ドバイの物件資料で高い想定利回りを見たとき、先に確かめることは数字の大小ではありません。その収入を、どの貸し方で数えたのかです。年額の賃貸契約から数えた値と、1泊単位の貸出(ホリデーホーム)から数えた値は、分子の作りも、必要な手続きも、あとから検算できる範囲も違います。前者は登記された記録から誰でも作り直せますが、後者は運営の実績が無いと検算できません。
この記事は、ドバイ政府の法令ポータル(Dubai Legislation Portal)が公開している法令を読み、短期の貸出に何が要るのか、その料金と義務がどこに書かれているのかを並べます。扱うのは Decree No. (41) of 2013、その実施細則である Administrative Resolution No. (1) of 2020、料金と罰金を定めた Executive Council Resolution No. (49) of 2014、そして年額の賃貸借を規律する Law No. (26) of 2007 です。いずれも政府機関そのものが公開している原文で、2026年10月27日に確認しました。
先に結論を書きます。短期の運用を前提にした想定利回りは、運営者の免許と住戸ごとの許可、そして運営の実績という3つがそろって初めて検算できる数字です。この3つが示されない数字は、高いか低いかを論じる前に、根拠を確かめる段で止まります。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。物件の種別ごとの入口はドバイの物件情報にあります。
表示された利回りは、どちらの貸し方で数えた値か
当サイトがDLD(Dubai Land Department、ドバイ土地局)の公開記録から集計した表面利回りは、同じ区画・同じ物件種別について、年額の賃料の中央値を取引価格の中央値で割った値です。同じ式で計算できた組み合わせは50組で、幅は1.36%から8.99%までに収まりました。読者が同じ記録から同じ値を作り直せることが、この数字の唯一の長所です。並べ方と条件の詳細は利回りをエリア別に比べる記事に分けて書いています。
いっぽう、1泊単位の貸出を前提にした数字は、この式の分子に入りません。入るのは宿泊料の合計で、何泊埋まったかによって毎月変わります。同じ住戸でも、稼働の高い月と低い月で分子が動くため、年額の賃料のように1つの契約金額で確定しません。さらに下で見るように、運営側が負う費用と、制度上の許可の料金が別に乗ります。
資料に「利回り」とだけ書かれていたら、まず年額の契約か、宿泊単位の運用かを聞いてください。この一点で、確かめる相手も、確かめる書類も変わります。年額の契約なら登記された記録と突き合わせられますが、宿泊単位なら運営の記録を見せてもらうしかありません。
短期の貸出は、運営者の免許と住戸ごとの許可で動きます
Decree No. (41) of 2013 は、家具付きの住戸を継続的に短期で貸し出す行為を「Activity」と定義し、第3条で免許を受けていない者がこれを行うことを禁じています。免許の期間は第7条で1年とされ、申請によって最長4年まで認められる形になっています。等級は第9条で deluxe と standard の2つに分かれます。
実施細則である Administrative Resolution No. (1) of 2020 は、ここをさらに2つの書類に分けています。免許(Licence)は運営する人または会社に出るもので、許可(Permit)はその住戸1戸を短期の貸出に使ってよいと認めるものです。許可の期間は1年で、その前段に有効期間3か月の初期承認(Initial Approval)があり、更新は1回とされています。
同じ細則の第8条は、許可の条件を挙げています。所在が当局の認めたエリアであること、住戸が指定された型(指定建物内のアパート、住宅建物内のアパート、コンパウンド内のヴィラ、独立したヴィラ)に当たること、ガイドの技術基準を満たすこと、申請者がその住戸を処分できる立場にあることの証明、そして売買の契約に、その住戸を短期の貸出に使うことを妨げる明文の条項が無いことです。最後の条件は、購入する段で結論が決まる項目です。
政令の原文は、所管を DTCM(Department of Tourism and Commerce Marketing)と書いています。この名称については、Law No. (20) of 2021 の第15条が、DTCMの権利と義務を Department of Economy and Tourism(DET、経済観光局)が承継すると定めています。原文の表記と、いま窓口になっている組織の名前が違うため、古い資料を読むときはこの対応を押さえてください。
料金は決定の別表に書かれています
料金は Executive Council Resolution No. (49) of 2014 の別表1にあります。注目したいのは、住戸ごとの許可の料金が寝室の数で決まることです。寝室が多い住戸ほど許可の料金は上がり、1戸あたりの年額には上限が置かれています。寝室の数え方そのものはアパートメントの間取りの記事で扱っています。
| 項目(決定の原文の表記) | 金額 |
|---|---|
| 免許の新規・更新の初期承認(Issuing an initial approval for a new Licence or renewal of a Licence) | 100 AED |
| 免許の新規・更新(Issuing a new Licence or renewal of a Licence) | 500 AED |
