「完成物件(Ready)」として紹介される住戸には、入居者がいるものが混じります。資料の表紙に利回りが書かれているものは、たいていその状態です。建物はもう建っていて、引き渡しを待つ必要もありません。ところが売買の登記が終わって名義が自分に移っても、その住戸をすぐ自分で使えるわけではありません。ドバイの賃貸借を定めるLaw No. (26) of 2007の第28条は、所有権が新しい所有者へ移っても、前の所有者と結んだ契約にもとづく借主の占有継続の権利には影響しないと定めています。当サイトが2026-10-28にドバイ政府の法令ポータルで条文を確認しました。
では、いつから自分で使えるのか。答えは2つの日付のうち遅いほうです。1つは賃貸契約の満了日、もう1つは退去を求める通知を出した日から12か月後です。期間が満了したときの退去について、Law No. (33) of 2008による改正後の第25条2項は、認められる理由を4つに限り、退去日の少なくとも12か月前に、公証人を通すか書留郵便で通知することを求めています。この4つの中に「買ったばかりだから」という理由はありません。
この記事は、賃貸中の完成物件を候補に入れている人が、空室にできる時期を自分で数えられるようにするためのものです。登記の手順や費用は扱いません。個別の契約が有効かどうか、特定の退去請求が通るかどうかも判断しません。条文のどこを見て、売主に何を確認し、どの日付から数えるかまでを示します。物件の種別ごとの入口はドバイの物件情報、完成している住戸の入口は完成物件にあります。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
所有権と賃貸借は、別の帯で動きます
売買で動くのは所有権です。Title Deedの名義が売主から買主へ移り、買主は貸主の立場をそのまま引き継ぎます。引き継ぐのは賃料を受け取る権利だけではありません。保証金を預かっている立場、修繕に応じる立場、通知を受ける立場も一緒に移ります。いっぽう賃貸契約そのものは、当事者の一方が入れ替わっても内容が変わらずに続きます。
ここで効いてくる条文が3つあります。第28条は、所有権の移転が借主の占有継続に影響しないと定めています。第7条は、有効な契約は期間中に貸主も借主も一方的に解除できず、合意または法の規定によるほかないと定めています。そして第6条は、期間が満了したあとも借主が占有を続け、貸主が異議を述べない場合、同じ期間または1年のいずれか短いほうで契約が更新されると定めています。
3つ目を見落とすと計算が狂います。満了日が来ても、放っておけば契約は更新されます。空室にしたいのであれば、満了日を待つだけでは足りず、期限内に通知を出しておく必要があります。賃貸借の全体像はドバイ賃貸借法の基本にまとめています。
満了時に退去を求められる理由は4つだけです
改正後の第25条2項が挙げている理由は次の4つです。原文の表現も併記します。訳だけを覚えると、資料や相手の説明と突き合わせられなくなるためです。
| 認められる理由 | 原文の表現 |
|---|---|
| 取り壊して建て直す場合 | demolition and reconstruction |
| 修復または大規模な保守を行う場合 | restoration or comprehensive maintenance |
| 所有者本人、または一親等の親族が使う場合 | owner’s personal use or first-degree relatives’ use |
| 所有者が売却を望む場合 | owner wishes to sell |
通知の要件も同じ項に書かれています。退去日の少なくとも12か月前であること、そして公証人を通すか書留郵便で届けることです。Law No. (26) of 2007の第2条の定義では、通知は書面で、公証人、書留郵便、手渡し、法が認める電子的手段によるものとされていますが、第25条の退去通知については公証人または書留郵便が指定されています。口頭やメッセージアプリでのやり取りは、この要件を満たすものとして扱えません。
