アブダビ首長国の自治体交通局(Department of Municipalities and Transport、DMT)は、2026年3月27日付の発表で、首長国の不動産分野を規律する法律を実施するための行政決定4本を出したと公表しました。対象は、オフプラン(完成前に売られる住戸)の代金を預けるエスクロー口座からの引き出し、共同所有の建物の共用部分の管理、所有者の委員会の規則、そして買主が契約上の支払いを守らなかったときにディベロッパーが受け取る補償の割合です。土台になる法律はLaw No. 3 of 2015で、2025年にLaw No. 2 of 2025によって改正されています。
誤解されやすい点を先に書きます。今回の決定は新しい税や手数料を課すものではありません。すでにある法律の条文を、どう運用するかを細かく決めたものです。もう1つ、買主にとって大事な4本目の決定(第165号)について、発表は「補償の割合を定めた」と書いていますが、その割合の表そのものは、当サイトが2026年9月19日に確認した政府の公表ページには載っていませんでした。この記事では、割合の数字を書きません。
アブダビでオフプランの住戸を買った方、これから買う方にとって関係が深いのは、エスクロー口座のお金がいつから動くのかと、支払いが遅れたときに契約がどう終わるのかの2点です。以下では、発表の本文、ADRECが掲載している改正法と行政決定の本文で確かめられたことだけを、4本の決定の順に並べます。
発表されたのは4本の行政決定です
自治体交通局の発表と、同じ内容を載せたアブダビ政府メディアオフィスの発表は、4本の決定を次のように説明しています。ADREC(Abu Dhabi Real Estate Centre、アブダビ不動産センター)はこの4本を実施する側の機関で、発表にはADRECの局長の談話が添えられています。
| 決定 | 発表での説明 | 原文を確認できたか |
|---|---|---|
| 第24号(2025年) | 工事の出来高が20%に届く前に、エスクロー口座から払い出すときの仕組みと管理 | ADRECの規則ページで本文を確認 |
| 第25号(2025年) | 共同所有の不動産、共用部分と共用施設の管理の枠組み | 定義の条文までを確認 |
| 第26号(2025年) | 所有者の委員会(Owners’ Committee)の統一された規約 | 本文は見つかりませんでした |
| 第165号(2025年) | 買主の違反で契約が解除されたときのディベロッパーへの補償の割合と、再販売後の返金の期間と手順 | 本文は見つかりませんでした |
発表は、4本が不動産開発の「開発・規制・管理」の各段にまたがると書いています。目的としては、ディベロッパーが事業を進められるようにしながら、買主の権利と資金を守ること、そしてディベロッパーと買主の間の争いを減らすことが挙げられています。数値の目標や、効果を測る指標は示されていません。
発表の日付には表記の揺れがあります。自治体交通局とアブダビ政府メディアオフィスは2026年3月27日です。ADRECのニュース一覧では同じ趣旨の発表が2026年4月13日の欄に並んでいます。この記事は、決定を出した自治体交通局の日付を使います。
土台はLaw No. 2 of 2025による改正です
4本の決定は、2025年の法改正を実施するためのものです。ADRECの規則ページには、Law No. 2 of 2025の本文が掲載されています。そこには、この法律が官報に掲載されてから90日後に施行されると書かれています。官報の掲載日そのものは、このページの表示からは確認できませんでした。
改正の中身として規則ページが要約しているのは、「所有者の組合(Owners’ Association)」という呼び方を「所有者の委員会(Owners’ Committee)」に改めたこと、定義の見直し、そしてオフプラン販売、抵当権の手続き、エスクロー口座の管理に関する条文の変更です。第26号の決定が「所有者の委員会の規約」と呼ばれているのは、この呼び方の変更に合わせたものです。
なお、ADRECが運営するDARI(アブダビの不動産手続きの基盤)の法令ページは、確認日の時点でLaw No. 3 of 2015と2015年から2017年までの施行規則を並べていました。2025年の改正法と4本の決定は、その一覧には入っていません。原文を読むときは、ADRECの規則ページのほうを見てください。
20%に届く前でも、銀行保証があれば引き出せます(第24号)
エスクロー口座は、オフプランの買主が払った代金をプロジェクトごとに預けておく口座です。改正後の第19条は、この口座からの払い出しをプロジェクトの建設・完成と、融資への支払いのためだけに限っています。そして、ディベロッパーが建設工事の20%以上を終えていなければ、口座に預けられた金額は払い出せない、と定めています。ここまでは、アブダビのオフプランで以前から知られていた「出来高20%」の線です。
