アブダビ不動産のリスクは、「危ないかどうか」を一言で決める種類の話ではありません。役に立つ形に直すと、公表されている情報で契約前に確かめられることと、誰にも確かめられないまま残ることの仕分けになります。前者は手を動かせば潰せます。後者は、外れたときに自分が負える範囲かどうかで判断するしかありません。
先に仕分けの結果を書きます。物件のある区画が外国人の所有を認められた区域かどうか、取得できる権利の形と年数、売り手と仲介が登録された事業者かどうか、建設前に払った代金がどの口座に入っているか、いま適用されている賃料の引き上げ上限は、いずれも政府の公表ページや公的なシステムで確かめられます。いっぽう、将来の価格と賃料、引き渡しが実際に行われる日、契約が解除されたときに戻ってくる金額の割合、円に替えたときの手取りは、公表からは分かりません。当社は値上がりも賃料収入も利回りも保証しません。
この記事では、確かめられる側を6つ、確かめられない側をそのつど並べます。アブダビの制度そのものの説明はアブダビの不動産所有の種類とアブダビのオフプラン物件とはに分けてあるので、ここでは「何が不確実で、どこを見れば確かめられるのか」だけを扱います。
区域の外の物件は、そもそも買えません
外国人がアブダビで不動産を所有できるのは、指定された投資区域(investment areas)の中だけです。UAE政府ポータルは根拠として「Law No. 19 of 2005 Concerning the Regulation of the Real Estate Sector」と2019年の改正を挙げ、改正後のArticle 3(ii)が、UAE国民以外の自然人・法人に対して、投資区域の中にある不動産のすべての原権利・物的権利を所有し取得する権利を認めていると書いています。
つまり、区域の外にある物件は、価格や利回りを検討する前の段階で対象から外れます。価格の安い物件を見つけたときほど、所在がどの区画かを先に確かめてください。
取得できる権利の形も1つではありません。同じ「買う」でも、次の4つのどれに当たるかで、持てる期間と、できることが変わります。
| 権利の形(UAE政府ポータルの表記) | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| Ownership(所有) | 99年の権利証 | 階と住戸が対象。土地は含まれません |
| Musataha(ムサタハ) | 50年。同じ期間での更新ができる | 期間中の使用、改変、建築ができます |
| Usufruct(ウスフルクト) | 99年 | 使用と収益はできますが、変更はできません |
| Long-term lease(長期賃借) | 最短25年から | 賃借であって所有ではありません |
同じページは、10年を超えるムサタハ・ウスフルクトの保有者は、地主の同意なしに抵当権の設定を含む処分ができるとも書いています。逆に地主の側は、保有者の同意なしに抵当に入れられません。「何年の、どの形か」は、売買の広告ではなく権利証と契約で確かめる項目です。
ここで1つ、出典どうしが食い違う点を書いておきます。UAE政府ポータルは投資区域として9つの名前(Yas Island、Saadiyat、Reem、Mariya、Lulu、Al Raha Beach、Sayh Al Sedairah、Al Reef、Masdar City)を挙げています。いっぽうアブダビ政府メディアオフィスが伝えた2026年上半期のADRECの公表では、新たに8つの投資区域が承認され、首長国全体で50区域になったとされています。数が一致しません。指定が増えたあとにポータル側の一覧が追いついていない可能性が高いと考えられますが、当サイトはそれを確認できていません。検討している区画が対象かどうかは、一覧の暗記ではなく、その物件についてADRECまたは登録された事業者に確かめてください。
建設前に買うと、代金の保全は口座と手続きに依存します
アブダビの不動産の登録・開発・仲介を定めているのはLaw No. 3 of 2015で、DARIの法令一覧では90か条とされています。その下にある施行規則のうち、建設前に買う人に直接関わるのがAdministrative Decision No. 250/2015(Implementing Regulation on Project Escrow Accounts、22か条)です。買主が払った代金は開発事業者の自由な財布ではなく、案件ごとの口座に置かれる、という組み立てになっています。
この枠組みは2026年3月27日に更新されました。自治体交通局(DMT)は、Law No. 3 of 2015の改正に合わせて4本の行政決定を公表しています。
| 行政決定 | 対象 | 買主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 第24号(2025年) | 完成度20パーセントに達する前のエスクロー口座からの引き出し | 銀行保証と承認された見積りを条件にする、とDMTは説明しています |
