ドバイ土地局(Dubai Land Department、DLD)は2026年9月14日、不動産分野でエミラティ(UAE国民)に向けた雇用機会が2023年から2026年までに2,100件を超えたと公表しました。取り組みの名称はReal Estate Empowerment Programmeで、ドバイのEmirati Human Resources Development Council、DLD、連邦の人材・エミラティゼーション省(Ministry of Human Resources and Emiratisation、MoHRE)、そして連邦プログラムのNafisが組んで進めていると書かれています。
先に、日本からドバイの物件を買おうとしている読者にとっての位置づけを書きます。この発表で、買主の手続きは何も変わりません。提出する書類、登録の手数料、必要な期間について触れた記述はありません。それでも読む値打ちがあるのは、ドバイの不動産会社が「誰を雇うか」について連邦の規則で数値の義務を負っていること、そしてその義務の対象業種に不動産が名指しで入っていることが、政府の公表資料で確かめられるからです。担当者の異動や交代に出会ったときに、背景を知っているかどうかで受け取り方が変わります。
この記事は、DLDの発表とUAE政府ポータル(u.ae)の記載、そしてDLDが公表している2033年の戦略だけを材料にしています。発表に無い項目は推測で埋めず、「書かれていません」と示します。
発表に書かれているのは、件数と関係者までです
発表の本文は短く、数値は1つだけです。2023年から2026年までに2,100件を超える雇用機会をエミラティに対して生んだ、という件数です。プログラムの中身としては、職業の周知、職の紹介、実務の訓練、専門能力を伸ばす継続的な支援という4つの筋道が挙げられています。次の段階については、雇用の質を高めること、専門職の範囲を不動産の各分野へ広げること、長く続く職歴を支えることが方針として書かれています。
ここで注意したいのは、2,100という数字が「employment opportunities(雇用機会)」という語で示されていることです。いま何人が在職しているかを示す数字として書かれていません。参加した会社の数、職種ごとの内訳、年ごとの推移、離職や定着の状況も発表には出てきません。件数そのものはDLDの公表値ですが、そこから雇用の厚みを読み取ることはできません。
| 項目 | 発表の記載 |
|---|---|
| 対象の期間 | 2023年から2026年 |
| 公表された数値 | エミラティ向けの雇用機会 2,100件超 |
| 取り組みの4つの筋道 | 職業の周知/職の紹介/実務の訓練/専門能力の支援 |
| 関わる組織 | Emirati Human Resources Development Council、DLD、MoHRE、Nafis |
| 位置づけ | Dubai Economic Agenda D33/Dubai Real Estate Sector Strategy 2033 |
| 参加した会社の数 | 記載がありません |
| 職種ごとの内訳・定着率 | 記載がありません |
| 次の段階の数値目標と期限 | 記載がありません |
発表には、担当者名や役職つきの発言も載っていません。当サイトは、公表されていない人物や発言を補いません。
不動産は、連邦の採用義務で名指しされた業種です
ここからが背景です。UAEの民間部門には、エミラティを雇う数値の義務があります。UAE政府ポータルの「Emiratis’ employment in the private sector」(最終更新 2026年8月12日)には、従業員50人以上の事業者について、熟練職(skilled jobs)のエミラティ比率を年2パーセントずつ引き上げ、2026年までに合計10パーセントの引き上げを達成すると書かれています。監督するのはMoHREです。
20〜49人の事業者にも別の義務があります。14の指定業種に「real estate activities(不動産業)」が入っており、2024年末までに1人、2025年末までに合計2人のエミラティを雇うことが求められます。ドバイで仲介や販売を行う会社の多くはこの規模にあたるため、不動産は制度の上で名指しされている業種です。
達成できない場合の負担も公表されています。50人以上の事業者は、2023年から、目標に対して足りない1人につき月額AED6,000を支払うことになっており、この額は2026年まで毎年AED1,000ずつ増えると書かれています。20〜49人の事業者は、2024年の1人を満たせなかった場合に2025年1月へAED96,000、2025年の2人を満たせなかった場合に2026年1月へAED108,000です。2026年の月額そのものは、このページに数字として書かれていません。年ごとの増額の書き方から計算はできますが、公表値ではないため当サイトでは金額を示しません。
雇う側の条件としては、MoHREが2026年1月1日から、民間部門で働くエミラティの最低月額賃金をAED6,000に定めたことも同じページに書かれています。会社にとっては、採用の件数だけでなく人件費の下限も決まっている形です。
