アブダビの不動産について「税金がかからない」と書かれた説明をよく見かけます。この言い方は、半分は政府の公表と合っていて、半分は読者を取り違えさせます。UAE政府のポータルは個人に所得税を課していないと明記していますが、それは「請求書が届かない」という意味ではありません。
実際に払うものは、税ではない名前で並んでいます。売買のときの登録手数料、賃貸契約に付く市政手数料、商業用物件のVAT。さらに日本の居住者であれば、UAE側で課されなかった分がそのまま日本側の課税所得の範囲に残ります。
この記事は、アブダビの不動産に関して支払うものを「税」「政府に払う手数料」「公表ページで確認できなかったこと」の3つに仕分け、そのうえで日本側に何が残るのかを並べたものです。数字はすべて、ADREC・UAE財務省・連邦税務庁・国税庁・日本の財務省が公表しているページから取り、確認日を付けています。
購入時の諸費用そのものの一覧はアブダビ不動産の購入費用にあります。ここでは金額の一覧ではなく、その負担が税なのか手数料なのか、どちらの国で発生するのかを扱います。
「税」と「手数料」を混ぜると、金額も取り違えます
先に仕分けから始めます。混ぜてはいけない理由は、日本側の扱いが変わるからです。
UAE政府のポータルは、UAEの税として付加価値税(VAT)、物品税、法人税の3つを挙げ、個人には所得税を課していないと書いています。ここに不動産保有への税は出てきません。出てこないというのは「無い」と断定されていることとは違うので、当サイトはそのまま「記載がない」と扱います。
一方、ADRECのDARIには手数料の表があります。売買の登録、賃貸の登録、証明書の発行。これらは税ではなく、行政サービスに対する料金です。払う相手も、根拠になる書面も、税とは別のものです。
日本の確定申告では、外国で払った「税」は外国税額控除の検討対象になりますが、行政手数料はそうではありません。名前をそろえておかないと、控除できないものを控除できると思い込むことになります。UAE側でそもそも所得税が課されていないため、この論点は実務上ほとんど起きませんが、区別そのものは残しておく価値があります。
買うときの2%は、税ではなく登録の手数料です
DARIの売買の案内には、取引手数料の書き方が2通り並んでいます。1つは評価額か売却価格の高いほうの2パーセント。もう1つは、契約から残っている評価額または売却価格のうち高いほうの1パーセントです。どちらがどの場合に当たるのかは、この案内からは読み取れません。
大事なのは名前のほうです。これは取得に対する課税ではなく、所有権の移転を登記簿へ反映させる手続きの料金として案内されています。日本の不動産取得税や登録免許税と並べて考えると分類を誤ります。アブダビ側には、この登録手数料に相当するものしか見当たりません。
同じ案内には、申請の画面が評価額と市政手数料を自動で計算する、という記述もあります。売買の画面でも市政手数料という語が出てくるため、賃貸の5パーセントと同じものかどうかを確かめたくなりますが、この案内には算定の基礎も率も書かれていません。書かれていない以上、当サイトから数字を補いません。
住宅と商業で、VATと市政手数料が入れ替わります
ここがアブダビの不動産で最も取り違えやすいところです。VATと市政手数料は、かかる側が逆になっています。
UAE財務省のVATのページは、2018年1月1日に標準税率5パーセントで導入されたこと、住宅用物件の供給は原則として免税であること、商業用物件の供給は売却も賃貸も標準税率で課税されることを書いています。加えて、建設から3年以内に初めて供給される新築の住宅はゼロ税率とされています。免税とゼロ税率は読者から見ると同じ「5パーセントが乗らない」ですが、事業者が仕入れのVATを取り戻せるかどうかが違うため、政府の側では別の扱いです。
住宅を買って住宅として貸すなら、VATの5パーセントは基本的に登場しません。反対に、オフィスや店舗を買って貸すなら5パーセントが乗ります。同じ「アブダビの不動産」でも、用途が変わると税の話が丸ごと入れ替わります。
賃料の5%は、借主に請求される形で運用されています
ADRECの賃貸登録手数料の表は、住宅と商業を分けて書いています。住宅の契約について、非ローカルには年額賃料の5パーセントの市政手数料が適用され、最低額はAED 450とされています。商業・工業の契約には「No fees」、つまり市政手数料は無いと明記されています。空欄ではなく、無いと書いてある点が重要です。
