UAE政府ポータルの税の案内には、一文でこう書かれています。「UAEは個人に所得税を課していません」。ドバイ移住を調べると最初に出てくるのがこの一文で、たしかにそのとおりです。ただし、これは「税金がかからなくなる」という意味ではありません。課す主体が3つに分かれ、それぞれ別のものに課しているというだけです。
3つの内訳はこうなります。UAE連邦は個人の所得に課さない代わりに、付加価値税と法人税を持っています。ドバイ首長国は、賃貸住宅に住む人から年間賃料の5%を住宅料金として徴収し、電気水道の請求に乗せてきます。そして日本は、非居住者になったあとも国内源泉所得だけを課税の範囲に残します。移住後に残る負担を見落とすのは、たいていこの3層が1つの話として語られているためです。
この記事は、自分に関係する項目がこの3つのどこに属するのかを仕分けられるようにすることだけを目的にしています。税額の計算や、個別の人の居住区分の判定は行いません。当社は税理士事務所ではなく、税負担が軽くなることを保証しません。一次情報の閲覧日は2026年11月5日です。移住の手続き全体の層の分け方はドバイ移住の基礎、この分野の入口はドバイ移住にあります。
UAEに個人の所得税はありません。税が無いわけではありません
まずUAE側から見ます。UAE政府ポータルの税の案内は、個人の所得に課税しないことを明記したうえで、同じページで物やサービスの購入にかかる5%の付加価値税に触れ、さらに健康に有害な特定の物品に対して個別税(excise tax)を課していると書いています。つまり「所得に課さない」ことと「税が無い」ことは別です。
ここを押さえておく実益は、生活費の見積もりが変わる点にあります。給与明細から税が引かれないことと、買い物のたびに5%が乗ることは、同じ家計の中で別々に効いてきます。暮らしの費目ごとの見方はドバイの生活費にまとめています。
公表値として確認できたものを並べると、次の形になります。税率が書かれていない項目は、空欄にせず「記載がありません」と書いています。
| 税・料金 | 税率・金額 | 課す主体 | 公表している資料 |
|---|---|---|---|
| 個人の所得への課税 | 課していない | UAE連邦 | UAE政府ポータル「Taxation」 |
| 付加価値税(VAT) | 5% | UAE連邦 | 同(物やサービスの購入) |
| 個別税(excise tax) | 記載がありません(対象は健康に有害な特定の物品) | UAE連邦 | 同 |
| 法人税(corporate tax) | 課税所得375,000 AEDまで0%/超える部分9% | UAE連邦 | UAE政府ポータル「Corporate tax」 |
| 住宅料金(housing fee) | 年間賃料の5% | ドバイ市 | UAE政府ポータル「Leasing a property in the UAE」 |
表の最後の2行は、連邦と首長国の区別です。法人税は連邦の制度なのでアブダビでもシャルジャでも同じ建て付けですが、住宅料金はドバイ市が徴収するものです。移住先の首長国を変えると、下の行だけが入れ替わります。
事業を持つと、同じ個人でも2本の線が引かれます
「個人の所得に課税しない」という一文と、「法人税がある」という事実は、会社員なら交わりません。交わるのは、自分の名前で事業をする人です。フリーランスとして請け負う、個人でライセンスを取って商売をする、といった形がこれにあたります。
UAE政府ポータルの法人税の案内は、税率を課税所得375,000 AEDまでが0%、それを超える部分が9%と書き、適用は「2023年6月1日以後に開始する最初の会計年度から」としています。そして対象を、UAEで商業ライセンスのもとに事業活動を行うすべての事業者と個人に及ぶものとして説明しています。
ここで線がもう1本入ります。UAE財務省が公開している Cabinet Decision No. 49 of 2023 は、自然人(natural person)について、その事業から得た年商(turnover)の合計が暦年で100万ディルハムを超える場合に限って法人税の対象になると定めています。さらに、金額に関係なく事業活動として扱われないものを3つ挙げています。給与(wage)、個人の投資による所得(personal investment income)、不動産投資による所得(real estate investment income)です。この線に当たらない自然人は、法人税の登録も求められないと書かれています。
移住の検討で効いてくるのは、3つの除外のうち2つめと3つめです。手持ちの資産を個人として運用することと、不動産に投資して賃料を受けることは、金額が大きくても事業活動として扱われません。いっぽうで、同じ不動産でも事業としての売買を繰り返す形なら、公表資料の文言だけでは判断できません。線の近くにいる人は、原文と専門家に当たってください。個人で請け負うのではなく会社を作る場合の手順はドバイの法人設立にまとめています。
ドバイで賃貸に住むと、年間賃料の5%が請求に乗ります
ここからが首長国の話です。UAE政府ポータルの賃貸の案内は、ドバイについてこう書いています。「借主はドバイ市に住宅料金を支払わなければならず、その額は年間賃料の5%で計算される」。そして「住宅料金は毎月の電気・水道の請求に加算される」としています。
