ドバイの住戸や土地を、家族へ対価なしで渡したいときに使う手続きは、売買の登録ではありません。Dubai Land Department(DLD、ドバイ土地局)は、対価のない移転をProperty Gift Registrationという別のサービスとして案内しており、手数料の基準も必要書類も売買登録とは違います。案内文には、移転の相手として「first-degree relatives; mother, father, spouse, or children」または法人が挙げられ、物件が restricted land または granted land でないことが条件として書かれています。
この記事は、自分のケースがこのサービスに当てはまるかを判定し、費用の内訳と書類の準備まで進められるようにするためのものです。使う一次情報は、DLDの各サービス案内、ドバイ政府の法令ポータルに載っている Law No. (7) of 2006 の条文、そしてアポスティーユ条約の締約国一覧です。確認日は2026年10月24日です。税金の扱いと、個別の案件が認められるかどうかは、この記事では判定できません。公表されている範囲と、公表されていない範囲を分けて示します。
贈与登録は「対価のない移転」のためのサービスです
DLDの案内文は、このサービスを物件の全部または一部の贈与の登録とし、所有権を対価なしに(without compensation)移すものだと説明しています。ここで効いてくるのは、金銭の授受があるかどうかの一点です。名義を家族へ移すという目的が同じでも、代金を受け取るのであれば売買の登録になり、手数料の基準も変わります。
相手の範囲も案内文に書かれています。挙がっているのは母、父、配偶者、子、そして法人です。兄弟姉妹や孫は、この列挙に入っていません。列挙に無い関係への移転をどう扱うのかは、このページからは読み取れないため、窓口への照会が必要です。「おそらく同じ扱いだろう」と考えて書類をそろえると、手続きの種類から作り直すことになります。
もうひとつの条件は物件の側にあります。案内文は、物件が restricted(制限のかかったもの)でないこと、granted land(供与された土地)でないことを条件として挙げています。この2つがどの物件に当たるのかという定義は、同じページには書かれていません。自分の物件が該当するかどうかは、権利証の記載とあわせて窓口で確かめてください。
原因が違えば、使うサービスも手数料も変わります
所有者が亡くなっている場合は、贈与でも売買でもなく相続の移転になります。DLDは Inheritance Title Transfer として別に案内しており、必要書類には相続の法的な通知、相続人の身分証に加えて、ドバイ裁判所やUAEの他の裁判所、またはAwqafからDLD宛てに出された、相続人への移転を求める公式の書面が挙がっています。抵当がある物件では抵当権者、完成前の売買契約がある物件ではディベロッパーの異議なしの書面も挙げられています。
| 移す原因 | DLDのサービス名 | 手数料の基準 | 窓口/処理時間 |
|---|---|---|---|
| 対価のある移転 | Property Sale Registration | 売買価額の2%(売主)+2%(買主) | Registration Trusteeのセンター/25分 |
| 対価のない移転 | Property Gift Registration | 評価額の0.125%(最低 AED 2,000) | Registration Trusteeのセンター/25分 |
| 死亡による移転 | Inheritance Title Transfer | 1物件あたり AED 1,000 | DLDのサービスセンター/8営業時間 |
3つを並べると、同じ「名義を移す」でも窓口と時間が違うことが分かります。贈与と売買はどちらも Registration Trustee のセンターで、DLDの表示では25分です。相続はDLDのサービスセンターで8営業時間と書かれており、裁判所等の書面を先にそろえる必要があるため、準備の段がもっと手前から始まります。
手数料の基準が、売買登録とまったく違います
贈与登録の手数料は評価額の0.125%で、最低額は AED 2,000と公表されています。売買登録は売買価額に対して売主が2%、買主が2%です。率だけを見れば16分の1ですが、注意したいのは率ではなく基準のほうです。贈与では、当事者が決めた金額ではなく評価額が基準になります。身内の間で金額を低く決めても、手数料の側は動きません。