第24号は、この線の手前で資金を動かす道を具体的にしました。ADRECは、ディベロッパーが建設工事の価額の20%を下回らない銀行保証を差し入れる場合に、出来高20%に届く前の払い出しを承認できる、というのが第2条の書き方です。発表の説明では、保証と、承認された工事費の見積もりに結び付けた管理を置くことで、口座のお金が規律なく使われるのを防ぐとしています。
保証を使える会社には条件があります。第3条が挙げているのは次の3つと、ADRECが定めるその他の条件です。
| 第24号が定める条件 | 本文の記載 |
|---|---|
| 登録の期間 | 首長国でディベロッパーとして4年以上登録されていること |
| 実績 | 本体または子会社が、アブダビ首長国で3件以上の不動産開発プロジェクトを完成させ、引き渡していること |
| 違反の有無 | 少なくとも直近12か月、法令違反や行政処分を受けていないこと |
| 申請の添付書類(第4条) | 首長国内外で手がけた案件の完成の状況、売買契約にある支払いプラン、口座の入金が支払いと一致していることの明細、ADRECが認めた技術事務所による工事価額の見積もり |
| 保証の性質(第5条) | 国内で免許を持つ銀行が発行し、無条件・取消不能で、最初の請求で全部または一部を支払えるもの |
| 保証の返却(第6条) | 出来高60%で、残りの工事に足りる資金が口座にあるとき、または出来高100%で完成証明を受けたとき |
| 施行 | 官報に掲載された日から(第8条) |
買主の側から見ると、読み方は2通りあります。1つは、出来高20%の前に口座からお金が出ていても、それだけでは違反とは言えなくなったということです。もう1つは、その代わりに工事価額の20%以上の銀行保証が行政の手元にある、ということです。保証の額は「口座から出たお金の額」ではなく「工事の価額」を基準にしています。どちらが買主にとって厚い守りになるかは案件ごとに違い、当サイトは判定しません。
気になるのは、自分の案件が保証を使っているかどうかを、買主が知る方法が書かれていないことです。第24号の本文は、ディベロッパーとADRECの間の手続きとして書かれており、買主へ知らせる規定は見当たりませんでした。DARIには、登録された買主が自分の入金の明細を請求する手続きがあります。その使い方はアブダビのオフプラン物件とはで扱っています。
支払いが遅れたときの手順が、日数で書かれました(改正後の第17条)
4本目の第165号は、改正後の第17条第3項を前提にしています。発表は、この決定が第17条第3項にもとづいて解除され、再販売された住戸の買主について、補償の割合と返金の期間・手順を定めたと書いています。そこで先に、第17条第3項が定める手順を確認します。ADRECの規則ページに載っている改正法の本文では、次の順に進みます。
- 買主がオフプラン売買契約の支払いを守らないとき、ディベロッパーは公証人または書留郵便で買主へ通知し、通知の日から60日以内に義務を果たし、遅れている支払いをするよう求めます
- ディベロッパーは、買主への通知から15日を過ぎたら、行政(条文の言葉ではDepartment)へ知らせます
- 行政は、60日の期間が終わる前に、施行規則が定める期間の中で当事者を和解に招きます
- 解決しない場合、行政は住戸の登記簿から買主の名前を消し、その日から30日を過ぎたあとにディベロッパーが住戸を再販売することを認められます。再販売の代金はプロジェクトのエスクロー口座へ入ります
- ディベロッパーは、買主が口座へ払い込んだ金額から、違反の程度と工事の完成・出来高の割合に見合った分を差し引くよう求められます
第24号の定義では、Department は自治体交通局、Centre はADRECです。改正法の本文も同じ語を使っています。
この手順で押さえておきたいのは3点です。第一に、買主に与えられる猶予は通知の日から60日で、起点は支払期日ではなく通知の日です。通知が公証人か書留で届くと書かれているので、海外に住んでいる買主は、契約書に書いた連絡先へ届く郵便を受け取れる状態にしておく必要があります。第二に、行政が和解の場を設けることが条文に組み込まれています。買主とディベロッパーの二者だけで解除まで進むのではありません。第三に、再販売の代金はディベロッパーの口座ではなくプロジェクトのエスクロー口座へ入ります。
