アブダビで住戸を買って貸すとき、家賃収入の額を決めているのは募集サイトの相場ではありません。いまは、その物件で最後に登録された賃貸契約の賃料です。2026年6月3日、アブダビ政府は年あたりの賃料の引き上げ率を5%から0%へ更新しました。更新のときも、借主が入れ替わる新規のときも、参照するのは同じ数字だと発表に書かれています。
これは、家賃収入を見積もる順番が変わったということです。「いまの相場はいくらか」から始めるのではなく、「この住戸の最後の登録賃料はいくらか」から始めることになります。
この記事は、貸主の側から見た家賃収入を扱います。賃料がどう決まり、どの画面で条件が確定し、手元に残るまでに何が引かれるのか。利回りという割り算そのものはアブダビ不動産の利回りデータに、家賃の相場をどの資料で確かめるかはアブダビの家賃データに分けてあります。ここでは、割り算の前の段、つまり分子になる賃料そのものの決まり方だけを見ます。数字はADREC、UAE政府ポータル、アブダビ司法当局、アブダビ政府メディアオフィス、アブダビ文化観光局の公表ページから取り、確認日を付けています。
いま、更新で賃料を上げることはできません
ADRECの発表は短いものです。アブダビ政府が、首長国全域の住宅・商業・工業の物件について、年あたりの賃料の引き上げ率を5%から0%へ更新した。期間は「一時的な短い期間、追って通知があるまで」。これだけです。
理由として挙げられているのは需給です。ここ数年、需要が供給を継続的に上回り、稼働率が過去最高に達している。この需要が新規契約の賃料を押し上げ、前年と比べてアブダビ全域で15%、投資区域では23%の上昇になった。それが多くの居住者の住まいの継続性に影響している、という説明です。
日本から購入を検討している人にとって、ここは取得の判断そのものに効きます。「毎年数パーセントずつ賃料を上げていく」という前提を、いまのアブダビでは置けません。何年で回収するという計算をするなら、賃料が据え置かれる期間を含めた形にする必要があります。
そして、その期間がいつまでなのかは公表されていません。発表にあるのは「一時的な短い期間」と「追って通知があるまで」という2つの言い方だけで、終わりの日付も、解除の条件も書かれていません。当サイトからは、いつ戻るかを示せません。
ここで一つ、読み手が混乱しやすい食い違いがあります。貸主が更新の操作を調べるときに読むDARIの案内には、貸主は前年の年額の5%を超えて賃料を上げられないと、いまも書かれています。発表の側が0%へ更新したと言っているのに対し、操作の案内は5%のままです。どちらが優先されるかを断定できる根拠を、当サイトは公表ページの中に見つけられませんでした。ただし発表の側は日付と適用範囲を明示した最新の指示なので、見積もりは0%の側で置いておくほうが安全です。これは見積もりの置き方の話であって、法的な効力についての判断ではありません。
賃料の基準は、最後に登録されたTawtheeq契約です
0%という数字だけを見ると、「前の契約より上げられない」という意味に読めます。発表はもう一歩踏み込んだ書き方をしています。すべての更新と新規の契約は、その物件で最後に登録されたTawtheeq契約の賃料を参照する、という文です。
この一文が効くのは、借主が入れ替わる場面です。いまの借主との契約が終わり、空室にしてから新しい借主を募集したとします。それでも参照するのは、その住戸で最後に登録された契約の賃料になります。募集の広告にいくらで出ていたか、近隣の似た住戸がいくらで成約したかは、ここでは基準になりません。
Tawtheeqというのは、アブダビの賃貸契約の登録簿です。UAE政府ポータルには、アブダビでは貸主が賃貸契約をTawtheeqに登録しなければならないと書かれています。登録は借主の義務ではなく、貸主の側の手続きです。つまり、賃料の記録を残しているのは貸主自身ということになります。
守られていないと思われる場合の窓口も発表に置かれています。借主と事業者に向けて、ADRECのウェブサイト、専用の顧客窓口、公式のメールアドレスの3つが案内されています。貸主の側から見ると、これは「申告の経路がある」という意味です。
一方で、この発表に書かれていないこともあります。上げて登録しようとしたときにどうなるのか、違反にどのような扱いがあるのか、新築で登録の履歴がまだ無い住戸をどう扱うのか。いずれも記載がありません。ADRECの規則のページには、賃貸関係について2025年法律第2号と2006年法律第20号が並んでいますが、引き上げ率そのものの条文はこのページからは読み取れませんでした。
賃料インデックスは、上げてよい額の上限ではありません