同じ表には、市政手数料とは別のサービス料もあります。住宅で契約期間が4年未満なら1契約あたりAED 50、4年以上なら年額賃料の1パーセントです。商業・工業は4年未満で1契約あたりAED 50、4年以上で年AED 50となっています。
| 項目 | 住宅(4年未満) | 住宅(4年以上) | 商業・工業 |
|---|---|---|---|
| サービス料 | 1契約あたり AED 50 | 年額賃料の1% | AED 50(4年以上は年 AED 50) |
| 市政手数料 | 年額賃料の5%(非ローカル) | 年額賃料の5%(非ローカル) | No fees(記載どおり) |
| 市政手数料の最低額 | AED 450 | AED 450 | 該当なし |
| 契約が4年を超える場合 | 自治体交通局の承認が要ると案内に記載 | 同左 | 同左 |
支払い方については、UAE政府のポータル側に説明があります。アブダビでは貸主がTawtheeqへ契約を登録すること、そして市政手数料は賃料の額か賃料インデックスのいずれか高いほうを基礎に5パーセントで計算され、借主の水道・電気の請求へ12か月に分けて加算されると書かれています。請求書の形で毎月届くため、契約時に一括で見える費用ではありません。
ところが、DARIで貸主が契約を登録する画面には、市政手数料を借主が負担するのか貸主が負担するのかを選ぶ欄があります。同じ画面には保証金、支払方法、分割の回数、転貸の可否も並びます。政府ポータルの説明は借主の請求書へ乗る前提で書かれており、登録画面は負担者を選ばせる作りです。この2つの記載を、当サイトの側で片方に寄せることはしません。実際の契約でどちらになっているかは、登録された内容を見て確かめてください。借りる側の手続き全体はアブダビの賃貸契約にまとめています。
貸しても、UAEの法人税は自然人の不動産投資所得を外しています
2023年に導入されたUAEの法人税は、自然人(個人)についても適用の余地があります。連邦税務庁の案内は、自然人が事業または事業活動から得た総売上が暦年で AED 1 million を超える場合に法人税の対象になる、という形で線を引いています。原文の表記が million のままなので、当サイトも桁を書き換えずにそのまま引きます。
そのうえで同じページは、事業活動に当たらないものとして給与、個人投資所得、そして不動産投資所得の3つを挙げています。アブダビの住戸を個人名義で保有して賃貸に出しているだけであれば、賃料は不動産投資所得の側に入ります。
この整理から2つのことが言えます。第一に、賃料収入があること自体は法人税の登録理由になりません。第二に、不動産投資所得は上の AED 1 million の判定にも持ち込まれません。金額の大小で結論が変わる枠組みではない、ということです。
ただし、何が不動産投資所得に当たるのかの定義は、この案内ページには書かれていません。ライセンスを取って反復継続的に売買している場合や、法人名義で保有している場合に同じ結論になるとは限りません。当サイトは、個人名義で保有して貸しているという単純な形についてのみ、上の記載をそのまま紹介しています。
日本の居住者には、UAE側で課されない分がそのまま残ります
ここからが、日本から投資する人にとって実質的に重い部分です。
国税庁は、居住者のうち非永住者以外の人について、課税所得の範囲を国内および国外において生じたすべての所得としています。UAEで課税されないことと、日本で申告しなくてよいことは、まったく別の話です。
貸している場合、賃料は日本で不動産所得として扱われます。ここで見落とされやすいのが、国外中古建物の取り扱いです。国税庁は、令和3年以後の各年について、国外中古建物の不動産所得の計算で生じた損失のうち、耐用年数を簡便法で計算した減価償却費に相当する部分は生じなかったものとみなすとしています。海外の中古物件を短い耐用年数で償却し、帳簿上の赤字を給与所得などと通算する形は、この規定によって塞がれています。
保有しているだけでも、残る手続きがあります。国税庁は、居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日において国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える人に、国外財産調書を翌年の6月30日までに提出することを求めています。アブダビの住戸1戸でこの金額に届くことは珍しくありません。
