建設中の住戸を契約するとき、いちばん知りたいのは「この会社は、約束した時期に本当に渡してきたのか」です。ところが調べ始めるとすぐに行き止まりになります。ドバイには、ディベロッパーごとの引き渡し実績を年ごとに並べた公表資料がありません。当サイトが確認日の時点でドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)の公開データと電子サービスを当たった範囲では、会社別に「予定どおり渡した件数」「遅れた件数」を数えられる列は見つかりませんでした。
そのうえで、まったく手がかりがないわけでもありません。読める数字は3つあります。1つめは、登録された案件の完成予定がどの年に集まっているかという分布です。2つめは、案件を1つに絞ったときのいまの進行状況と、エスクロー口座の記録です。3つめは、工事が止まったり中止されたりしたときに、制度の側が用意している受け皿です。
この記事は、この3つを順に見たうえで、最後に「それでも分からないこと」を残します。金額はAED、件数は台帳の数え方のままで、会社の順位は付けません。会社を勧める記事でもありません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
完成の「予定」は、年ごとに読めます
最初に見るのは、案件が「いつ完成する予定か」の分布です。当サイトはDLDがオープンデータとして配っているプロジェクトの台帳を取り込み、完成予定日の年ごとに案件数と戸数を集計しています。対象は2026年に登録が記録された案件で、集計日は2026年8月28日です。
戸数がいちばん多いのは2029年で、住戸27,065戸、ヴィラ5,335棟、案件数115件です。案件数でいちばん多いのは2028年の139件ですが、住戸は21,138戸で2029年より少なくなります。案件の数と戸数は比例しません。1件で1,000戸を超える高層の案件と、数十戸の案件が同じ1件として数えられるためです。ヴィラの列を見ると性格の違いがもっとはっきりします。2030年は住戸18,595戸に対してヴィラ7,955棟で、戸建ての比重がほかの年より重くなっています。
2027年が37件・13,374戸と小さく出ている理由は、市場の側ではなく集計の側にあります。対象が2026年に登録された案件だけだからです。前年以前に登録されて2027年に完成する案件は、この集計に入っていません。逆に2031年の11件、2032年の3件が小さいのは、その年に完成する案件がまだ登録されきっていないからだと読むのが自然です。つまりこの図は「2029年に何戸が出来上がる」という予測ではなく、2026年に登録された分だけを年ごとに並べた断面です。供給そのものを会社ごとに読む手順は、ディベロッパー別データの読み方に分けて書いています。
同じ台帳でも、記録の入り方は案件ごとに違います
年ごとの分布から案件ごとの行へ降りると、台帳の見え方が変わります。同じ列を持っているのに、埋まっている案件と空いている案件が混ざっているのです。下の5件は、状態とエスクロー口座の記録の組み合わせが違うものを選んで並べたものです。規模の順位でも、評価の順位でもありません。
| 案件名(台帳の表記) | ディベロッパー | 住戸 | 完成予定 | 状態 | 進捗率の欄 | エスクロー口座の記録 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Maybach Six | Binghatti Developers FZE | 1,878戸 | 2027-08-31 | ACTIVE | 空 | あり |
| Sakura Gardens by HRE | HRE REAL ESTATE DEVELOPMENT L.L.C | 1,429戸 | 2029-06-30 | ACTIVE | 1.43 | あり |
| Shahrukhz by Danube | DANUBE PROPERTIES DEVELOPMENT L.L.C | 917戸 | 2029-06-30 | ACTIVE | 1.86 | あり |
| Jadaf Beach Oasis | AZIZI DEVELOPMENTS L.L.C | 1,276戸 | 2029-02-09 | PENDING | 空 | なし |