期間の途中についても確かめておきます。第25条1項は、期間中に退去を求められる場面を限定しています。賃料の不払いが通知から30日続いた場合、書面の承諾なく転貸した場合、違法な目的に使われている場合、故意または重大な過失で物件を損傷した場合、契約の目的と違う用途に使っている場合、倒壊のおそれが技術的に確認された場合などです。所有者が変わったことは、ここにも入っていません。
DLD(Dubai Land Department、ドバイ土地局)が出しているEjariの案内にも同じ趣旨が書かれています。貸主が更新しない場合は、理由を明記した文書による通知を1年前までに借主へ届ける、という説明です。条文と案内の両方が同じ向きを示しているので、ここは読み違えのない部分です。
空室にできる最短の時期は、2つの日付の遅いほう
数え方を具体的にします。まず契約書とEjariの登録から満了日を確定します。次に、退去を求める通知がすでに出ているかを確かめます。出ていればその日付から12か月後、出ていなければ自分が通知を出せる日から12か月後が、もう1つの日付になります。この2つを並べて、遅いほうが空室にできる最短の時期です。
下の図は仮定の例です。満了日が2027-06-30だとすると、その日に空室にするためには、2026-06-30までに通知が届いている必要があります。買う時期がそれより後なら、満了日に空室にすることはできず、更新後の期間の満了日を次の目標にして数え直すことになります。
資料に「入居中・年間利回り」とだけ書かれている場合、この2つの日付はどちらも分かりません。満了日が3か月後なのか11か月後なのかで、自分で住み始められる時期は1年以上変わります。価格の交渉より先に、満了日と通知の有無を聞いてください。
自分で住むために取り戻したあと、すぐには貸せません
もうひとつ、計画に影響する条文があります。改正後の第26条は、所有者本人または一親等の親族の使用を理由に物件を取り戻した場合、住宅なら2年、住宅以外なら3年のあいだ、第三者へ貸してはならないと定めています。これに反した場合、借主は審判機関に正当な補償を求めることができます。
つまり「自分で使う」という理由で空室にしてから、短期間で賃貸に出し直す計画は、この条文と衝突します。自分で住むために空室にするのか、貸し方を変えるために空室にするのかを、通知を出す前に決めておく必要があります。理由によって使える条文も、そのあとにできることも変わります。
貸し方を宿泊単位に変える場合は、さらに別の制度の話になります。年額の賃貸契約と宿泊単位の運用では必要な免許も許可も違うため、ドバイの高利回り物件で制度の側から整理しています。利回りの数字だけを見て切り替えを前提にしないでください。
家賃を市場水準へ上げるのも、別の制度です
賃貸中のまま持ち続ける場合は、家賃を上げられるかが次の論点になります。第13条1項は、更新にあたって貸主と借主が賃料を見直せるとし、合意できない場合には審判機関が同種物件の平均賃料にもとづいて決めうると定めています。条件を変える意思がある側は、第14条により満了の90日前までに相手へ通知します。
上げられる幅には上限があります。Decree No. (43) of 2013の第1条は、同種物件の平均賃貸価値と現在の賃料の差に応じて、増額の上限を5段に分けています。差が10%以下なら増額なし、11%から20%低いなら5%、21%から30%低いなら10%、31%から40%低いなら15%、40%を超えて低いなら20%です。同じ政令の第3条では、この平均賃貸価値をRERA(不動産規制庁)が承認した賃料指数で決めるとしています。
| 平均賃貸価値との差 | 増額の上限 |
|---|---|
| 10%以下しか低くない | 増額なし |
| 11%から20%低い | 5% |
| 21%から30%低い | 10% |
| 31%から40%低い | 15% |
| 40%を超えて低い | 20% |
適用の範囲も同じ政令に書かれています。政令の第2条は、民間か公的かを問わずドバイの貸主に適用され、特別開発区域やフリーゾーン(DIFCを含む)も対象になるとしています。区域によって上限が外れるわけではありません。なお第4条により、この政令は発布された日から効力を持ちます。
この上限は「現在の賃料がいくら低いか」から決まるので、買う前にいまの賃料と指数の位置を両方そろえて見る必要があります。資料にある年間賃料だけでは、更新のときに上げられる幅は分かりません。
