不動産政策・規制/ニュース

アブダビの賃料据え置き|更新の上限が5%から0%へ(ADREC発表)

アブダビ不動産センター(ADREC)は2026年6月3日、住宅・商業・工業の賃料の年間引き上げ上限を5%から0%へ一時的に変えると発表しました。基準になる賃料、対象、期間、書かれていないことを発表本文から整理します。

アブダビの賃料据え置き|更新の上限が5%から0%へ(ADREC発表) - Reheat

アブダビ不動産センター(Abu Dhabi Real Estate Centre、ADREC)は2026年6月3日付の発表で、アブダビ首長国の住宅・商業・工業の物件について、賃料の年間の引き上げ上限を5%から0%へ変更したと公表しました。期間は「一時的な短い期間、追って通知があるまで」とされています。更新も新しい契約も、その物件で直近に登録されたTawtheeq(アブダビの賃貸借契約の登録簿)の契約の賃料を参照する、というのが中身です。

誤解されやすい点を先に書きます。これは家賃を下げる措置ではありません。登録されている賃料から上げることを認めない、という措置です。また、終わる日は発表に書かれていません。当サイトが確認した2026年9月19日の時点で、ADRECのニュース一覧には、この措置を終える、または率を変えるという発表は載っていませんでした。

アブダビに住戸を持って貸している方、これから貸すつもりで購入を考えている方にとっては、更新のたびに賃料を上げられる前提が、当面は成り立たないということです。この記事では、発表の本文に書かれていること、基準になる賃料の意味、ADREC自身の手続き案内との食い違い、ドバイとの違い、そして発表に書かれていないことを、政府の公表ページで確認できた範囲だけで整理します。

発表に書かれていることは、4つに分けられます

発表の本文は3段落です。書かれていることを「誰が決めたか」「何が変わったか」「何を基準にするか」「どこへ訴えるか」の4つに分けると、次のようになります。

項目 発表の記載
発表の日付 2026年6月3日(アブダビ)
決めた主体 アブダビ政府(Government of Abu Dhabi)。実施と遵守の監督はADREC
変わったこと 年間の賃料の引き上げ率を5%から0%へ
対象 首長国全体の住宅・商業・工業の物件
基準になる賃料 その物件で直近に登録されたTawtheeq契約の賃料
対象になる契約 すべての更新と、新しい契約
期間 一時的な短い期間、追って通知があるまで
守られていないときの窓口 ADRECのウェブサイト、カスタマーサービスの専用回線、公式メール
終わる日・罰則 記載がありません

主語が「アブダビ政府」であることに注意してください。ADRECは実施と遵守を監督し、関係者と調整する役割として書かれています。借主や事業者で、この指示が守られていないと考える人は、ADRECの公式の窓口へ連絡するよう案内されています。ただし、専用回線の電話番号やメールアドレスそのものは、発表の本文には載っていません。

発表は、この措置によって家計や事業者が見通しを持って計画できる住環境をつくる、と目的を説明しています。生活費が、地域への長い定着、経済の底堅さ、持続的な成長の鍵になる、という書き方です。数値の目標や、効果を測る指標は示されていません。

基準は「前年の賃料」ではなく「最後に登録された賃料」です

発表でいちばん実務に効くのは、基準の取り方です。すべての更新と新しい契約は、その物件で直近に登録されたTawtheeq契約の賃料を参照すると書かれています。

これまでの更新の上限は、ADRECのDARI(アブダビの不動産手続きの基盤)にある更新手続きの案内で確かめられます。そこには、貸主は前年の年額の5%を超えて賃料を上げられない、と書かれています。基準は「前年の年額」で、対象は更新の手続きです。今回の発表は、率を0%にしただけでなく、新しい契約にも同じ基準を当てると書いている点で、更新だけを扱っていたこれまでの案内より範囲が広くなっています。

アブダビの賃料引き上げ上限を、2026年6月3日の発表の前と後で比べた図。発表前はDARIの更新案内に前年の年額の5パーセントまでとあり、発表後は住宅・商業・工業のすべてで年0パーセント。発表後は更新と新しい契約のどちらも、直近に登録されたTawtheeq契約の賃料を参照する。期間は一時的な短い期間で、追って通知があるまで
左はDARIの更新手続きの案内、右は2026年6月3日の発表の記載です。発表の後の列で変わっているのは率だけではなく、新しい契約まで同じ基準で扱うと書かれている点です。 出典:ADREC「Temporary update to Annual Rental Cap Increase in Abu Dhabi」、ADREC/DARI Support「Renew Tenancy Contract」(確認日 2026-09-19)