アブダビには、ADRECが公表する賃料のインデックスがあります。アブダビ政府メディアオフィスの発表によれば、住宅・商業・工業の物件について信頼できるデータを提供するもので、エリアごとの四半期の指標となる賃料も利用できます。目的として挙げられているのは、市場の透明性を高めること、指標となる賃料を示すこと、そして成長する首都の不動産市場の安定を支えることです。
ここで取り違えやすいのが、インデックスと上限の関係です。インデックスに出ている値まで賃料を上げてよい、という意味にはなりません。インデックスは指標であり、更新のときに参照するのは最後に登録された契約の賃料だと、ADRECの発表のほうに書かれています。
インデックスが役に立つのは、買う前の段階です。検討している住戸のエリアで、どのくらいの賃料が指標として示されているか。それは購入の判断材料になります。買ったあとの更新の交渉で使える数字ではない、という切り分けになります。
家賃をどう受け取るかは、登録の画面で決まります
賃料の額が決まっても、それがどう入ってくるかは別の話です。アブダビでは、その条件が賃貸契約の登録画面で確定します。
DARIの案内によれば、貸主が起票する画面は5つの段に分かれています。第1段が物件の情報で、契約の種別(住宅・商業・工業)、借主の種別(個人・会社・外交官・政府機関)、Premise IDを入れます。第2段が借主の情報で、個人ならEmirates IDまたは統一番号、会社なら商業ライセンス番号です。
家賃収入に直接効くのは第3段です。案内が挙げているのは、賃料の総額、開始日と満了日、期間、年額(自動で計算されます)、保証金、支払方法、分割の回数、市政手数料をどちらが負担するか、そして転貸を認めるかどうかです。誰が市政手数料を負担するかは、法律で決まっているのではなく、この画面で登録される項目として現れます。
第4段で必要な書類を添え、第5段で内容を見直してから借主へ送ります。借主には通知が届き、承認するか差し戻すかを選びます。差し戻すときは理由を示し、貸主は契約を修正するか取りやめることができます。契約の期間が4年を超える場合は、自治体交通局(DMT)の公式な承認が必要だと案内に書かれています。
更新のときは、この画面の使い方が変わります。DARIの案内によれば、更新で編集できるのは賃料の額で、連絡先の情報は編集できません。つまり更新の操作そのものは、賃料の額を入れ直す作業です。その額をいくらにできるかが、前の節で見た0%の話になります。
支払いの形については、UAE政府ポータルに記載があります。借主は、合意した賃貸期間の支払いをまかなう先日付小切手を渡すことになっています。家賃が毎月自動的に振り込まれるという形を前提にしないでください。何回に分けるかは、第3段で登録される分割の回数として記録されます。借主の立場から見た同じ手続きはアブダビの賃貸契約にまとめています。
登録のときに払うものは、契約の長さと用途で変わります
賃料が入り始める前に、登録そのものに費用がかかります。DARIの手数料の案内は、契約の用途と長さで4つに分けています。
| 区分 | サービス手数料 | 市政手数料 |
|---|---|---|
| 住宅(会社・個人)/4年未満 | 契約あたり50 AED | 非ローカルは年間賃料の5%、450 AEDを下回らない |
| 住宅(会社・個人)/4年以上 | 年間賃料の1% | 非ローカルは年間5%、450 AEDを下回らない |
| 商業・工業/4年未満 | 契約あたり50 AED | 記載がありません |
| 商業・工業/4年以上 | 年50 AED | 記載がありません |
案内には、手数料は契約の種類によって変わる、という但し書きも添えられています。表の右下2つが空欄なのは調べ足りなかったからではなく、商業・工業には市政手数料の記載が無いという意味です。
市政手数料そのものの算定については、UAE政府ポータルに別の書き方があります。賃料の額か賃料インデックスのいずれか高いほうを基準にした5%、という説明です。DARIの表は年間賃料を基準に書いており、2つのページで基準の書き方が揃っていません。どちらが実際に適用されるかを当サイトから示すことはできないため、契約の前に登録の窓口で確かめる項目として残しておきます。
この5%が貸主の負担になるか借主の負担になるかは、前の節で見たとおり登録画面の項目です。手取りを見積もるときは、この1項目だけで年間賃料の5%が動きます。購入の段階でかかる費用の全体はアブダビ不動産の購入費用にまとめてあります。
共用部のサービスチャージは、貸主の側に残ります
