アブダビのヤス島(Yas Island)で、住宅を中心にした複合開発「THE WADI」が発表されました。手がけるのは Cosmo Developments という会社で、アブダビの Flag Holding Group と Reportage Group の合弁です。発表のうち、開発の規模を示す数字は3つです。投資額の見込みがAED 6 billion、住戸が3,950戸、敷地がおよそ140,700平方メートル。場所はヤス島のヤス運河(Yas Canal)沿いとされています。
こうした発表は、規模の数字だけが見出しになって広まりがちです。けれども、買うかどうかを考える人に必要な条件、つまり販売の開始日、価格、支払いプラン、引き渡しの時期は、発表のどこにも書かれていません。この記事は、ディベロッパー自身のプレスリリースと、アブダビ政府の公表資料だけを材料にしています。発表を当サイトが最初に見つけたのは、2026年9月19日の Gulf News の報道です。そのうえで、同じ文面のプレスリリースが Khaleej Times と The National に広告枠(Partner Content/Advertorial)として載っているのを確かめ、そちらを一次情報として扱いました。報道記事の独自の記述は使っていません。
発表の主語は、合弁会社のCosmo Developmentsです
プレスリリースで「launched(立ち上げた)」の主語になっているのは Cosmo Developments です。そのうえで、Cosmo Developments は Reportage Group が全面的に運営していると書かれ、THE WADI についても、開発と引き渡しから長期の管理まで Reportage Group が監督すると説明されています。もう一方の Flag Holding Group については、アブダビの会社であること以外、役割の説明はありません。
登場する会社が3つあることには、実務上の意味があります。アブダビでオフプラン(完成前の住戸)を売り買いすると、その売買は政府の登記システム DARI に登録されます。登録を起票するのはディベロッパーです。パンフレットに載るブランド名と、登録上の売主の名義が同じとは限りません。発表では、どの会社がディベロッパーとして登録されるのかは分かりません。法人名は英語のまま控えておき、契約書と登録の記録で同じ名前が出てくるかを確かめてください。このサイトで会社名やプロジェクト名をカタカナにしないのは、この照合のためです。
3つの数字は、それぞれ別のものを数えています
発表の数字は大きく見えますが、読み方を誤ると別の意味にすり替わります。3つを性質で分けておきます。
| 発表の数字 | プレスリリースの言い方 | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| AED 6 billion | estimated investment(投資額の見込み) | 販売総額でも、住戸価格の合計でもありません |
| 約140,700平方メートル | plot area(敷地の面積) | 建物の延べ床面積や、住戸の専有面積の合計ではありません |
| 3,950戸 | residential units(住戸) | スタジオから3ベッドルームまで。区分ごとの戸数は書かれていません |
1つ目の投資額は「見込み」と書かれており、確定した額ではありません。また、この額は商業施設、スポーツ施設、計画中のホテルも含む複合開発全体の話で、住宅部分だけの額は示されていません。ここから住戸1戸あたりの価格を割り出すことはできません。
2つ目の面積は敷地です。建物を何階建てで何棟建てるのかは書かれていないので、敷地の広さから住戸の広さを推し量ることもできません。3つ目の戸数は、スタジオ、1ベッドルーム、2ベッドルーム、3ベッドルームのアパートメントを合わせた数です。なお「ベッドルーム」は寝室の数で、日本の「2LDK」とは数え方が違います。おおむね対応はしますが、同じものだと思って比べないでください。
場所はヤス運河沿い。所要時間は発表の記載です
プレスリリースは、THE WADI をヤス島のヤス運河沿いに置き、この一帯を、高級な開発や国民向けの住宅事業、運河沿いの遊歩道がある、これから育つ水辺の住宅地だと説明しています。計画の中心には開発を貫く「谷」をかたどった緑地を置き、歩行者・ランニング・自転車の道、水辺、ヨットのマリーナを配するとしています。施設としては、テニスクラブ、ジム、スパ、子ども向けの区画、飲食と物販が挙がっています。
アクセスについては、車でザイード国際空港(Zayed International Airport)までおよそ5分、アブダビの中心部までおよそ23分と書かれています。これはディベロッパー自身が示した目安で、当サイトが測ったものではありません。しかも、同じプレスリリースでも掲載先によって列挙されている施設名と所要時間の組み合わせが少し違っていました。この記事では、2つの掲載先に共通して書かれている2つだけを載せています。
住戸の標準仕様としては、造り付けのキッチン、全面タイル張りの浴室、複層ガラスの窓、セントラル空調、駐車場が挙げられ、一部の住戸にバルコニーかテラスが付くとされています。どの住戸に付くのか、何戸あるのかは書かれていません。
9月の2つの発表を並べると、欠けている項目が同じです
アブダビでは9月に入って、住宅開発の発表が続いています。9月7日には Aldar がサディヤット島の Sei Saadiyat を発表しました。2つの発表を同じ項目で並べると、書かれている項目と書かれていない項目の傾向がはっきりします。