固定額の部分には、売買登録と重なるものが多くあります。贈与登録のページに並んでいるのは、権利証の発行が AED 250、Dubai Municipality の統合図面が AED 225、市の管轄外の土地の図面が AED 100、ヴィラとアパートの図面が AED 250、知識料と革新料が各 AED 10 です。窓口のサービスパートナー料金には段があり、AED 2,000,000 以上で AED 4,000+VAT、それ未満で AED 2,000+VAT と書かれています。ただしこの段の表記は贈与登録のページでも「sale value」のままで、対価のない移転で何を指すのかは書かれていません。評価額で判定されるのかどうかは、窓口で確かめる項目になります。
| 固定額の項目 | 贈与登録 | 相続による移転 |
|---|---|---|
| 権利証の発行 | AED 250 | AED 250 |
| 統合図面(Dubai Municipality) | AED 225 | AED 225 |
| 市の管轄外の土地の図面 | AED 100 | AED 100 |
| ヴィラ・アパートの図面 | AED 250 | アパート AED 250/ヴィラ AED 250 |
| 知識料・革新料 | 各 AED 10 | 図面ごとに AED 20 |
| 窓口のサービスパートナー料金 | AED 4,000+VAT(AED 2,000,000 以上)/AED 2,000+VAT(未満) | AED 130+VAT |
相続の側は、同じ名前の項目でも体系が違います。知識料と革新料は図面ごとに AED 20、サービスパートナー料金は AED 130+VAT です。同じ「図面」「知識料」という名前でも、数え方と額が手続きごとに違います。見積りを受け取ったら、率の行だけでなく固定額の行も、どの手続きの料金欄に載っているものかと突き合わせてください。
評価額が決まらないと、手数料が決まりません
贈与登録のページには、登録を申請する前に Real Estate Trustee のセンターで評価の申請を出さなければならないと書かれています。アパートとヴィラについては、スマート評価(smart valuation)が使えるという記載もあります。つまり費用の総額は、評価が出るまで確定しません。先に総額を固めたい場合でも、順序はこちらが先になります。
評価そのものは Property Valuation という別のサービスとして案内されています。公表されている額は、住宅(土地つきのヴィラ、またはアパート)が AED 4,000、商業・工業のグラントの更地が AED 2,000、大規模プロジェクトまたはその一期分の更地が AED 10,000、農地とその上の建物が AED 6,000、ホテルの建物と土地が AED 15,000 です。処理時間は、住戸と連棟のヴィラが即時、それ以外は7営業日と書かれています。
ここで費用の見方が1つ増えます。評価の手数料は贈与登録の手数料とは別で、知識料・革新料に加えて、窓口で出す場合のサービスパートナー料金(AED 180〜530+VAT)も評価の側に付きます。0.125%だけを見て総額を見積もると、評価の分が抜けます。スマート評価を使う場合にこの料金表のどの行が当たるのかは、どちらのページからも読み取れないので、窓口で先に確かめるのが確実です。
書類でつまずくのは、関係を示す証明の認証です
個人の必要書類として挙がっているのは、関係を示す証明と本人確認です。関係の証明は、既婚者は婚姻証明書、子については出生証明書で、どちらにも発行国にあるUAE大使館と、その国の外務省による認証を受けた翻訳が必要と書かれています。これに加えて、在UAEの自国大使館が出す親子関係または親族関係の証明も挙げられています。UAE国民については、婚姻契約書またはファミリーブックという書き方です。
日本で発行された書類を使う場合、この認証の順序がそのまま準備の工程になります。注意したいのは、アポスティーユでは代えられないという点です。UAEは、アポスティーユ条約(1961年10月5日の条約)の締約国一覧に載っていません。一覧には130の締約国が並んでいますが、UAEの行はありません(確認日 2026-10-24)。付証1枚で各国の公文書を通用させる経路は使えない前提で、認証の工程を組み立てる必要があります。
ただし、日本側のどの窓口がどの順に扱うのかは、今回使った一次情報では確認できていません。DLDのページが求めているのは「発行国にあるUAE大使館」と「その国の外務省」の認証で、日本国内での公証や証明の手順は、このページの範囲外です。ここを推測で埋めると、認証の段で差し戻されたときに原因を切り分けられなくなります。書類の発行から認証までにかかる日数も読みが必要なので、窓口の受付日だけを基準に逆算しないでください。