一方で、条文と発表から分からないこともはっきりしています。第165号が定める補償の割合、買主へ残りを返す期限、返金の手順の本文は、確認日の時点でADRECの規則ページにもDARIの法令ページにも見当たりませんでした。報道や法律事務所の解説には割合を挙げているものがありますが、当サイトは政府の公表ページで裏が取れないため引き写しません。契約書に解除のときの扱いがどう書かれているかを、まず契約書の側で確かめてください。
支払いプランの区切りが出来高とどう結び付いているかはアブダビのオフプランの支払いプランにまとめています。解除のときの差し引きも出来高に結び付けられているため、手元の支払いと出来高の対応を把握しておくことが、ここでも効いてきます。
共用部分と管理組合の規則(第25号・第26号)
残りの2本は、完成したあとの建物の話です。発表によれば、第25号は共同所有の不動産について、所有者、ディベロッパー、管理会社の役割と責任を定め、ADRECの監督の役割を強める枠組みを置きました。第26号は、所有者の委員会の設け方、権限、運営の方法、行政や管理会社との関係を、首長国全体で共通の規約にまとめたものです。
ADRECの規則ページで確認できた第25号の本文は、定義の条文までです。そこでは3つの費用の言葉が分けて定義されています。
- 共用部分(Common Parts):各階の図面や区画の図面で決められた、住戸の所有者と居住者が使うための共同所有の部分
- サービス料(Service Fees):共用部分の管理・運営・保守の費用に充てるもので、自治体交通局の承認を得たうえでADRECが承認し、管理会社が住戸の所有者から集める
- コンパウンド料(Compound Fees):ディベロッパーが、インフラ、サービス、施設や、ディベロッパーが所有する部分の利用について、所有者や居住者に課す料金
所有者にとっての要点は、サービス料とコンパウンド料が別のものとして定義されたことです。サービス料は行政の承認を通る費用として書かれ、コンパウンド料はディベロッパーが課す料金として書かれています。請求書に2つが並んでいるときは、どちらの名目なのかを確かめる手がかりになります。ただし、コンパウンド料に承認が要るのか、上限があるのかは、確認できた範囲の本文には書かれていませんでした。
アブダビのサービスチャージがADRECの承認を通ることについてはアブダビの賃貸利回りで扱っています。ドバイの共同所有の仕組みは法律が別で、ドバイの共同所有不動産法にまとめています。
発表や本文に書かれていないこと
推測で埋めずに、そのまま並べます。今回確認した発表と政府の公表ページからは、次の項目は分かりませんでした。
- 第165号の補償の割合の表、返金の期限、返金の手順の本文
- 第26号の本文(委員会を設ける条件、議決の方法、委員の数など)
- 第25号の定義より後の条文(サービス料を払わないときの扱い、管理会社の選び方など)
- Law No. 2 of 2025が官報に掲載された日と、それにもとづく施行日
- 4本の決定が出される前に結ばれた売買契約に、第165号の割合が当てはまるのかどうか
- 第24号の銀行保証を使っている案件の一覧や件数
- 保証を使っていることを、ディベロッパーが買主へ知らせる義務があるのかどうか
ADRECが本文を公表したり、追加の案内を出したりした時点で、この記事を更新します。
当社は値上がりも利回りも保証しません
今回の決定は、オフプランの資金の扱いと、揉めたときの手順を細かくしたものです。個々の案件が完成すること、予定どおり引き渡されることを保証するものではありません。当社も、特定の案件の完成、価格の上昇、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。引き渡し前に抵当権を登記できるようになった別の枠組みはアブダビのオフプランと住宅ローンで扱っています。
まとめ
アブダビ自治体交通局は2026年3月27日、Law No. 3 of 2015(Law No. 2 of 2025で改正)を実施する行政決定4本を公表しました。第24号は、建設工事の価額の20%以上の銀行保証を条件に、出来高20%に届く前のエスクロー口座からの払い出しをADRECが承認できるようにし、保証を使える会社を登録4年以上、アブダビで3件以上の完成・引き渡し、直近12か月の違反なしに限りました。保証は出来高60%(残りの工事資金が口座にある場合)か100%で返されます。
改正後の第17条第3項は、買主が支払わないときの手順を、通知から60日の猶予、15日後の行政への連絡、和解の場、登記簿からの削除と30日後の再販売という順で定めています。差し引く割合を決めるのが第165号ですが、その表は確認日の時点で政府の公表ページに載っていませんでした。第25号はサービス料とコンパウンド料を別々に定義しています。オフプランの契約書を手元に置いて、解除のときの扱いと費用の名目を、この順に確かめてください。