に不具合が出たとき、資金の側に手当てが残っている状態を作るための仕組みです。
口座の中身は、外から見えないまま放置されるわけでもありません。第21条は口座受託者に対し、3か月ごとに入出金の報告をADRECへ提出し、あわせて公認の監査人が作成した年次報告を提出することを義務づけています。口座の状況を定期的に行政が受け取る構造になっています。
差押えについては第20条が扱っています。原則として口座に預けられた金額は差し押さえられません。ただし、オフプラン住戸の買主、請負業者、資金提供者が、建設契約や融資契約にもとづいて支払った金額や受け取るべき金額を請求する権利は妨げられないとされ、その場面として4つが挙げられています。プロジェクトがディベロッパーによって取り消されたか放棄された場合、ディベロッパーが中断しADRECがそれを取り消しまたは放棄とみなした場合、ディベロッパーの登録がこの法律にもとづいて取り消された場合、そして確定した司法判断が出た場合です。
口座をはさんで、誰が何をできるかが分かれています
条文を読み進めると、同じ口座に対して立場ごとにできることが違うと分かります。この違いを取り違えると、誰に何を頼めるのかが見えなくなります。
買主の側にある権利で、はっきり書かれているのは第22条です。この法律にもとづいてプロジェクト・エスクロー口座へお金を預けた者は、口座受託者が保管している自分に関する明細を閲覧し、その写しを取得できます。お金を出す立場にありながら口座の運用に関与しないぶん、記録を見る権利が用意されている、という組み立てです。
一方で、ディベロッパーの側には制限が置かれています。第16条は、ディベロッパーは、不動産の処分に関連する登録手数料その他の費用や報酬を徴収してはならないと定めています。例外は、ADRECが定める上限の範囲で他者から受け取る事務手数料だけです。「登録費用」という名目で見積書に載っている金額があれば、それが何にあたるのかを確かめる根拠になります。
融資する銀行も、この口座の外にはいられません。第23条は、ディベロッパーがプロジェクトの土地や土地に関する権利を担保に入れられるのは、その案件の建設資金を得る目的に限られるとしたうえで、3つの条件を課しています。土地に担保が設定されていることを買主へ通知し、売買契約書にも明記すること。代金を全額支払い、その代金がエスクロー口座に預けられた住戸については担保を外すことをディベロッパーが約束し、資金提供者が承認すること。そして、銀行や金融機関は融資額の全部をエスクロー口座へ入金し、ディベロッパーへ直接支払わないことです。
条文の外では、ADRECが運営するDARIに、買主が自分で使える窓口が用意されています。「Inquiry About Deposits」は、登録された買主がエスクロー管理システムを通じて自分の住戸の取引明細を請求する手続きです。DARIの案内によれば、表示されるのは物件の情報、プロジェクトの情報、ディベロッパーの情報、所有者の情報、そしてエスクロー口座の情報という5つの区分で、会社の署名権者と銀行とディベロッパーを経由する承認が済むと、明細と領収書をダウンロードできると書かれています。第22条の権利を、画面から行使する経路にあたります。
売買の登録を起票するのはディベロッパーで、期限は21日です
代金の置き場所が決まったら、次は取引そのものの記録です。第27条は、ADRECに「初期不動産登記簿(Initial Real Estate Register)」という登記簿を設け、オフプランで売られた住戸に関するすべての処分をそこへ記録すると定めています。完成した物件を置く不動産登記簿とは別の登記簿で、この二層構造がアブダビのオフプランの土台になっています。
第29条は、初期不動産登記簿に記録された住戸を、施行規則の定める規則に従って売りに出したり、担保に入れたり、その他の方法で処分したりできるとしています。オフプランの転売も担保設定も、この登記簿の上で行われるという建て付けです。第28条は、譲渡する側に登録の責任があるとし、怠った場合には譲り受ける側が譲渡人の費用で登録に必要なことを行えるとしています。
実務の側はDARIの案内に書かれています。オフプラン住戸の売買登録を起票できるのは不動産ディベロッパーだけです。買主の側から申請を立ち上げることはできません。ディベロッパーが売買の日付、完成予定、価格、分割払いの内容、仲介業者の情報、買主の情報を入力し、売買契約書などの書類を添えて提出すると、自治体交通局の承認へ回ります。承認が下りたあと、費用を負担すると指定された側が申請の一覧から支払いを行い、支払いが済むと売買の証明書が発行されます。
費用の額も同じ案内に書かれています。売買価格の総額の2%で、契約日から21日を過ぎた遅れた登録にはAED 10,000が加算されます。この期限は買主がコントロールできるものではないため、契約日と登録が起票された日を別々に控えておくと、遅れが起きたときに気づけます。購入時に必要な費用の全体像はアブダビ不動産の購入費用に、登録された取引がデータとしてどう集計されるかはアブダビの不動産取引データにまとめてあります。
