ドバイで借りている住戸の契約が満了に近づいたとき、まず見る日付は賃料の額ではなく通知が届いた日です。ドバイの賃貸借法(Law No. 26 of 2007、Law No. 33 of 2008 による改正を含む)は、更新に向けて契約の条件を変えたい当事者に対し、別段の合意がない限り、満了の90日前までに相手へその意思を通知することを求めています。条文は賃料の増減もこの「条件の変更」に含めています。つまり、賃料の交渉は満了の直前に始まる話ではなく、満了の90日前の通知から始まる手続きです。
そして、通知が来なかった場合の扱いも法が引き取っています。期間が満了したのに借主がそのまま住み続け、貸主が異議を述べなければ、契約は同じ期間、または1年のうち短いほうで更新されると書かれています。何も起きなかったのではなく、更新されたことになります。この記事は、この2つの条文を軸に、満了日から逆算する期限、更新の交渉と明け渡しの要求の切り分け、提示された賃料を自分で照会する窓口までを、政府が公表している条文とサービス案内だけで並べます。個別の契約が有効かどうか、特定の通知が効力を持つかどうかの結論は出しません。確認日は2026年11月4日です。
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条件を変えるなら、満了の90日前までに通知します
条文の並びは2段になっています。まず第13条が、更新のために、貸主と借主が満了の前に契約のいずれの条件も変更でき、賃料の増額または減額を見直すこともできると定めています。賃料を上げたい貸主だけの規定ではありません。借主の側から下げる話を持ち出すことも、同じ条文に収まっています。
その手続きの期限が第14条です。当事者間に別段の合意がない限り、第13条にもとづいて条件を変えたい当事者は、満了の90日前を下回らない時期に相手へその意思を通知しなければならない、と書かれています。ここで見落としやすいのは「別段の合意がない限り」という前置きです。90日という日数は法が置いた既定値で、契約書に別の期間が書かれていれば、その定めが先に来ます。だから、自分の契約でこの期限を確かめる順番は、条文ではなく契約書の条項が先です。条項に何も書かれていないときに、90日が効きます。
通知そのものの様式について、第14条の本文は日数と「通知する」ことだけを定めています。電子メールや携帯のメッセージで足りるのか、書面でなければならないのかを、当サイトはこの条文から断定できません。いっぽう明け渡しを求める通知については、後で見るとおり方法まで条文に書かれています。同じ法の中で、書かれている項目と書かれていない項目が分かれているので、まとめて「通知は書面で」と読まないでください。実務では、届いた日付が後から確かめられる形で残っているかどうかが分かれ目になります。
通知が来なければ、契約は同じ期間で更新されます
第6条は、期間が満了しても借主が物件の占有を続け、貸主が異議を述べない場合、契約は同じ期間または1年のうち短いほうで更新されると定めています。2年契約なら1年、1年契約なら1年です。更新のために新しい書面に署名したかどうかとは別に、法の側が関係の継続を引き取ります。
ここを押さえると、「更新の案内が来ないまま満了日が過ぎた」という状況の読み方が変わります。放置された状態ではなく、更新された状態として扱われる可能性がある、ということです。賃料については、第13条と第14条の手続きを通していない以上、変更の合意は成立していません。満了日を過ぎてから「実は上げるつもりだった」と言われても、それは期限の後に出てきた話です。
もうひとつ、第7条が土台にあります。有効な契約は、期間中に貸主または借主が一方的に解約することはできません。解約できるのは双方の合意による場合と、法の定めによる場合だけです。更新の交渉が不成立になったからといって、期間の途中で関係が切れるわけではありません。満了日までは契約が続き、満了のときに第6条か、条件変更の合意か、明け渡しの手続きのどれかに着地します。
更新の交渉と、明け渡しの要求は別の制度です
受け取った連絡が「賃料を上げたい」なのか「出て行ってほしい」なのかで、適用される条文がまるごと変わります。読者の側で混ぜてしまいやすいのは、賃料の提示と退去の示唆が同じメールに書かれている場合です。制度としては別の話なので、分けて扱います。
明け渡しは第25条が定めています。期間中に求められる場合は、理由が条文に列挙されています。賃料の不払いについては、通知が送達された日から30日以内に支払われないこと、ほかに書面の承諾のない転貸、違法な目的または公序良俗に反する目的での使用、賃貸された目的と異なる使用、借主の故意または重大な過失によって物件の安全を損なう変更や損害、技術報告によって貸主が示す倒壊のおそれ、通知から30日以内に義務を履行しないこと、などが挙げられています。賃料の交渉が決裂したことは、この一覧にありません。