ここで言う「登録された賃料」は、貸主がTawtheeqに登録し、借主が画面上で承諾した額です。UAE政府のポータルは、アブダビの貸主は賃貸借契約をTawtheeqに登録しなければならないと書いています。登録されていない口約束の額は、基準としてどこにも現れません。登録の手順と入力する項目はアブダビの家賃データで詳しく扱っています。

なお、発表の言葉は「参照する(reference)」です。新しい契約の賃料が登録済みの額と同じでなければならないのか、それを上限として下げることはできるのか、という細かい線引きは、本文には書かれていません。当サイトは、この言葉を超えて解釈を足しません。

据え置きの間に、更新と新しい契約の賃料がどこから決まるかを示すフロー図。対象の物件から、その物件で直近に登録されたTawtheeq契約の賃料を確かめ、更新の場合も新しい契約の場合もその賃料を参照し、上限は年0パーセント。守られていないと考えた借主や事業者は、ADRECのウェブサイト、カスタマーサービスの専用回線、公式メールのいずれかへ連絡する
上の段は発表の手順を左から順に並べたもので、下の枠は発表に書かれていない項目です。借主にとっての出口は、右端のADRECの窓口だけが案内されています。 出典:ADREC「Temporary update to Annual Rental Cap Increase in Abu Dhabi」(2026年6月3日付/確認日 2026-09-19)

理由として挙げられた数字は、新規賃料の15%と23%です

発表は、据え置きの理由を数字で示しています。ここ数年、需要が供給を上回り続け、入居率が過去最高の水準に達した。その需要によって、新しく結ばれる賃貸の価格が、前年と比べてアブダビ全体で15%、投資区域で23%上がった。これが多くの住民の住まいの継続に影響している、という説明です。投資区域は、アブダビのエリア比較で扱っている、外国籍の人も不動産の権利を取得できる区域のことです。

ADRECが据え置きの理由として挙げた新規賃料の前年比の上昇と、発表後の更新上限を並べた横棒グラフ。新規賃料の上昇はアブダビ全体で15パーセント、投資区域で23パーセント。発表後の年間の引き上げ上限は0パーセントで、発表前の上限は5パーセント
上の2本は市場全体の新規賃料の動き、下の2本は1件の契約で上げられる幅の上限です。同じ「%」ですが測っているものが違うので、差し引きして読まないでください。 出典:ADREC「Temporary update to Annual Rental Cap Increase in Abu Dhabi」、ADREC/DARI Support「Renew Tenancy Contract」(確認日 2026-09-19)

この15%と23%は、新しく結ばれた賃貸の価格の動きです。更新された1件ごとの上げ幅ではありません。そして、どの時点とどの時点を比べたのか、平均なのか中央値なのかは、発表に書かれていません。当サイトはこの数字を発表の説明として紹介するにとどめ、エリアや間取りへ当てはめることはしません。

ADRECは2026年8月18日に、2026年上半期の市場レポートを公表しています。そのお知らせには、賃貸についての値もいくつか載っています。据え置きの影響を測った数字ではありませんが、この措置がどれだけの契約に関わるのかの目安になります。

項目(2026年上半期) お知らせの記載
有効な住宅の賃貸借契約 233,000件
賃貸借契約の金額 AED9.3 billion(前年比8%増)
契約の件数 前年比2%増
居住中の住戸に占める賃貸の割合 アブダビ地域で69%
住宅の供給 約409,000戸(2022年から年平均2.9%増)
2030年までの追加供給の見込み 約71,000戸(引き渡しの山は2028年、約21,800戸)
据え置きへの言及 ありません

金額はAEDで公表されているとおりに並べています。お知らせは据え置きに触れていないため、この上半期の値が据え置きの前と後のどちらをどれだけ含むのかは分かりません。措置が始まったのは6月初めで、上半期の最後のひと月にあたります。供給の見込みが示されていても、据え置きをいつ終えるかの判断材料として使うとは、どちらのページにも書かれていません。

ADRECの手続き案内は、確認日の時点で5%のままです

気をつけたい食い違いがあります。DARIの更新手続きの案内ページには、当サイトが確認した2026年9月19日の時点でも「貸主は前年の年額の5%を超えて賃料を上げられない」という注記が残っていました。そのページには更新日の表示がありません。

ADRECのDARIサポートに掲載された、賃貸借契約の更新手続きを説明するページの表示
引用キャプチャ更新の画面で編集できるのは賃料の額だけであることと、前年の年額の5%を上限とする注記が載っているADRECの案内ページです。この画像は2026年9月8日に取得したもので、2026年9月19日にも同じ注記が残っていることを本文で確かめました。2026年6月3日の0%への変更は、このページには反映されていません。 出典:ADREC/DARI Support|Renew Tenancy Contract(取得日 2026-09-08/確認日 2026-09-19/表示のファーストビュー)