なお、初期不動産登記簿から不動産登記簿へ移る場面、つまり引き渡しの前後で何が起きるかはアブダビ不動産の引き渡しで、引き渡し前に住宅ローンの抵当権を登記できるようになった枠組みはアブダビのオフプランと住宅ローンで扱っています。
面積が契約と違ったときの扱いは、条文に数字で書かれています
オフプランは、図面の上で売買される取引です。完成した住戸の面積が、契約時の数字とわずかにずれることがあります。この場面は第31条が扱っていて、増えた場合と減った場合のそれぞれについて、価格がどう動くかを段階で定めています。
条文はまず、開発計画の図面をADRECへ預けた時点で住戸の面積が初期不動産登記簿に登録され、そこに記録された面積が契約上の面積とみなされるとしています。そのうえで、増減の幅ごとに次の扱いになります。
| 実際の面積の変化 | 価格の扱い | 買主の選択 |
|---|---|---|
| 5%以下の増加 | 補償も価格の増額も計算しません | - |
| 5%超10%以下の増加 | 合意した価格をもとに、増えた割合と同じだけ増額します | - |
| 10%超の増加 | 増えた割合と同じだけ増額して支払う | 支払うか、契約を解除するかを選べます |
| 5%未満の減少 | 価格は減額されません | - |
| 5%以上10%以下の減少 | 合意した価格をもとに、減った割合と同じだけ減額します | - |
| 10%超の減少 | 減った割合と同じだけ減額する | 減額を受けるか、契約を解除するかを選べます |
出典はADREC/DARIに掲載されたLaw No. 3 of 2015の第31条で、確認日は2026年9月12日です。表の記号は、条文に買主の選択肢が書かれていないことを示します。増加側にはもう1つ条件が付いていて、住戸を買主へ引き渡したあとは、面積が増えたことを理由とする補償をディベロッパーが請求できません。引き渡しの前後で扱いが変わる点になります。
この条文を知っていると、契約書に書かれた面積の数字が単なる目安ではないことが分かります。図面から読み取った専有面積、バルコニーの扱い、共用部分の按分など、どの定義で計算した面積なのかを契約の前に確かめておくと、完成後に増減率を計算する土台ができます。
工事が止まったとき、条文が用意している経路は3つです
ここまでは順調に進む前提の話でした。条文は、進まなかった場合についても書いています。事象によって、動く人も結末も違います。
1つ目は着工しない場合です。第25条は、ディベロッパーが契約上の義務どおりにプロジェクトを開始しないとき、売られた住戸の5%以上を所有する買主がADRECへ申し立てれば、ADRECはその案件について調査を行うとしています。調査の結果、正当とは認められない理由で開始が遅れ、この法律や施行規則、あるいは契約上の義務に反していると判明した場合、ADRECはプロジェクトを取り消すことができます。取り消されたときは、口座に預けられた金額が第26条の定めに従って預けた人たちへ分配されます。
2つ目は引き渡しが遅れる場合です。同じ第25条が、ADRECに対して約束した引き渡し予定日から6か月を超えて遅れたとき、ADRECはディベロッパーに買主のための遅延金を課すことができるとしています。ただし、その遅れが自分の制御の及ばない理由によるものだとディベロッパーが証明した場合は除かれます。遅れれば自動的に補償が出る仕組みではありません。
3つ目は完成できない場合です。第26条は、口座受託者がADRECの承認を得て、預けた人たちの権利を守るために必要な措置をとるとしています。その措置には、資金提供者または別のディベロッパーによる完成も含まれうると書かれています。ADRECの承認から6か月のうちに完成のための解決策が見つからなければ、受託者はADRECの監督のもとで口座の残額を分配します。
分配の順位は条文に並んでいます。最初が口座管理にかかった未払いの費用で、受託者に対してADRECが定める上限まで支払われます。次がプロジェクトの資金提供者と住戸の買主、または買主の資金提供者で、金額が足りなければ按分されます。その次が請負業者と供給業者で、ここも足りなければ按分です。最後がディベロッパーです。買主が2番目に置かれている一方、足りなければ按分されると書かれている点は見落とせません。エスクローがあることと、全額が戻ることは別の話です。条文は続けて、この分配があっても債権者がディベロッパーに対して不足分を請求する権利は妨げられないとしています。
契約そのものの解除については第17条が扱っていて、どちらかに実質的な違反があったとき、違反の是正を通知したうえで、ディベロッパーも買主もオフプラン売買契約を解除できるとしています。会社側の登録が消える場面もあります。第80条は、破産や清算、オフプラン販売の承認を得てから6か月が過ぎても正当な理由なく建設工事を始めない場合などを挙げ、ADRECが不動産開発登録簿から登録を抹消できるとしています。