THE WADI の発表は、規模を示す数字がそろっている代わりに、いつ売り出すのかが書かれていません。つまり、今の段階は「計画が公表された」ところであって、「買える状態になった」ところではありません。販売の開始日が出ていない以上、営業の場で「もう残りわずか」「今週中に」と急かされても、その根拠は発表からは確かめられません。Sei Saadiyat の発表の読み方はAldarの「Sei Saadiyat」の記事に分けて書いています。
ヤス島は、外国人が権利を取得できる区域です
区域そのものの扱いは、政府の公表で確かめられます。UAE政府のポータルは、アブダビで外国人が不動産を所有できる投資区域として9つを挙げており、その最初が Yas Island です。根拠は Law No. 19 of 2005 で、2019年4月の改正により、投資区域の不動産について外国人が権利を取得できるようになったと説明されています。取得できる権利は、所有が99年、musataha(建築や改変をともなう権利)が50年で更新可、usufruct(使用と収益の権利)が99年、長期リースが25年以上と区分されています。
ただし、区域の一覧に島の名前があることと、THE WADI の住戸を外国人が買えることは別の話です。この開発でどの権利を何年で取得するのか、そもそも外国人向けに販売するのかは、発表に書かれていません。権利の区分と確認の順序はアブダビの不動産所有形態に、島全体の開発の発表をどう読むかはヤス島の不動産にまとめています。
売り出されたら、DARIの登録で条件が埋まります
発表に書かれていない条件は、どこかの段階で必ず書面になります。いちばん確かなのは、DARI でのオフプラン売買の登録です。ADREC(アブダビ不動産センター)の案内によると、この手続きを起票できるのは不動産ディベロッパーだけで、入力する項目には、販売の日、完成予定日、販売価格、支払いプランの各回、仲介と買主の情報が含まれます。手数料は販売価格の総額の2パーセントで、契約の日から21日を過ぎて登録するとAED10,000が加算されると書かれています。
言い換えると、今回の発表で空欄になっている価格、完成予定日、支払いプランは、登録の段では住戸ごとに埋まります。買主の側からは起票できないので、期限を守る責任はディベロッパーにあります。支払いを進める前に、登録が済んでいるかを確かめてください。登録の仕組みと、公表される取引件数との関係はアブダビの不動産取引データで詳しく扱っています。
代金の扱いには、2025年の行政決定が効きます
オフプランで買う人にとって、もう1つ大事なのは、払ったお金がどこに置かれ、いつ動くのかです。アブダビ自治体交通局(DMT)は2026年3月27日の発表で、不動産分野の法律を実施するための行政決定4本を公表しました。そのうち第24号(2025年)は、工事の進み具合が20パーセントに達する前にエスクロー口座から払い出すときの仕組みを定め、銀行保証と承認された費用の見積りを求めて買主の資金を守るとしています。第165号(2025年)は、買主が契約上の義務を守らなかったときにディベロッパーへ支払われる補償の割合と、住戸が解約・再販売されたあとの返金の期間と手順を扱うと説明されています。
THE WADI についても、発表の時点ではエスクロー口座の銀行も、支払いの区切りも分かりません。契約の段になったら、代金を振り込む先がプロジェクトのエスクロー口座であること、支払いが遅れたときの扱いが契約書にどう書かれているかを確かめてください。4本の決定の中身と、原文を確認できた範囲はアブダビのオフプラン新規則に、支払いプランの読み方はアブダビのオフプランの支払いプランにまとめています。
当サイトが確認していないこと
推測で埋めずに、そのまま並べます。次の項目は、プレスリリースに記載がないか、一次情報で確かめられませんでした。
- 販売の開始日と、販売の窓口
- 住戸の価格、価格帯、区分ごとの戸数と専有面積
- 支払いプランの区切りと割合
- 着工、完成、引き渡しの予定時期
- DARI にディベロッパーとして登録される会社の名義と、エスクロー口座を置く銀行
- 取得する権利の種類と年数、外国人向けに販売するかどうか
- ホテルの規模と運営会社、マリーナの規模
- サービスチャージ(共用部分の管理費)の水準
Cosmo Developments と Reportage Group の会社としての公式サイトで、この発表の掲載ページも探しましたが、確認日の時点で見つけられませんでした。そのため一次情報は、新聞社の広告枠に載った同社のプレスリリースの全文です。報道記事にだけ出てくる記述(歩行者中心の設計の細かい数字など)は、この記事には書いていません。
値上がりも賃料も保証されません
ヤス島ではテーマパークや大型施設の発表が続いており、THE WADI のプレスリリースも、アブダビが住む人・投資家・訪れる人にとって魅力を増していることに触れています。しかし、それは会社としての見方の表明であって、住戸の価格や賃料の見通しではありません。当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。価格も支払いプランも出ていない今の段階では、利回りを計算する材料そのものがありません。
販売の開始日や価格、登録の名義が公表され、内容を確認できた時点で、この記事を更新します。アブダビの島ごとの状況はアブダビのエリアで、ヤス島のデータはヤス島のページで追っています。