| 第25号(2025年) | 共同所有不動産の規制と管理 | 共用部分の扱いが規則で定められます |
| 第26号(2025年) | 管理組合(Owners’ Committees)の統一規則 | 引き渡し後の管理の枠組みです |
| 第165号(2025年) | 補償の割合と返金の手続き | 契約が解除されたときの精算の根拠になります |
ここが、この記事でいちばん誤解されやすい部分です。エスクローは「代金が必ず戻る仕組み」ではありません。引き出しに条件を付け、解除のときの精算に根拠を与える仕組みです。DMTの発表は、補償の割合について「プロジェクトの状況と完成度を踏まえて当事者間の公平を確保する」と書いているだけで、割合の具体的な数値も、返金までの日数も示していません。解除になったときにいくら戻るのかは、契約と、そのときの完成度によって変わります。決定の本文の読み方はアブダビのオフプラン新規則にまとめました。
買主の側で確かめられることもあります。ADRECのDARIサポートは、登録された買主がEscrow Management Systemを通じて自分の住戸の口座明細(Statement of Account)を請求できると案内しています。手順は、ADRECにログインしてサービスからEscrow Management Systemを選び、対象のプロジェクトと住戸を指定して申請するという流れで、申請は銀行と開発事業者の承認を経て、入金日・金額・小切手の参照番号・取引の種別まで含む明細として返ってきます。払ったはずの金額が案件の口座に入っているかは、推測ではなく照会で確かめられる項目です。引き渡しの段の確認はアブダビの物件の引き渡しで扱っています。
確かめられないのは、引き渡しが実際に行われる日です。契約書に書かれた時期は予定であって、公表された制度の側に「この日までに渡される」という保証はありません。
直近の伸びは、将来の価格を保証しません
アブダビ政府メディアオフィスが2026年7月17日に伝えたADRECの公表によると、2026年上半期に登録された取引はAED117 billionで、金額で112パーセント、件数で61.7パーセントの増加とされています。内訳は、売買がAED86.1 billionで16,838件(金額で163.7パーセントの増加)、担保(モーゲージ)がAED26.7 billionで8,876件、ムサタハと長期賃貸がAED4 billion、贈与がAED311.5 millionです。海外からの直接投資はAED13.8 billionで309パーセントの増加、投資した人の国籍は116でした。
数字の読み方で注意したい点が2つあります。1つは、金額の伸びと件数の伸びが違うことです。金額の伸びのほうが大きいので、1件あたりの金額は上がっている計算になりますが、それが同じ物件の値上がりによるものか、高額な案件の比重が増えたことによるものかは、公表された合計からは分けられません。もう1つは、この合計が平均でも中央値でもないことです。総額と件数から出した1件あたりの値は、少数の大型取引に引っ張られます。区分ごとの数字の意味はアブダビ不動産 2026年上半期レポートで分けて書きました。
そのうえで、リスクの話として大事なのはここです。前年からの伸びは、これから買う人の収益とは別のものです。伸びた期間に買った人の結果であって、次の半年に同じことが起きる根拠にはなりません。当サイトは、値上がりや利回りを前提にした購入の判断材料として、この種の伸び率を使うことを勧めません。
供給は増えていますが、市場に出る時期は分かりません
同じ政府メディアオフィスが2026年6月17日に伝えたDMTの公表では、2026年第1四半期に承認された延べ床面積は20.8 million square metresで、前年同期から17.3パーセントの増加とされています。新規の許可申請は5,096件、着工の届け出は3,244件、検査の依頼は34,391件で、検査の依頼は24.5パーセント増えています。2025年の通年では75 million square metresが承認され、前年から137パーセントの増加、建築許可は1万1,000件を超えたとされています。
ここで混同しやすいのは、承認は着工でも完成でもないことです。承認された延べ床面積が増えても、それがいつ、どの区域に、どの用途で市場に出てくるかは、この公表からは読み取れません。供給が増えれば賃料や価格が下がる、と言い切ることもできません。人口や需要の側の数字と突き合わせる必要があり、当サイトはそれを確認できていないためです。
確かめられるのは「承認された量が増えている」という事実までで、それが自分の持つ住戸の賃料にどう跳ね返るかは、誰にも分かりません。空室が出たときに何か月分の賃料を自分で負担できるかを、先に決めておくほうが現実的です。
賃料の上限は、行政の判断で動きます