買う気持ちを伝える段階にも、エスクローが入りました
ここまでは売買契約を結んだあとの話です。実際のオフプラン販売では、その手前に「関心の表明(Expression of Interest、EOI)」という段があります。人気の案件で先に順番を確保するため、正式な契約の前にまとまった金額を預けることがあり、この段階の資金は長らく仕組みの外に置かれていました。
ADRECは、この段をデジタル化する「Madhmoun」を立ち上げたと発表しています。発表によれば、新しい開発プロジェクトを登録するディベロッパーは、投資家のオフプランEOIをMadhmounを通じてデジタルに登録することが求められます。EOIはADRECの直接の監督下に置かれ、資金は政府が管理する準備段階のエスクロー口座へ預けられるとされています。あわせて、返金をデジタルで処理する仕組みが用意され、仲介者が資金を預かることに伴う従来の危険を取り除くと説明されています。電子的にEOIを登録した最初の案件として「Manchester City Yas Residences by Ohana」が挙げられています。
当サイトはADRECの公式サイトを自動で取得できなかったため、この発表についてはプレスリリースの全文が掲載されているページを確認しました。掲載ページに発表日の表示が見当たらなかったため、この記事では日付を書いていません。EOIを求められたときは、預ける先がMadhmounを通じた口座なのか、それとも会社や仲介の口座なのかを、金額を動かす前に確かめてください。
契約の前に、自分で確かめられること
ここまでの条文と手続きを、契約の前に確かめる順に並べ替えると次のようになります。DARIのサポートは、同サイトの案件一覧にオフプランと完成済みの両方の不動産プロジェクトが載ると書いているので、案件の側から入ることもできます。
| 確かめること | 根拠 | 自分で確かめられるか |
|---|---|---|
| その会社が不動産開発登録簿に登録されているか | 第12条 | DARIの案件一覧から会社と案件をたどれます |
| その案件がADRECに登録されているか | 第13条 | 契約書の案件名と一致するかを見ます |
| 広告や展示会の許可を得ているか | 第14条 | 公表された一覧は確認できませんでした |
| 代金の振込先が案件のエスクロー口座か | 第18条 | 売買契約書とエスクロー口座契約で確かめます |
| 自分の入金が口座に記録されているか | 第22条とDARIのInquiry About Deposits | 登録された買主本人が明細を請求できます |
| 売買が初期不動産登記簿に登録されたか | 第27条・第28条とDARIの登録手続き | 契約日から21日が目安になります |
| 土地に担保が付いているか、付いているなら契約書に書かれているか | 第23条 | 売買契約書に明記される決まりです |
| 引き渡しの予定日がいつか | 第25条 | 遅延金の判断が6か月を基準にしています |
根拠として挙げた条番号はLaw No. 3 of 2015のもので、DARIの手続きとあわせて2026年9月12日に確認しています。
この並びで見ると、買主が直接動かせる場面が限られていることが分かります。会社の登録も案件の登録も売買の登録も、起票するのは買主ではありません。そのぶん、記録を請求する権利と、契約書に書かせる決まりが買主の側に置かれています。契約前に確かめるというのは、多くの場合、書類の中にその決まりが反映されているかを読むことを意味します。実際の売買がどう進むかはアブダビ不動産の買い方に順を追って書いてあります。
この記事で確認できなかったこと
条文と手続き案内を読んでも埋まらなかった項目があります。埋めずに残しておきます。
第14条の広告許可について、許可を受けた案件の一覧が公表されているかどうかは確認できませんでした。第18条のエスクロー口座を扱える受託者として認定された金融機関の一覧も、今回参照した範囲には見当たりません。第24条の留保が実際にどの案件で残されているか、第25条の遅延金がどの程度の額で課されているかといった運用の実績も、公表資料を見つけられませんでした。ADRECの公式サイトは当サイトからの自動取得を拒否したため、参照できたのはDARIの法令ページとサポート案内、そしてプレスリリースの全文掲載ページに限られます。
条文に書かれているのは制度の枠であって、個々の案件がそのとおりに運用されていることの証明ではありません。当社は、特定の案件の完成、引き渡しの時期、価格の上昇、賃料収入、利回りのいずれについても保証しません。この記事の内容は、契約前に自分で確かめるための手がかりとして使ってください。数値の根拠が変わる可能性があるため、次回の確認は2027年3月を目安にしています。