この義務は不動産に限ったものではなく、指定業種に共通する連邦の規則です。DLDが公表した2,100件は、この枠組みの中でドバイの不動産分野が積み上げた件数として読むのが正確です。DLDが独自に企業へ雇用を課しているという書き方は、発表にも政府ポータルにもありません。
Nafisは連邦のプログラムで、ドバイの取り組みはその上に乗っています
発表に名前が出てくるNafisについても、公表されている説明を確かめておきます。UAE政府ポータルのエミラティゼーションのページ(最終更新 2025年10月6日)には、Nafisは民間部門でエミラティ人材の競争力を高めるための連邦のプログラムであり、AED24 billionを配分して、2025年までに少なくとも75,000人のエミラティを民間部門で雇用すると書かれています。
つまり、ドバイの不動産分野の2,100件は、連邦の75,000人という目標の一部を担った数字ということになります。ただし、2,100件が75,000人のどれだけを占めるのかは、DLDの発表にも政府ポータルにも書かれていません。分野ごとの内訳が公表されていないため、比率を出すには当サイトの推定が必要になります。その推定は行いません。
組織の役割は、連邦(MoHREとNafis)が制度と支援を用意し、ドバイ側(Emirati Human Resources Development CouncilとDLD)が業界に向けた筋道を作り、実際に雇うのは民間の不動産会社という並びです。発表が、地方と連邦の機関を民間部門と結ぶ枠組みの有効性を示したと述べているのは、この3つの層のことです。
2033年の戦略には、仲介のエミラティ化が書かれています
なぜDLDが雇用の話を公表するのか、という疑問には、2024年10月28日に公表されたDubai Real Estate Sector Strategy 2033が答えになります。この戦略のページには、エミラティゼーションが不動産分野における戦略上の節目として置かれ、エミラティを仲介の分野で育てるためのDubai Real Estate Brokers Programmeが挙げられています。雇用の発表が単発の広報ではなく、公表済みの戦略の一部として出ていることが、ここで確かめられます。
| 戦略2033の指標 | 公表されている目標 |
|---|---|
| 不動産分野のGDPへの寄与 | 約AED73 billion(倍増) |
| 持ち家率 | 33パーセントへ引き上げ |
| 不動産取引 | 70パーセント増 |
| 市場価値 | AED1 trillion |
| ドバイの不動産ポートフォリオの価値 | 20倍のAED20 billion |
| エミラティ雇用の数値目標 | 公表された指標に含まれていません |
表のとおり、戦略の指標には雇用の数値目標が入っていません。2,100件という実績を照らし合わせる公表された目標値が無いということです。達成率を出せないので、当サイトでも目標の何割といった書き方はしません。金額の指標はすべてAEDで公表されているため、ここでもAEDのまま並べています。
買主が確かめるのは、国籍ではなく登録です
現場の話に戻ります。担当者が誰であれ、買主の側で確かめられるのは登録の状況です。DLDは、RERAの免許を受けた仲介人の一覧を公開しており、DLDのサイトとDubai RESTアプリから、居住の有無を問わず誰でも即時に照会できると案内しています。会社の免許と担当者個人の登録は別に管理されているので、両方を見ます。
採用の制度が動いていれば、担当者が交代する場面は増えます。そのときに見るのは経歴の説明ではなく、契約書に書かれた会社名と、いま担当している人の登録が生きているかどうかです。資格の仕組みそのものはDLDの不動産専門教育、会社と担当者の照合の手順はドバイ不動産会社の選び方、免許を出している機関の役割はRERAとはにまとめています。
発表に書かれていないこと
推測で埋めずに、そのまま並べます。今回の発表と関連する公表資料からは、次の項目は分かりませんでした。
- 参加した不動産会社の数と、その社名
- 2,100件の年ごとの内訳と、職種ごとの内訳
- 採用された人が在職を続けている割合
- ドバイの不動産分野で働く人の総数に対する比率
- 次の段階の数値目標と、その期限
- 買主の手続き、手数料、必要な期間への影響
DLDの発表は、件数と方針までを示すものです。ここから市場の価格や取引件数に結び付ける記述も、発表にはありません。
まとめ
DLDは2026年9月14日、2023年から2026年までに不動産分野でエミラティ向けの雇用機会が2,100件を超えたと公表しました。関わっているのはドバイのEmirati Human Resources Development Council、DLD、MoHRE、Nafisの4者です。背景にあるのは連邦の採用義務で、従業員50人以上は熟練職で年2パーセント、20〜49人は指定14業種のひとつとして不動産が対象になり、達成できない場合の負担額も公表されています。
買主にとっては、手続きが変わる発表ではありません。変わるとすれば会社の中の人の構成で、それは公表された件数からは読み取れません。確かめられるのは、目の前の会社と担当者の登録が生きているかどうかだけです。次の段階の数値目標が公表された時点で、この記事を更新します。