形がやや独特です。賃貸契約を結ぶときに別途まとめて払うのではなく、光熱費の請求書の中に紛れて毎月乗ってきます。賃料そのものの支払いとは別の経路なので、賃料と光熱費だけを数えて予算を組むと、この分が抜け落ちます。徴収しているのはドバイ市で、電気水道の事業者が代わりに集めている形です。
同じページは、アブダビには独立した自治体料金の仕組みがあり、賃貸契約の登録もドバイのEjariではなくTawtheeqで行うとしています。本記事はドバイを扱うため、アブダビ側の料率は扱いません。首長国をまたいで同じ数字を当てないでください。
日本側の起点は「生活の本拠」です
UAE側の整理が済んだら、日本側に移ります。ここで最初に決まるのは税額ではなく、自分がどの区分に当たるかです。国税庁は、所得税法上の「住所」を「各人の生活の本拠」とし、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的な事実によって判断するとしています。「居所」は、生活の本拠という程度には至らないものの現実に居住している場所という位置づけです。居住者は、国内に住所があるか、現在まで引き続いて1年以上の居所がある個人を指します。
ここに、移住を考える人が取り違えやすい注意書きが付いています。国税庁は滞在日数だけでは判断されないと明記し、183日以上外国に滞在していても日本の居住者となる可能性があること、複数の国を転々と移動する形でも生活の本拠が日本にあれば日本の居住者と判定されることを挙げています。日数の条件を満たしたから非居住者になる、という読み方はできません。
いっぽうで、1年以上の予定で海外の勤務先へ移る場合については推定が働きます。国税庁は、日本国内の会社に勤める給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的に国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者になるとしています。参照した各ページは、いずれも令和8年4月1日現在の法令等に基づくものです。閲覧日と法令基準日は別のものなので、両方を見てください。
住民票を抜く手続きそのものと、そこで切れる制度・切れない制度の見分け方はドバイ移住の転出届にまとめています。住民基本台帳の住所と、所得税法上の住所は別の手続きで別に判定されます。
非居住者になっても、日本に残る所得があります
区分が決まると、課税の範囲が決まります。国税庁は、非居住者または外国法人に対する課税の範囲を「国内源泉所得に限る」としています。ここだけを読むと身軽に見えますが、問題は「国内源泉所得」に何が入るかです。
国税庁は、総合課税の方法で税額を計算して確定申告が必要になるものとして、4つを挙げています。国内にある資産の運用または保有により生じる所得(源泉徴収されない取引)、国内にある資産の譲渡により生じる所得、国内にある不動産等の貸付けにより受け取る対価、そして国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく一時金です。日本の住まいを人に貸して出る形は、3つめに真正面から当たります。
賃貸料については、税率と例外が条文どおりに書かれています。国内にある不動産の賃貸料は、原則として非居住者が支払を受ける際に20.42%の税率で源泉徴収され、この源泉徴収税額の還付を受けるための申告を行うこともできるとされています。例外は1つで、土地、家屋等を自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた個人が支払うものは源泉徴収されません。借主が法人か個人か、その個人が自分や親族の住まいとして借りているかで、手取りの入り方が変わります。
| 所得の種類 | 国税庁の案内にある書き方 | 併せて確認すること |
|---|---|---|
| 運用・保有 | 国内にある資産の運用または保有により生じる所得(源泉徴収されない取引) | その取引が源泉徴収の対象かどうか |
| 譲渡 | 国内にある資産(不動産や一定の株式等など)の譲渡により生じる所得 | 譲渡した時期が居住者期間か非居住者期間か |
| 貸付け | 国内にある不動産等の貸付けにより受け取る対価(不動産所得) | 借主が誰で、源泉徴収の例外に当たるか |
| 保険の一時金 | 国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく一時金 | 契約を結んだ営業所が国内かどうか |
なお、非居住者期間中の不動産所得の計算方法は、居住者の計算方法と同じとされています。海外に出たから簡便な計算になる、ということはありません。日本に不動産を残したまま移る場合に何を記録しておくかはドバイ不動産と日本の税金でも扱っています。
出国の年は、納税管理人を定めるかどうかで形が変わります
移住の年だけは、手続きが特別な形になります。分かれ目は出国の時までに納税管理人を定めるかどうかの一点です。納税管理人とは、確定申告書の提出や税金の納付などを非居住者に代わってする人で、国税庁は法人でも個人でも構わないとしています。届出は「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」で、提出先は納税地の所轄税務署です。