| Binghatti Square 1 | Binghatti Developers FZE | 160戸 | 2027-06-30 | PENDING | 空 | なし |
まず押さえたいのは、5件とも完成日の欄が空だということです。完成予定日は入っていますが、実際に完成した日を入れる欄は埋まっていません。2026年に登録された案件なので当然ではありますが、この台帳から「いつ引き渡されたか」は読み取れない、ということがここで確定します。
進捗率の欄も、入っている案件と空の案件があります。入っている値は 1.43、1.86 のように小さく、着工直後であることを示しているように見えますが、台帳に単位の記載がないため、当サイトは解釈せず数値のまま扱っています。1.43%なのか別の尺度なのかを決める材料がないので、ここを根拠に工事の進み方を論じることはできません。
状態の ACTIVE と PENDING も、台帳に書かれた語のままです。エスクロー口座の「なし」は、台帳に口座の記録が見つからないという意味で、口座が存在しないという意味ではありません。ただし、照会して確かめられないという事実はそのまま残ります。登録のある区画から会社を引く手順は買う区画から法人を引くにまとめているので、案件を特定する前の段で使ってください。
年ごとの「実績」が積み上がらない理由
ここまでで、予定は年ごとに読めて、実績は読めないことが分かりました。理由は2つあります。1つは、いま見た完成日の欄が空だということ。もう1つは、DLDのオープンデータの照会画面が当年しか返さないことです。前年以前の案件を同じ条件で取り直せないため、「2024年に何件完成し、2025年は何件だったか」という形の表を、当サイトの手元のデータから作ることができません。
市場全体の実績なら、別の形で公表されています。DLDは2026年9月7日、International Property Show(IPS 2026)の場で上期の指標として、完成した不動産プロジェクトが104件、その投資額がAED 111 billionを超え、市場に加わった住戸が24,537戸だと示しました。前年の同じ期間と比べて、完成した件数は38.7%増えたとも書かれています。これは予定ではなく実績の数字です。
ただし、この数字は市場をまとめた1つの値です。会社ごとの内訳はありません。「104件のうち、ある会社が何件を占めたか」も、「そのうち何件が当初の予定どおりだったか」も、発表からは出せません。上期の指標の読み方は上期104件・24,537戸の意味に分けて書いています。結局、会社を評価したい読者にとっては、市場の実績と案件の現状のあいだに、会社ごとの履行記録という段が抜けているという状態です。
支払ったお金は、引き渡しの前後でこう扱われます
会社ごとの実績が読めない代わりに、制度の側は「お金の置き場所」を決めています。根拠になるのは Law No. (8) of 2007 で、オフプランで住戸を売って購入者や融資者から代金を受け取るディベロッパーに適用されると案内されています。
引き渡しに直接かかわるのは第14条です。エスクロー代理人は、ディベロッパーが完成証明を得た時点で口座の総額の5%を留保し、住戸が購入者の名義で登記されてから1年後にディベロッパーへ渡すと定められています。つまり制度の側では、鍵を渡した時点でも工事が終わった時点でもなく、購入者名義の登記が起算点になっています。買う側から見ると、登記が済んでいるかどうかが、留保が動き出すかどうかの境目になります。
同じ法の第9条2項は、複数の案件を手がける場合は案件ごとに別の口座を持つことを求めています。会社単位でまとめた口座ではないので、照会するときも案件単位です。口座からの支出は、工事を請け負う業者、設計者、販売に関わる支払いに充てられるとDLDの案内に書かれています。完成しない事態が起きたときは第15条で、代理人が預け入れた人の権利を守る措置を取り、案件が完成するか、預けた金額が返金されるようにすることが求められます。
完成率は、買主の側にも効く数字です
案件の進捗率は、工事の進み方を眺める数字ではありません。金額に直結する場面があります。Law No. (19) of 2017 の第11条について公表されている解釈の文書では、買主が契約上の義務を果たさず、通知を受けても解決に至らない場合に、DLDがディベロッパーの手続き遵守と住戸の完成率を記載した公式文書を発行すると説明されています。完成率の算定の基準と規則はRERA(Real Estate Regulatory Agency)が定めるとされています。