| 段階 | 日本側で確認すること | 根拠として参照した国税庁の案内 |
|---|---|---|
| 買う | その年の12月31日時点の国外財産の合計額 | No.7456 国外財産調書の提出義務 |
| 持つ | 5,000万円を超えるなら翌年6月30日までに調書を提出 | No.7456 |
| 貸す | 不動産所得としての申告。簡便法による償却で生じた損失は通算できない | No.1391、No.2010 |
| 売る | 国外で生じた所得も課税所得の範囲に含まれる | No.2010 |
この記事は税務の判断を示すものではありません。実際の申告の要否、計算方法、適用される特例は、税理士または所轄の税務署に確認してください。日本側の課税範囲の考え方そのものはドバイ不動産と日本の税金でも扱っており、居住区分の判定はアブダビでも同じです。
租税条約があっても、日本側の申告が消えるわけではありません
日本とUAEのあいだには租税条約があります。財務省の解説は、事業所得については進出先に恒久的施設がある場合にのみ課税されること、配当・利子・使用料の源泉地国課税に限度税率を設けていること、両国の税務当局が国税と地方税の情報を相互に交換できることを挙げています。
条約の役割は、二重に課されることを避け、課税権を調整することです。どちらの国でも課されない状態を作るための仕組みではありません。UAE側で個人に所得税が課されていない以上、不動産から生じる所得について実際に調整すべき二重課税は生じにくく、日本側の申告がそのまま残ります。
情報交換の条項があることも、実務としては覚えておく価値があります。国外財産調書の制度と合わせて、海外の資産が日本の当局から見えない前提で設計を組むべきではありません。
この記事で確認できなかったこと
第一に、個人がアブダビの不動産を保有していること自体に毎年かかる税の有無です。参照した政府のページに記載が無いというだけで、「制度が存在しない」と確認できたわけではありません。
第二に、UAE側での売却益の扱いです。個人に所得税を課していないという記載はありますが、不動産の売却益について個別に説明した政府の記載は見つけられませんでした。
第三に、売買の登録手数料の2パーセントと1パーセントの使い分けです。分岐の条件が案内に書かれていないため、どちらが当たるかを示せません。
第四に、売買の案内に出てくる「市政手数料」が、賃貸登録の5パーセントと同じものかどうかです。算定の基礎も率も書かれていませんでした。
第五に、賃貸の市政手数料を最終的に誰が負担するかです。政府ポータルは借主の請求書へ加算されると書き、登録画面は負担者を選ばせます。この2つを整合させる記載を見つけていません。
第六に、法人名義での保有や、反復継続的な売買を行う場合の法人税の扱いです。不動産投資所得の定義が公表ページに無いため、単純な個人保有以外へ広げていません。
当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。また当社は税務の専門家ではなく、この記事は政府が公表している記載を並べたものです。
まとめ
アブダビの不動産で「税金」と呼べるものは多くありません。UAE政府は個人に所得税を課していないと明記し、連邦税務庁は自然人の不動産投資所得を事業活動から外しています。残る税はVATで、これは住宅ではなく商業用物件の側に乗ります。
そのかわり、税ではない負担があります。売買では評価額か売却価格の高いほうの2パーセントという登録手数料。住宅の賃貸では、非ローカルに年額賃料の5パーセント、最低AED 450の市政手数料と、契約期間で切り替わるサービス料。商業用物件には市政手数料が無いと明記されているため、VATと市政手数料は住宅と商業で向きが逆になります。
そして日本の居住者であれば、UAE側で課されない分がそのまま日本側に残ります。賃料は不動産所得として申告し、国外中古建物を簡便法で償却して生じた損失は他の所得と通算できません。12月31日時点で国外財産が5,000万円を超えていれば、翌年6月30日までに国外財産調書を提出します。
「税金がかからない国だから手取りが多い」という理解で始めると、日本側の申告と、毎月の請求書に乗る5パーセントを見落とします。UAE側で何が課され、何が手数料で、日本側に何が残るのかを分けて数えてください。