集合住宅の住戸を貸す場合、賃料とは別に共用部の費用がかかります。アブダビ政府メディアオフィスの発表によれば、サービスチャージは開発物件の共用部を管理し維持する費用にあてられるもので、アブダビの共同所有不動産では、その賦課にADRECの承認が必要です。
金額の水準については、2023年に共同所有不動産のサービスチャージとコミュニティチャージが6%下がり、2022年と比べてAED39.7 millionの削減になったと発表されています。これは首長国全体の削減額であって、個々の住戸の年額ではありません。自分の住戸でいくらになるかは、物件ごとの承認された予算によります。
つまり、手取りを出すには物件個別の数字が要ります。当サイトで確認できたのは「ADRECの承認を経て決まる仕組みであること」と「首長国全体では下がる方向で推移していること」の2点までで、住戸ごとの一覧は公表ページで見つけられませんでした。売り手から提示された想定利回りに、この費用が引かれているかどうかは必ず聞いてください。
なお、この賃料収入そのものへUAE側で毎年かかる税については、政府の公表ページに記載がありません。何が税で何が手数料なのかの切り分けはアブダビ不動産の税金で扱っています。
賃料が入らなかったときの窓口は、司法当局の側にあります
家賃収入の話は、入ってこなかったときをどうするかまで含みます。アブダビ司法当局のページによれば、賃貸紛争調停委員会は貸主と借主のあいだの賃貸関係から生じる紛争を扱います。根拠として挙げられているのは、アブダビ首長国における貸主と借主の関係の規制に関する2006年法律第20号です。
委員会の構成も書かれています。1名の裁判長と2名の裁判官で構成され、賃貸紛争を緊急の案件として扱い、当事者のいずれかから申し立てられた暫定的な申立ても審理できる、という説明です。UAE政府ポータルの側でも、アブダビの賃貸紛争の窓口としてこの委員会が案内されています。
ただし、申し立てにかかる費用と、結論が出るまでの期間は、このページに書かれていません。日本から遠隔で貸す場合、代理人を立てられるかどうかも含めて、ここは事前に確認しておく項目になります。
短期で貸す場合は、まったく別の許可の話になります
観光客向けに短期で貸すことを考えている場合、ここまでの枠組みとは別の制度に入ります。アブダビ文化観光局のページには、2020年にアブダビ首長国でホリデーホームの提供と利用に関する新しい規制が導入された、と書かれています。ページにはオーナー向けの手引き、運営者向けの手引き、マニュアル、そして許可の申請の入口が置かれています。
条件、必要な書類、手数料、有効期間は、このページの本文には書かれていません。いずれもリンク先の資料の側にあります。当サイトはページ本文で確認できた範囲までを記載し、額や条件を推測で埋めることはしません。
押さえておきたいのは、短期で貸すには長期の賃貸契約の登録とは別の許可が要るという構造です。ここまで見てきた0%の上限、Tawtheeqの登録、賃料インデックスは、いずれも長期の賃貸契約についての話でした。
公表ページで確認できなかったこと
家賃収入を見積もるうえで必要なのに、今回の一次情報では埋まらなかった項目を並べます。
| 項目 | 状態 | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 賃料の引き上げ率が元に戻る時期 | 「追って通知があるまで」とだけ記載 | ADRECの発表 |
| DARIの更新の案内に残る5%の記載 | 発表の0%と揃っていません | ADRECの窓口 |
| 上げて登録しようとしたときの扱い | 記載がありません | ADRECの窓口 |
| 登録の履歴が無い新築住戸の基準 | 記載がありません | ADRECの窓口 |
| 市政手数料の基準(年間賃料か指標値か) | 2つのページで書き方が違います | 登録の窓口 |
| 住戸ごとのサービスチャージの年額 | 公表の一覧を見つけられません | 物件の管理主体 |
| 賃貸紛争の申し立て費用と所要期間 | 記載がありません | アブダビ司法当局 |
| 短期賃貸の許可の条件と手数料 | ページ本文に記載がありません | アブダビ文化観光局 |
右の列を埋めてから買う、という順番になります。この表が空欄だらけなのは調査の不足ではなく、公表されている範囲がここまでだという意味です。当サイトの側で数字を補うことはしません。
賃料が決まったあと、それを価格で割って何パーセントにするかはアブダビ不動産の利回りデータで扱っています。分子に置ける賃料が3種類あるという話は、この記事で見た「最後に登録された契約の賃料」と直接つながります。当社は賃料収入も利回りも保証しません。