本人確認の書き方も具体的です。Emirates ID は本人確認のためだけに提示し、写しは取らないとされ、非居住の外国人については有効なパスポートの写しと書かれています。法人が受け取る場合は、登録されていない法人は先に会社登録の手続きを行うようにと書かれています。法人への移転を考えているなら、会社の登録が済んでいるかどうかが最初の確認項目になります。
窓口での流れと、受け取る書類
ページに並んでいる手順は5段です。最寄りの Real Estate Trustee センターへ行き、必要書類を欠けなく提出し、職員がシステムで内容を確認して承認し、手数料を支払って受領証を受け取り、発行された書類をメールで受け取ります。支払いの方法として挙がっているのは、ePay、Dubai Pay、noqodi のウォレット、マネージャーズチェックです。
受け取る書類として挙がっているのは、電子版の権利証(Electronic Title Deed)、用益権の権利証(Usufruct Title Deed)、地図の証明書(Map Statement e-Certificate)です。どれが出るかは物件の権利の形によって変わります。権利証そのものの記載項目と、DLDの検証サービスでの照合のしかたはドバイ不動産のTitle Deedとはにまとめています。移転の登録が終わったら、発行された権利証の氏名の綴りと物件の特定情報を、申請に使った書類と突き合わせてください。
代理人が手続きする場合について、ページには「A Legal Power of Attorney is required if someone is acting on behalf of the parties」と書かれています。日本から渡航せずに進めたい場合は、この委任状の作成と認証が、関係の証明とは別の工程として乗ります。委任状の様式、認証の経路、有効期間については、このページには書かれていません。
登録しなければ、移転そのものが成立しません
ドバイの不動産登記の土台は Law No. (7) of 2006 です。第7条は、すべての不動産上の権利とその変更を記録する Property Register をDLDに置くと定め、この登記簿がすべての当事者に対して絶対的な証拠力を持ち、詐欺または偽造が示されない限り有効性を争えないとしています。登記簿に書かれていることが、権利の所在を示す最も強い証拠になるという建て方です。
そして第9条は、不動産上の権利を発生、移転、変更、消滅させるすべての取引を Property Register に記録すると定め、登記簿に記録されない限り、その取引は有効と認められないとしています。家族の間で合意書を交わし、鍵と書類を渡しても、登録まで進んでいなければ所有者は変わっていません。贈与の話を「合意した」で止めないための条文が、これにあたります。
窓口に確認することとして残る点
公表の範囲で埋まらなかったものを並べます。ひとつは非居住者の可否です。対象者(Residency Status)の欄にはUAE国民と居住者が挙がっている一方、必要書類の欄には非居住の外国人のパスポートの写しが挙がっています。どちらが優先するのかは、ページから読み取れません。日本に住んでいる所有者がこのサービスを使えるかどうかは、窓口での確認が必要です。
ほかに確認できていないのは、列挙に無い関係(兄弟姉妹や孫など)の扱い、restricted land と granted land の具体的な範囲、持分の一部だけを贈与する場合の評価の取り方、そして0.125%という率を定めた決定の番号です。税金についても、UAE側の課税と日本側の課税のどちらも、今回のページには書かれていません。日本側の所得と財産の報告の整理はドバイ不動産と日本の税金にありますが、贈与に対する課税はそこでも扱っていません。税務は専門家への相談が必要な領域です。
進める前に決めておくこと
最初に決めるのは、対価を受け取るのか受け取らないのかです。ここが決まればサービスが決まり、手数料の基準も決まります。次に、相手が案内文の列挙に入っているかを確認します。入っていなければ、書類を集める前に窓口への照会から始めてください。この2つを決めずに書類をそろえると、集め直しになります。
そのうえで、評価の申請、関係の証明の認証、委任状の有無という3つの前工程に日数を割り当ててください。登録そのものはDLDの表示で25分ですが、時間がかかるのは前工程です。数値と出典の扱いの方針は出典と数え方に、ドバイとアブダビで登録手数料の基準が違う点はドバイとアブダビ、買うならどっちにまとめています。購入手続きに関する他の記事はドバイ不動産の購入手続き・契約から辿れます。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。