買う前に確かめる5つの記録
賃貸中の住戸では、物件そのものよりも書類のほうが判断材料になります。次の5つは、口頭の説明ではなく記録で確かめてください。
- 賃貸契約書の満了日と期間。延長や覚書があればその分も含めます
- Ejariの登録。契約書に署名があることと、登録が済んでいることは別の事実です
- 退去を求める通知の有無。出ているなら日付、方法(公証人か書留郵便か)、記載された理由
- 保証金の額と預かっている側。立場は引き継がれるので、返還の義務も移ります
- 前払いされている賃料の範囲と、決済日での精算の方法
Ejariについては、DLDの案内に実務的な条件が書かれています。最低の賃貸期間は1年であること、借主が登録を申請する場合は貸主の承認が必要で、5日以内に承認されない申請は自動的に取り消されること、借主が更新しない場合は3か月前までに貸主へ通知することです。登録の手順は更新されるため、Ejari登録の手順で現行のサービスを確認してください。
公開データからは、入居状態が分かりません
ここは期待しないでください。DLDがオープンデータとして配っている売買の記録には、その住戸に入居者がいるかどうかの欄がありません。当サイトが2026-08-24に照会画面の構成を調べた時点で、指定できる条件は期間、取引の種類、登記の種類、フリーホールドかどうか、エリア、用途、物件の型でした。入居状態や契約の満了日を選ぶ欄はありません。
参考として、当サイトが集計した範囲の件数を挙げます。2026-01-01から2026-08-25までにSalesとして登記された売買110,525件のうち、DLDの区分で完成済み(Ready)のものは34,720件でした(集計日 2026-08-28)。これは登記の件数で、売り出し中の在庫でも、入居中の住戸の数でもありません。価格の側の読み分けはドバイの中古(完成済み)取引データにまとめています。
なお、政府機関そのものの公表と、そのデータを加工して提供している民間サービスを、まとめて「公式データ」と呼ばないでください。この記事の件数は前者を当サイトが集計したものです。入居状態は、どちらのデータにも入っていません。確かめられるのは契約書とEjariの側だけです。
確かめられなかったこと
1つ、条文から答えが出なかった点があります。前の所有者が出した12か月の退去通知を、新しい所有者がそのまま引き継いで使えるかどうかです。第28条は借主の占有継続について定めていますが、通知の効力が所有者の入れ替わりをまたぐかどうかについて、掲載されている条文の中に規定を見つけられませんでした。当サイトはここを未確認として扱います。推測で「引き継げる」とも「引き継げない」とも書きません。
個別の事案でこの点が結論に関わる場合は、賃貸紛争の窓口や専門家の領域になります。対象の範囲と手続きはRental Disputes Settlement Centreの確認方法で確かめてください。この記事は条文と公式の案内から読める範囲までを示すもので、特定の退去請求の可否を判断するものではありません。
また、完成物件ではなく建設中の物件を候補にしている場合は、見る日付そのものが変わります。引き渡しの予定から数える話はドバイのオフプラン物件にあります。賃貸中の住戸の話はここでは終わりです。
同じ条文を自分で読み直す手順
この記事の内容は、次の順で自分で確かめられます。
- 法令ポータルでLaw No. (26) of 2007を開き、第2条、第6条、第7条、第13条、第14条、第28条を読む
- 同じポータルでLaw No. (33) of 2008を開き、第25条1項と2項、第26条を読む。原法の条文だけで結論を出さないでください
- Decree No. (43) of 2013を開き、第1条の5段と第3条の指数の扱いを読む
- 候補の物件について、契約書の満了日、Ejariの登録、通知の有無を記録に残す
- 満了日と「通知の日から12か月後」を並べ、遅いほうを空室にできる最短の時期として書き留める
最後にもう一度書いておきます。賃貸中の完成物件は、名義が移った日と、自分で使える日が別です。この2つを同じ日だと思って買うと、計画が1年以上後ろへずれます。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。