発表の日付は2026年6月3日で、政府が0%に変えたと明記しています。案内ページは率の書き換えが追いついていない可能性がありますが、どちらが手続きの画面で実際に使われているのかは、公開されている情報からは確かめられませんでした。更新の交渉に入る前に、ADRECの窓口で現在の扱いを直接確かめてください。当サイトは、2つのページの記載をそのまま並べるところまでにとどめます。

ドバイの更新の上限は、仕組みが別です

同じUAEでも、賃料の上限は首長国ごとに決まっています。UAE政府のポータルは、ドバイについて、2013年の法律第43号により、賃料の引き上げは、RERA(ドバイの不動産規制庁)の賃料計算ツールでエリアの平均賃料と比べたうえで適用できる、と説明しています。アブダビについては、同じページに引き上げの規則は書かれていません。

比べる点 アブダビ ドバイ
賃貸借契約の登録 Tawtheeq ドバイ土地局(DLD)への登録
上げられる幅の決め方 2026年6月3日から一時的に年0% エリアの平均賃料との比較で決まる
基準になるもの 直近に登録されたTawtheeq契約の賃料 RERAの賃料計算ツール
新しい契約への適用 更新と同じ基準を参照すると発表 上のポータルには記載がありません
根拠 アブダビ政府の決定(ADRECの発表) 2013年の法律第43号

ドバイの上げ幅の段階や通知の期限は、ドバイの賃貸借法で扱っています。アブダビの据え置きをドバイにも当てはめないでください。今回の発表は、アブダビ首長国の物件だけを対象にしています。

貸している住戸があれば、登録の中身を先に見ます

アブダビに住戸を持って貸している方が、いま確かめられることは3つです。

  1. 直近に登録された契約の賃料。DARIで自分の物件の契約を開けば、登録された総額と期間が見られます。据え置きの間の基準はこの額です
  2. 登録が切れていないか。登録そのものが無ければ、基準の額も記録に残りません。期限までに占有証明書をそろえていない建物では、Tawtheeqでの新規の登録が止められるという自治体交通局の発表があります。アブダビの占有証明書の期限にまとめています
  3. 管理会社の説明が発表と合っているか。管理を任せている場合、更新の賃料をどう提示したかを確かめます。発表と違う扱いをされたと考えるなら、窓口はADRECです

市政手数料についても触れておきます。UAE政府のポータルは、アブダビの市政手数料を、賃料額と賃料インデックスの高いほうを基準に5%で計算すると書いています。今回の発表は、この手数料には触れていません。据え置きで手数料の計算が変わるという記載は無いため、当サイトも変わるとは書きません。

発表に書かれていないこと

推測で埋めずに、そのまま並べます。今回の発表と関連する公表ページからは、次の項目は分かりませんでした。

  • 措置が終わる日と、終わったあとの上限の率
  • 守らなかった貸主への罰則や、差額の扱い
  • 発表より前に合意し、まだ登録していなかった契約の扱い
  • 一度もTawtheeqに登録されたことのない物件で、新しい契約の基準をどう決めるか
  • 新しい契約で、登録済みの額より下げることができるのかどうか
  • 経済特区など、首長国の中で扱いが異なる区域があるかどうか
  • 専用回線の電話番号と公式メールのアドレスそのもの

報道の中には、こうした点に答えているものもあります。ただ、発表の本文やADRECの公表ページで裏が取れないため、この記事には入れていません。ADRECが追加の案内を出した時点で、この記事を更新します。

賃料の収入も利回りも保証しません

据え置きは、借主にとっては更新のたびの値上げを避けられる措置です。貸主にとっては、周りの新規賃料が上がっていても、自分の住戸の賃料を当面は上げられないということになります。どちらの影響が大きいかは、住戸の登録賃料と、措置がいつまで続くかで変わり、発表からは読み取れません。

当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。アブダビで利回りを考えるときの注意はアブダビの賃貸利回りにまとめています。据え置きの間は、将来の値上げを前提にした計算をそのまま使えない点に注意してください。

まとめ

アブダビ政府は、2026年6月3日付のADRECの発表で、住宅・商業・工業の物件について賃料の年間の引き上げ上限を5%から0%へ変えました。更新も新しい契約も、その物件で直近に登録されたTawtheeq契約の賃料を参照します。期間は「一時的な短い期間、追って通知があるまで」で、終わる日は書かれていません。理由として挙げられたのは、新しく結ばれる賃貸の価格が前年と比べてアブダビ全体で15%、投資区域で23%上がったことです。

確認日の2026年9月19日の時点で、ADRECのニュース一覧に措置を終える発表はありませんでした。いっぽうでDARIの更新手続きの案内には5%の注記が残っているため、交渉の前にADRECの窓口で現在の扱いを確かめてください。変更や終了の発表が出た時点で、この記事を更新します。