収入の側の前提も固定されていません。ADRECは2026年6月3日付の発表で、アブダビ首長国の住宅・商業・工業の物件について、賃料の年間の引き上げ上限を5%から0%へ変更したと公表しました。基準になるのは、その物件で直近に登録されたTawtheeq(アブダビの賃貸借契約の登録簿)の契約の賃料で、更新も新規の契約も対象とされています。期間は「一時的な短い期間、追って通知があるまで」で、終わる日は発表に書かれていません。
貸す側から見ると、更新のたびに賃料を上げられるという前提が、当面は成り立ちません。購入前に立てた利回りの見込みが、保有している途中で変わる種類のリスクです。発表の中身と、書かれていないことはアブダビの賃料据え置きに分けてまとめました。利回りの計算そのものはアブダビの想定利回りを見てください。
この措置がいつ終わるのか、終わったあとに上限が5%へ戻るのかは、確認した時点では公表されていません。制度が変わる可能性そのものを、購入の前提に織り込んでおく必要があります。
円で見た金額は、AEDの価格とは別に動きます
日本から買う人にだけかかるリスクがあります。取引も公表値もAEDで行われるいっぽう、手元に残るのは円だという点です。AEDは米ドルに対する固定レート(ペッグ)が維持されていますが、円と米ドルの関係は日々動きます。AEDで見た価格がまったく動かなくても、円で見た金額は変わります。
当サイトの円の目安は、UAE中央銀行が公表している米ドルへの固定レートと、欧州中央銀行(ECB)の日次の参照レートを掛け合わせて出しています。使った値と計算の内訳は、円を出したページのレート表記に毎回出しています。この記事では、確認日の時点でUAE中央銀行のページを自動で取得できなかったため、レートの数値そのものは書いていません。
書いておくべきことは3つです。円の目安は両替できる金額ではありません(手数料とスプレッドがかかります)。為替でどちらに振れても当社は何も保証しません。そして、購入の資金、保有中の費用、売却の代金は、それぞれ別の時点のレートで換算されます。購入時の費用の内訳はアブダビの購入諸費用にまとめています。
売り手・仲介・広告は、契約前に照会できます
最後は、確かめられる側としては手数がいちばん少ない項目です。ADRECのDARIには、広告の許可を扱うMadhmounがあり、ブローカー、開発事業者、管理会社(PMC)が広告の許可を発行・更新・取消する仕組みになっています。DARIの案内は、この許可を「検証済みの物件をデジタル上で宣伝するための公式な承認」と説明しています。
つまり、広告の側に許可があり、DARIの照会で突き合わせられます。あわせて、登録された事業者の規模も公表されています。2026年上半期のADRECの公表では、発行された職業ライセンスは2,040件で34パーセントの増加、登録されたブローカーは3,302人、Madhmounを通じて発行された規制対象の広告許可は41,200件を超えたとされています。
確かめられないのは、担当者個人の力量と、引き渡し後の対応です。登録は「その事業者が制度の中にいる」ことを示すだけで、対応の速さや説明の正確さを保証しません。登録の有無は足切りに使い、それ以外は自分で見るものだと考えてください。
確かめる場所の一覧
ここまでを、窓口ごとに並べ直します。
| 確かめること | 見る場所 | 出典の層 |
|---|---|---|
| 区画が投資区域か/権利の形と年数 | UAE政府ポータル、ADREC、権利証と契約 | 政府機関 |
| 売り手・仲介の登録 | ADRECのDARI(職業ライセンスの照会) | 政府機関 |
| 広告の許可 | ADRECのDARI(Madhmoun) | 政府機関 |
| 建設前の代金の入金 | ADRECのEscrow Management System(口座明細の請求) | 政府機関 |
| 取引の総額・件数の実績 | アブダビ政府メディアオフィス(ADRECの公表) | 政府機関 |
| 承認された開発の量 | アブダビ政府メディアオフィス(DMTの公表) | 政府機関 |
| いまの賃料の引き上げ上限 | ADRECの発表 | 政府機関 |
当サイトは、出典の層を分けて扱っています。上の表はすべて政府機関そのものの公表です。政府のデータを加工して提供する民間のサイトは、便利でも層が違うため、数値の根拠としては置き換えられません。
この記事で確認できなかったこと
第一に、投資区域の現在の一覧です。UAE政府ポータルの9つの名前と、2026年上半期の公表にある50区域という数が一致しません。どの区画が追加されたのかは確かめられませんでした。
第二に、契約が解除されたときの補償の割合です。DMTの発表は「完成度を踏まえて公平を確保する」と書くだけで、割合も返金までの日数も示していません。
第三に、賃料の引き上げ上限がいつまで0%なのか、そのあと5%へ戻るのかです。発表に終わる日の記載がありません。
第四に、承認された開発面積が、いつどの区域で完成し市場に出るかです。公表されているのは承認の量だけです。
第五に、為替のレートの数値です。確認日の時点でUAE中央銀行のページを自動で取得できなかったため、この記事には書いていません。円の目安を出しているページでは、計算に使った値と内訳をそのつど表示しています。