| DLDが確定した完成率 | 公表されている解釈で、ディベロッパーが取れるとされる手段 |
|---|---|
| 80%を超える | 契約を維持して支払い済み額を保持し残代金を請求する/DLDに公売の実施を申し立てる/一方的に解除して住戸価格の最大40%まで保持し、超過分を1年以内に返金する |
| 60%から80%の範囲 | 一方的に解除して、住戸価格の最大40%まで保持し、超過分を返金する |
| 60%未満(着工済み) | 一方的に解除して、住戸価格の最大25%まで保持し、超過分を返金する |
この表は買主が支払いを滞らせた場合の扱いです。引き渡しが遅れたときに買主が何を請求できるかを定めたものではありません。向きを取り違えないでください。それでも、自分が契約している案件の完成率がどのあたりにあるのかを知っておく意味はあります。支払いが続けられなくなったときに、同じ住戸でも手元に戻る金額の上限が変わるためです。RERAが何を監督する機関なのかはRERAとはで扱っています。
案件ごとに確かめる順番
ここまでの材料を、実際に動かす順番へ置き換えます。会社名から入れないのがこの分野の特徴で、案件を1つに特定してからでないと、どの窓口も使えません。
照会そのものは Project Status の画面で行います。案内には、案件番号と名称、面積、住戸の数、着工と完成の日付、登録の情報、所在、ディベロッパーの名称と連絡先、管理会社、エスクロー口座と銀行名、そして進行状況が表示されると書かれています。入口としてはDubai RESTのアプリが案内されています。検索の条件は案件名か案件番号、用途、状態、部屋数、広さです。会社名を入れて案件の一覧を出す画面ではありません。
進捗率をもう一段はっきりさせたい場合の経路も案内されています。DLDのよくある質問には、投資家には完成率を示す報告を受け取る権利があるとされ、その報告は技術監査人が作成し、監査料はAED 15,000だと書かれています。金額が小さくないので、契約の規模と、他に確かめる手段があるかを見比べてから判断する項目です。工事が止まっている案件については、担当機関が定期的に進み具合を見ており、止まっている場合は是正のための期間を与えると書かれています。
止まるだけでなく中止された場合は、裁判の受け皿が決まっています。Decree No. (33) of 2020 は、工事が始まったあとで何らかの理由により停止した案件を Unfinished、根拠のある条件に基づいて中止された案件を Cancelled と定義し、これらに関する請求と申立て、RERAの中止決定への不服、投資家と購入者の権利の確定、執行の手続きを専属で扱う委員会を置いています。この委員会は、エスクロー代理人やディベロッパーに対して、口座に預けられた金額や支払われた金額の返金を含む清算の指示を出せるとされています。
この記事で言えないこと
最後に、この記事の数字で言えないことを並べます。まず、会社ごとの引き渡し実績はここにもありません。予定の分布、案件ごとの状態、制度上の受け皿を並べても、「この会社は過去に何件を予定どおり渡したか」は出てきません。確認日の時点で、その数字を再現できる公表資料を見つけられなかった、というのがこの記事の結論です。
次に、完成予定日は変わります。年ごとの分布を供給の予測として読まないでください。対象が2026年に登録された案件だけであることも、繰り返しておきます。2027年の37件は「2027年に完成する案件が37件」ではなく、「2026年に登録された案件のうち、完成予定が2027年のものが37件」です。
制度の条文についても、ここで扱ったのは公表されている条文と案内の範囲です。個別の契約に何が適用されるかは契約書と事案によって変わるため、判断は専門家に確認してください。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
アブダビは別の制度で動いています。完成証明から初期不動産登記簿の移転、権利証の発行までの順序はアブダビ不動産の引き渡しにまとめました。会社を同じ項目で並べたい場合は登録簿で並べられる項目を、ディベロッパー全体の入口はドバイのディベロッパーをご覧ください。この記事の数字は90日ごとに再確認します。