| 電子システムへの登録(Subscription to the e-Programme) | 1,500 AED |
| 住戸ごとの許可の発給・更新(Issuing, or renewal of, a permit to conduct the Activity in a Holiday Home) | 寝室1室あたり 300 AED(1戸あたり年 1,200 AED が上限) |
| 立入検査の申請(Request for inspection of a Holiday Home) | 1戸あたり 300 AED |
金額はいずれもAEDで、決定に書かれた表記のまま載せています。円には換算していません。為替は日々動くため、換算値を書くと、読者が決定の別表と突き合わせられなくなります。
罰金は同じ決定の別表2にあります。免許を持たずに営業した場合は5,000 AED、住戸を丸ごと貸さずに部屋やベッド単位で貸した場合は500 AED、電気と水道の提供に対して宿泊者へ追加の費用を請求した場合は2,000 AEDです。政令の側でも第11条が、違反に対する罰金の範囲を200 AEDから20,000 AEDとし、繰り返した場合の倍額(上限100,000 AED)、最長6か月の営業停止、免許の取消しを定めています。これらは収入ではなく、運営を続けるための条件です。
丸ごと貸すこと、光熱費を請求しないこと
政令第8条は、免許を受けた運営者の義務を並べています。収入の計算に直接効くものが3つあります。1つ目は、ホリデーホームを一部ではなく丸ごと貸すこと。2つ目は、電気と水道を提供し、その対価として宿泊者へ追加の費用を請求しないこと。3つ目は、保険会社が発行する保険を用意し、ホテルおよび観光施設のための電子システムに登録することです。
1つ目は、1戸を部屋ごとに分けて複数の宿泊者へ貸す前提の収入計算が成り立たないことを意味します。2つ目は、光熱費が運営側の負担になるということです。年額の賃貸契約では、光熱費を借主が負担する形が一般的ですが、短期の貸出ではその分が分子から減ります。3つ目は、保険料とシステム登録料という固定の費用が毎年かかることを意味します。
| 政令第8条の義務(抜粋) | 収入と費用への効き方 |
|---|---|
| ホリデーホームを一部ではなく丸ごと貸す | 部屋単位で分けて貸す前提の収入計算は成り立たない |
| 電気と水道を提供し、追加の費用を請求しない | 光熱費が運営側の負担になる |
| 保険会社が発行する保険を用意する | 毎年の固定費として乗る |
| ホテルおよび観光施設のための電子システムに登録する | 登録料1,500 AEDが乗る |
| 書面と電子の記録を保持し、苦情に対応する | 運営の手間が続く。細則は記録の保持を3年以上としている |
| 定期的な保守を提供する | 修繕と点検の費用が続く |
同じ第8条は、貸出の単位を日・週・月・年と並べています。短期の貸出だけを認める制度ではありません。したがって「許可を取ったら年額では貸せない」という読み方も誤りです。どの単位で貸すかは運営の選択で、その選択ごとに分子の作りが変わります。
年額の賃貸契約は、別の法律で登録されます
年額の賃貸借の側を見ます。Law No. (26) of 2007 は貸主と借主の関係を規律する法で、第4条は対象となる賃貸契約をRERA(不動産規制庁)に登録することを定めています。同じ条文は、登録されていない契約について、司法機関や政府機関が争いを扱わないとも書いています。登録の実務はEjari登録の記事、貸主と借主の権利義務はドバイ賃貸借法の記事にまとめています。
つまり、年額の賃貸契約には登録という仕組みがあり、その記録がDLDの公開データとして取れます。当サイトの表面利回りの分子は、ここから来ています。宿泊料の合計は、この登録の金額ではありません。だから、短期の運用を前提にした数字は、公開データで裏を取れないところに置かれます。確かめる手段が無いのではなく、確かめる相手が運営者になるということです。
候補の住戸で確かめる順序
ここまでを、1戸の候補に当てる順序に直します。最初に前提を確かめ、次に売買の契約を読み、そのあとで許可の条件と費用を見ます。順序を入れ替えると、許可の取れない住戸の収入計算に時間を使うことになります。
最後の段がいちばん大事です。稼働率、平均の宿泊単価、対象の期間という3つが書面で出てこない想定利回りは、計算の過程を点検できません。出てこない数字は、低く見積もるのではなく使わないという扱いにしてください。保有中の費用のうちサービスチャージの調べ方は利回りをエリア別に比べる記事に、利回りの分布そのものはドバイの利回りデータにまとめています。
確認できなかったこと
2つあります。1つ目は、ホリデーホームが Law No. (26) of 2007 第3条の除外(ホテル施設)に当たるかどうかです。同条は適用の対象からホテル施設を外していますが、ホリデーホームがその除外に入るかを示す原文を、当サイトは確認できていません。年額の賃貸借の規律がどこまで及ぶかについて、この記事は結論を出しません。
2つ目は、申請の画面と運用の手順です。所管の公式サイトは当サイトの自動取得を受け付けなかったため、料金と義務は法令の原文の側から読んでいます。画面の表示、受付の窓口、必要書類の一覧は、申請の直前に所管へ直接確かめてください。法令は改正されるため、この記事の値も確認日の時点のものです。
短期の運用を前提にした数字が出てきたときの検討はお問い合わせから承ります。当サイトが使っているデータの出どころは出典の一覧にまとめています。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。