ドバイ政府は2026年11月2日、不動産分野の機関を対象とする Dubai-it Award for Institutions in the Field of Real Estate を Emaar へ授与すると公表しました。発表したのはドバイ皇太子の Sheikh Hamdan bin Mohammed bin Rashid Al Maktoum です。発表はこの賞を、ドバイの仕事の哲学に沿って成果を出した者を表彰するために立ち上げた年次の賞だと説明しています。
この発表で動いたものは1つだけです。ドバイ政府が、ある企業の活動を年次の賞として表彰したという事実です。外国人が権利を取得できる区域、登記の手数料、オフプランの支払い条件、引き渡しの期限といった制度は、この発表では何も変わっていません。日本から物件を探している読者にとって、受賞の発表は「買える物件が増えた」「手続きが楽になった」という話ではありません。
この記事では、まず発表に出ている実績の数値を記載のまま並べます。次に、その数値を Emaar 自身の決算発表と突き合わせたときに何が起きるかを見ます。そのうえで、賞の発表に記載がない項目を一覧にし、案件ごとに確かめられる公的な窓口を示します。
出典の層を先に断っておきます。賞の発表はドバイ政府の公表です。実績の数値のうち決算の側は民間企業である Emaar の開示で、政府が検証した統計ではありません。当サイトはこの2つをまとめて「公式データ」とは書きません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
発表に出ている実績の数値
発表は受賞の理由として、いくつかの実績を挙げています。下の表の数値は、すべて発表の記載のままです。原文が英語の桁表記になっているものは、読者が原文と突き合わせられるように英語の表記も併記しています。
| 発表されている項目 | 発表の記載 | 期間の定義 |
|---|---|---|
| 立ち上げたプロジェクト | 62件 | 単年。起点と終点は記載がありません |
| 引き渡した住戸 | 12,000戸超 | 上と同じ期間とだけ記載 |
| The Dubai Fountain の改修 | 全面的な改修と保守を5か月で実施 | 期間の記載は5か月のみ |
| Dubai Mall の来場者 | 1億1,100万人(原文は 111 million visitors) | 1年。起点と終点は記載がありません |
| 年末年始の来場者 | 祝祭の週で280万人(2.8 million)、1晩で 500,000 人超 | 祝祭の週 |
| 挙げられた開発地区 | Downtown Dubai、Dubai Creek、Arabian Ranches、Dubai Marina | 期間の記載はありません |
発表には、Dubai Mall が世界で最も訪問者の多い目的地になったという表現も含まれています。これは発表側の表現であって、当サイトが確認した事実ではありません。当サイトは最上級やNo.1の表現を自分の判断としては書きません。発表の文言を紹介するときも、だれの表現なのかを必ず添えます。
発表には Executive Office の議長である Mohammad Abdullah Al Gergawi の発言として、都市は約束を人が見て体験できる現実に変えることで評判を得る、という趣旨の言葉も載っています。評価の言葉はこのように発表の中に複数ありますが、評価の根拠として数値が示されているのは上の表の範囲にとどまります。
ここで注意したいのは、どの数値にも期間の起点と終点が書かれていないことです。「単年」「1年」とあるだけで、暦年なのか、受賞の対象期間なのか、直近12か月なのかは読み取れません。期間が決まらない数値は、ほかの数値と並べることができません。
年62件と、決算の上期11件は同じ尺度ではありません
Emaar Properties は2026年8月7日に、2026年上期(1月1日から6月30日まで)の業績を公表しています。その発表には、上期のあいだに各マスタープランで11件の立ち上げを行ったと書かれています。同じ発表の数値は、売上が AED 23.9 billion(前年比21%増)、物件販売が AED 26.6 billion、税引前利益が AED 12.8 billion(同23%増)、6月30日時点の受注残が AED 164.9 billion(前年同期比13%増)です。
住戸の引き渡しについては、Emaar Development が同じ日に公表した2026年上期の発表に、2002年以降の累計で84,000戸超を引き渡し、51,000戸超が開発段階にあると記載されています。同発表の物件販売は AED 22.4 billion、売上は AED 13.3 billion、純利益は AED 6.7 billion、受注残は AED 127.7 billion です。金額はいずれもAEDのまま載せています。企業の業績を円に換算すると、為替が動いた時点で読者が原文の数字と突き合わせられなくなるためです。
賞の発表の62件と、決算発表の11件を並べると、数字の開きが目を引きます。しかしこの2つは引き算も割り算もできません。理由は3つあります。
1つ目は期間です。賞の発表は単年、決算発表は2026年1月1日から6月30日までです。片方は起点が分からず、もう片方は半年です。半年の件数を2倍しても、賞の発表が指している期間に一致する保証はありません。
2つ目は数える単位です。賞の発表は project、決算発表は launch と書かれています。1棟を1件と数えるのか、1つのフェーズを1件と数えるのか、1つのコミュニティ全体を1件と数えるのかは、どちらの発表にも定義がありません。単位が違えば、同じ活動から違う件数が出ます。
3つ目は主体です。賞の発表は受賞先を Emaar としていて、法人名を特定していません。Emaar Properties PJSC と Emaar Development PJSC は別の上場法人で、決算も別に出ます。賞がどちらの、あるいは両方の活動を指しているのかは発表から分かりません。