満了のときに明け渡しを求める場合は、理由が4つに絞られています。取り壊して建て替える場合、物件に大規模な修繕や改修が必要な場合、所有者または一親等の親族が自分で使う場合、売却する場合です。そして、この場合は明け渡しの日の少なくとも12か月前に、公証人または書留によって理由を通知しなければならないと書かれています。通知の方法が条文に明記されているのはこちらです。
第26条には、その後の制限もあります。自分または親族が使うために物件を取り戻した貸主は、住宅なら2年、商業用なら3年のあいだ、ふたたび第三者へ賃貸することができません。これに反した場合、借主は裁定機関に相当な補償を求めることができると定められています。「自分で使う」という理由の重みが、期間の制限として裏打ちされている形です。
どの規定が何を決めているのかを、確かめる場所とあわせて並べます。期限や理由を調べるときに、見る相手を間違えないためです。
| 決まっていること | 根拠 | 確かめる場所 |
|---|---|---|
| 条件を変える意思の通知の期限 | Law No. 26 of 2007 第14条(別段の合意があればその定めが先) | 法令ポータルの条文と自分の契約書 |
| 通知がないまま満了したときの扱い | 同 第6条 | 同じ条文 |
| 期間中に一方的な解約ができないこと | 同 第7条 | 同じ条文 |
| 明け渡しを求める理由と通知の方法 | 同 第25条 | 同じ条文 |
| 自用で取り戻した後の再賃貸の制限 | 同 第26条 | 同じ条文 |
| 更新時に上げられる賃料の上限の段階 | Decree No. 43 of 2013 | 法令ポータルの条文 |
| 上限の判定に使う平均賃料 | RERAが承認する賃料指数(同令 第3条) | DLDのRental Index |
| 登録のない契約が紛争で扱われないこと | Law No. 26 of 2007 第4条 | Ejariの登録証明 |
提示された賃料が範囲内かは、指数で照会します
通知の期限を確かめたら、次は金額です。ドバイでは、更新時に上げられる賃料の幅が Decree No. 43 of 2013(2013年12月18日に発せられ、同日から効力を持ちます)で段階的に決まっています。基準になるのはいまの賃料が同種の物件の平均賃料をどれだけ下回っているかで、下回る幅が小さいほど上げられる幅も小さくなり、上限は20%までです。段階の区切りと数字はドバイの家賃データに表と図で置いてあるので、ここでは重ねません。同令の第2条は、特別開発区域やドバイ国際金融センター(DIFC)を含むフリーゾーンの貸主も対象に含めています。
肝心なのは、判定に使う平均賃料が近隣の相場観でも、不動産ポータルの掲載価格でもないことです。同令の第3条は、類似物件の平均賃料をRERA(不動産規制庁)が承認した「ドバイの賃料指数」に従って決めると定めています。UAE政府のポータル(u.ae)も、ドバイの賃料の引き上げはRERAの計算機でエリアの平均賃料と比べたうえで適用できると案内しています。指数が返す値が判定の入口です。
その指数を引く窓口がDLDの「Rental Index」です。サービス案内には、必要なエリアのデータを入力して、賃料の引き上げ幅と不動産市場の平均賃料を計算できるサービスであること、提供の経路がEjariのサイト、Dubai RESTのアプリ、DLDのサイト、DubaiNowのアプリの4つであること、利用できる対象が「すべて(All)」と書かれていること、処理が即時であることが載っています。照会の画面では、住宅、商業、工業、工業用地、スタッフ宿舎に区分が分かれており、住宅の場合は契約の終了日、物件の種別、面積(平方フィートまたは平方メートル)、いま払っている年額の賃料を入れます。物件の特定には、DEWA(水道・電気)の番号、Ejariの契約番号、エリア名のいずれかが使えます。
つまり、照会のために手元に用意するものは決まっています。契約書(終了日と年額)、DEWAの番号またはEjariの契約番号、住戸の面積です。更新の通知が届いてから集め始めると、期限との競争になります。契約の初めのうちに、この3つを1か所にまとめておくほうが確実です。
指数そのものも変わっています。DLDは「Smart Rental Index 2025」を2025年1月2日に公表し、建物の分類にもとづく評価へ切り替えたと説明しています。発表に書かれている分類の観点は、技術面・構造面の特性、仕上げと維持管理の質、建物の立地とその空間的な価値、そして維持管理・清掃・駐車の管理といった提供されるサービスの水準です。対象はドバイのすべての住宅エリアで、主要なエリア、特別開発区域、フリーゾーンを含むとされています。評価の等級が何段階に分かれるのか、観点が何項目あるのかは、この発表には書かれていません。報道では別の説明も見かけますが、政府の発表で確かめられない数字は当サイトでは書きません。