納税管理人を定めて出国した場合は、その年1月1日から転出する日までの居住者期間に生じたすべての所得と、転出した日の翌日からその年12月31日までの非居住者期間に生じた国内源泉所得の合計額について、翌年2月16日から3月15日までの間に納税管理人を通じて申告と納税をします。定めないで出国する場合は、居住者期間に生じたすべての所得について出国の時までに確定申告(準確定申告)をします。そのうえで、出国後の非居住者期間に国内源泉所得が生じるなら、やはり納税管理人を通じて翌年2月16日から3月15日までの間に申告と納税をする必要があります。
給与所得者には、もう1つ出国までに終わるものがあります。国税庁は、給与等の支払を行う者は、その居住者が海外に出国する日までに年末調整をしなければならないとしています。扶養控除などの判定は出国の時の現況で行うとも書かれています。あわせて、保険料控除の対象は居住者期間内に支払った金額で計算するとされているため、年の後半に移る人は支払い時期の記録が必要になります。
非居住者となった後の給与の扱いは、立場で分かれます。国税庁は、非居住者が国外勤務で得た給与には原則として日本の所得税は課税されないとしています。いっぽうで役員については20.42%の税率で源泉徴収が必要とし、使用人についても日本での勤務期間に対応する部分は同じ税率で源泉徴収が必要としています。役員かどうかで結論が変わる点は、出国前に確かめておく価値があります。
1億円の資産があると、出国そのものが課税の時点になります
もう1つ、移住特有の制度があります。国外転出をする場合の譲渡所得等の特例です。これは実際に売っていない資産に、出国の時点で課税する仕組みなので、見落とすと金額が大きくなります。
対象になる資産は、有価証券(株式・投資信託)、匿名組合契約の出資持分、未決済のデリバティブ取引に係る契約です。要件は2つあり、両方を満たしたときだけ対象になります。1つは対象資産の価額等の合計額が1億円以上であること、もう1つは国外転出をする日前10年以内において国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えていることです。
納税の猶予も用意されています。必要な届出をした人は最長5年まで納税を猶予でき、延長の手続きで最長10年まで延ばせます。猶予期間が満了したあとの納付期限は、その満了日から4か月後とされています。要件に近い資産を持っている人は、出国日を決める前に確認してください。日を1日動かすだけで結論が変わる制度ではありませんが、気づくのが出国後では間に合いません。
租税条約が決めているのは、税率の上限と情報交換です
最後に、2国間の条約です。財務省の一覧によると、日本とアラブ首長国連邦の租税条約は2013年5月2日に署名され、2014年12月24日に発効しています。内容は二重課税の除去と、脱税および租税回避の防止を主としたものです。
財務省が公表しているポイントは3つに整理されています。事業活動によって取得する利得については、進出先に恒久的施設を設けて事業活動を行っている場合においてのみ、その恒久的施設の事業活動による利得に限って進出先で課税できます。投資所得には限度税率が置かれ、配当は親子会社間(10%以上の持株)で5%、その他は10%、利子は10%、使用料は政府等が受け取るものが免税でその他は10%です。そして両国の税務当局は、両国のすべての国税および地方税に関する情報を相互に交換できるとされています。
3つめは、移住を検討する人にとって事実として知っておくべき点です。どちらの国の当局も、相手国の税に関する情報を求められる関係にあります。片方の国だけに見える資産や所得という前提は置けません。
今回の公表資料では確かめられなかったこと
埋めずに書き残します。これらは「決まりが存在しない」という意味ではなく、今回参照した公表資料では確かめられなかったという意味です。
UAEの個別税については、対象が健康に有害な特定の物品であることまでは書かれていますが、税率は参照したページに記載がありません。自然人の年商を算定するときに複数の事業をどう合算するかなど、細目も今回の範囲では確認できていません。ドバイの住宅料金については、年の途中で賃料が変わったときの扱いが参照ページに書かれていません。
条約についても、1点はっきりさせておきます。条約上の「居住者」に当たるかどうかの定義は、本記事では確認できていません。財務省が公開している和文テキストはPDFで、今回の作業では本文を機械で読み取れませんでした。条約の恩恵を受けられるかはこの定義で決まるため、国内法の居住者区分と同じものだと決めつけないでください。原文と専門家に当たるところです。
個別の判断はいずれも当社が行う領域ではありません。税務署、日本の税理士、UAEの資格を持つ専門家に当たってください。この記事の役目は、相談する前に自分で並べられる事実を並べておくことです。
最初に分けるのは、国ではなく「何に対する税か」です
仕分けの順番を1つだけ覚えるなら、国名より先に「何に対する税か」です。所得に対するものか、購入に対するものか、住まいに対するものか。これで分けると、UAE連邦・ドバイ首長国・日本のどこが相手なのかが自動的に決まります。所得なら連邦は課さず日本に国内源泉所得だけが残る、購入なら連邦の5%、住まいならドバイ市の5%、という対応です。
そのうえで、自分に2本目の線が関係するかを見ます。名前で事業をするなら年商100万ディルハムの線、日本に貸せる不動産があるなら20.42%の源泉徴収とその例外、有価証券が大きいなら1億円と5年超の2要件です。どれにも当たらない会社員は、出国の年の年末調整と、国内源泉所得が無いことの確認だけで足ります。線に近いところにいる人ほど、出国日を決める前に動く価値があります。