当サイトでは、この3つがそろわない数値を同じ表に並べたり、比率を計算したりしません。計算してしまうと、公表されていない前提を当サイトが補ったことになります。どの会社がどこまで財務を開示しているのか、開示のどの数字を見ればよいのかはドバイのディベロッパーの決算はどこで読むかで扱っています。
賞が示していることと、示していないこと
賞の発表が確かに示しているのは、ドバイ政府が年次の賞として、不動産分野の機関を対象に Emaar を選んだという事実です。これは広告ではなく政府の公表です。その点で、出どころの分からない「おすすめ度」とは性質が違います。
いっぽうで、当サイトが発表ページを読んだ範囲では、審査の基準、配点、審査を行った主体、候補の母数、他の受賞先のいずれも記載がありません。何件の候補からどういう手順で選ばれたのかが公表されていないため、読者が同じ結論をたどり直すことはできません。
当サイトは、順位やおすすめを出す場合に、並べ替えの基準になった公表値と出典、確認日を同じページに出し、読者が同じ順位を再現できる形にすることを決めています。基準を示せない順位は作りません。今回の賞は基準が公表されていないため、当サイトの順位や評価の根拠には使いません。受賞を「ドバイで1番のディベロッパー」と言い換えることもしません。
もう1つ、賞の対象は会社の活動全体です。個々の案件の完成日や引き渡しの品質を保証するものではありません。受賞した会社の案件なら予定どおり渡される、という読み方はできません。引き渡しは案件ごとの工程と登録記録で見るものです。
発表に記載がない項目
| 確かめたい項目 | 発表の記載 | どこで確かめるか |
|---|---|---|
| 審査の基準と配点 | 記載がありません | 賞の主催側 |
| 審査を行った主体 | 記載がありません | 賞の主催側 |
| 候補の母数・他の受賞先 | 記載がありません | 賞の主催側 |
| 62件の期間の起点と終点 | 記載がありません | 会社の決算発表(期間が明記されています) |
| 1件の数え方の定義 | 記載がありません | 会社の決算発表と案件ごとの登録 |
| 12,000戸超の内訳 | 記載がありません | 会社の決算発表と案件ごとの登録 |
| 受賞した法人名 | Emaar とだけ記載 | Emaar Properties PJSC・Emaar Development PJSC の開示 |
| 案件ごとの進行状況 | 記載がありません | DLDのProject Status Enquiry |
| 価格・賃料・取引件数 | 記載がありません | DLDの公開データ |
この表のいちばんの目的は、空欄を推測で埋めないことです。たとえば62件のうち何件がドバイ国内の案件なのかは、どの公表資料からも計算できません。書かれていないものを書かれていないままにしておくと、あとで公表されたときに、どこが新しく分かったのかが残ります。
案件ごとに確かめる窓口
会社の評判ではなく、自分が検討している案件の状態を見る場合、ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)の Project Status Enquiry(Mashrooi)が窓口になります。DLDのページは、プロジェクト名またはプロジェクト番号で検索し、用途、状況、部屋数、住戸の面積で絞り込める形だと案内しています。
表示される内容として挙げられているのは、プロジェクト番号、面積、住戸の数、登録日と完成予定日、所在、開発会社の名前と電話・メール・ウェブサイト、管理会社の情報、エスクロー口座の銀行、検査の情報です。あわせて訪問の予約や開発会社への問い合わせの窓口も案内されています。利用はDubai RESTのアプリから案内されています。
この画面で分かるのは、その案件がいまどこまで進んでいるかと、支払ったお金がどの口座に入るかです。オフプランで検討している場合、エスクロー口座の情報は受賞歴よりも先に確かめる項目です。工事が止まったときに、どの銀行の口座で資金が管理されているかが分かるかどうかは、会社の評判とは別の問題です。
会社の規模を数値で並べ直したい場合は、DLDの公開データを使う方法があります。当サイトはプロジェクト登録簿の住戸の列だけを使って上位10法人をドバイのディベロッパーランキングに並べ、期間と母数を含めて基準をすべて開示しています。供給の内訳はドバイのディベロッパー別の供給データ、会社ごとに何が比べられて何が比べられないのかはドバイのディベロッパー比較にあります。完成と引き渡しの実績の見方はドバイ不動産の引き渡し実績にまとめています。
この発表をどう使うか
受賞の発表は、読者の手続きを変えるものではありません。買える区域、必要な書類、手数料、オフプランの支払い条件は、この発表の前と同じです。発表を読んで変わるのは、ドバイ政府がどの会社の活動をどう評価したかを知った、という1点だけです。
検討の材料として使えるのは、期間が定義された数値と、案件ごとの登録記録です。賞の発表に出ている数値は、期間と数え方が公表されていないため、他社と比べる材料にはなりません。比べられない数値を比べないことが、このサイトでいちばん手間をかけている作業です。市場全体の水準をDLDの登録記録から確かめたい場合はドバイ不動産の市場データにあります。
当サイトは、審査の基準や受賞の一覧が公表された場合、または Emaar が受賞に関連して期間を明記した実績を開示した場合に、この記事へ追記します。この記事に書いた内容は、ドバイ政府の発表と Emaar の決算発表、そしてDLDのサービス案内だけで確かめたものです(いずれも確認日は2026年11月4日)。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。