通知を受け取ったときに確かめる順番
ここまでの条文とサービスを、受け取った側の作業の順番に並べ替えます。金額の交渉から始めないのが要点です。日付と種類が決まらないと、どの条文を見ればよいかが決まりません。
合意できないまま満了が近づいた場合、賃料の額は当事者だけで決まるわけではありません。第13条は、更新に向けた条件の変更について当事者が合意に至らない場合、裁定機関が第9条の基準を考えて公正な賃料を定めることができるとしています。第9条が挙げている材料は、RERAが定める賃料の引き上げ幅の基準、首長国の一般的な経済状況、物件の状態、同種の物件の賃料の水準などです。指数の数字がそのまま結論になるのではなく、判断の材料の1つとして置かれているという構造です。手続きの窓口は賃料紛争解決センターの確認方法にまとめています。
登録されていない契約は、入口で止まります
その窓口へ行く前に、先に効いてくる条文があります。第4条は、この法の対象となる賃貸契約とその変更をRERAへ登録することを定め、登録されていない契約について、司法当局や政府の各部門・機関は、その契約に関する紛争や請求を扱わないとしています。賃料の上げ幅が妥当かどうかを争う前に、契約が登録されているかどうかが入口になります。
u.aeのページも、ドバイでは貸主が賃貸契約をDLDへ登録しなければならないと案内しています。義務は貸主の側ですが、止まっていると困るのは借主の側です。登録の手順と、登録証明が契約書とは別の書類であることはドバイのEjari登録で扱っています。更新のときは、変更した条件が登録の内容にも反映されているかを確かめてください。支払いの回数を変えた場合も同じで、合意だけして登録を直していない状態は、争いになったときに不利へ働きます。
契約全体で見る論点の一覧はドバイ賃貸借法の基本、RERAという機関そのものの役割はRERAとはにあります。この記事は、そのうち期限と自動更新の部分だけを深く見たものです。
公表資料で確かめられなかったこと
書かれていない項目は、埋めずに並べます。ここに挙げたものは「制度が存在しない」という意味ではなく、今回参照した公表資料では確かめられなかったという意味です。
| 公表資料で確かめられたこと | 公表資料に書かれていないこと |
|---|---|
| 条件変更の通知は満了の90日前まで(別段の合意がない限り) | 通知の様式(書面か電子か)と、届いたことの証明の方法 |
| 通知がないまま占有が続けば同じ期間または1年の短いほうで更新 | 更新後の契約について指数の値をいつの時点で見るのか |
| 明け渡しの通知は12か月前、公証人または書留 | 通知を受けた後に借主が取れる手続きの期限 |
| 自用で取り戻した後の再賃貸の制限(住宅2年・商業3年) | 制限に反したときの補償の算定方法 |
| 上限の判定にRERA承認の賃料指数を使う | 指数の算定式と、指数が更新される頻度 |
| Smart Rental Index 2025 は建物の分類にもとづく | 分類の等級の数と、観点の項目数 |
| Rental Index は4つの経路から即時で使える | 照会の結果が当事者をどこまで拘束するのか |
当サイトは法律事務所ではなく、個別の契約について助言を行いません。条文の読み方で結論が分かれる場面や、通知の効力そのものが争われている場面では、ドバイの資格を持つ専門家に当たってください。この記事の役目は、相談する前に自分で並べられる事実を並べておくことです。
カレンダーに置くのは3つの日付です
最後に、やることを日付へ落とします。契約書を開いて満了日を確かめ、そこから12か月前、90日前、満了日の3つをカレンダーに置いてください。12か月前は、明け渡しを求める通知が有効に行える最後の時期です。90日前は、賃料を含む条件の変更が持ち出される期限で、こちらから下げる話を出すときにも同じ期限が効きます。満了日は、何も通知が来なかったときに第6条が働く日です。
あわせて、照会に必要な3点(契約書、DEWAの番号またはEjariの契約番号、住戸の面積)を1か所にまとめます。通知が届いてから探し始めると、90日が思ったより短いことに気づきます。期限は、知っている側に有利に働きます。法は日数を既定値として置いているだけで、使うかどうかは当事者に委ねられているからです。
更新をめぐる数字の水準そのものは、ドバイの家賃データで、登録された契約の記録から新規契約と更新契約を分けて見られます。住居の確保に関わる手続きの入口はドバイ移住に並べています。