アブダビ不動産センター(ADREC、Abu Dhabi Real Estate Centre)は2026年10月12日、仲介人の免許に必須となる研修カリキュラム Abu Dhabi Real Estate Broker Transformation Course を公表しました。発表の表現は mandatory licensing curriculum で、従来のブローカー研修を置き換えるものだと書かれています。合格した人は ADREC Certified Broker という資格を受け、その資格は規則の変更を反映するために毎年更新されます。あわせて、研修を届ける3者(Mawaheb、ThinkProp、Abu Dhabi School of Management)との覚書が結ばれました。
先に、買う側・売る側の手続きが変わる話ではないことを押さえてください。変わるのは担当者側の資格の作り方です。日本から物件を買うときの登録や費用について、この発表は何も変更していません。そして発表の限界もはっきりしています。受講料、研修の時間数、合格の基準、必須化がいつから適用されるのか、すでに免許を持っている人がどう扱われるのかは、いずれもこの発表には書かれていません。
以下では、発表に書かれている順序(研修から資格、毎年の更新まで)、3つの覚書が決めたこと、同じ発表が引いている2026年上半期の数字、そして読者が自分で担当者の免許番号を照会する方法を分けて並べます。材料はADRECの発表とアブダビ政府メディアオフィスの発表、ADRECのDirectory、そして研修提供者ThinkProp自身の公表ページだけです。政府機関の公表と、研修提供者という民間の公表は、本文でも書き分けます。金額はAEDの表記のまま扱い、この記事に円の目安は出てきません。
必須になったのは、免許を取るための研修です
発表は、このカリキュラムを「仲介人の能力を高め、信頼できる不動産の助言者として振る舞えるようにするための、必須の免許取得カリキュラム」として説明しています。重要なのは、新しい科目が足されたのではなく前の研修を置き換えたという点です。免許を取るために通る道が1本に差し替わったことになります。
学ぶ範囲として挙げられているのは、法と規制、実務、職業倫理、そして市場の知識です。これに加えて、取引を通しで模擬する演習(発表の表記は capstone transaction simulation)と、専門家としての準備ができているかを見る最終評価が置かれています。カリキュラムは国内外の上位の仲介人による委員会が作り、国際的に認知された不動産の資格と対照させた(benchmarked)と書かれています。
合格した人に与えられるのが ADREC Certified Broker です。この資格は1年ごとに更新します。更新の理由として発表が挙げているのは、アブダビの不動産の法と規則が変わることです。つまり資格は取得した時点の知識を証明するものではなく、直近の規則に追いついていることを示す仕組みとして設計されています。読者の立場では、担当者が「研修を修了している」と言った場合、それがいつの年の更新なのかまで確かめる意味があります。
3つの覚書は、研修を誰が届けるかを決めています
同じ発表で、ADRECは3者と覚書を結んだと伝えています。相手は、アブダビの政府支援局(Department of Government Enablement、DGE)の一部である Mawaheb、研修提供者の ThinkProp、そして Abu Dhabi School of Management(ADSM)です。法人名と組織名は英語の表記のまま扱います。読者がADRECの一覧や登録を照会するときの手がかりを落とさないためです。
覚書が扱う範囲として発表が挙げているのは3つです。仲介人向け研修の提供と共同開発、ADRECが認める課程と認証、そして応用研究です。言い換えると、研修の中身を作る役、届ける役、学術として裏付ける役が、それぞれ別の相手に割り振られた形になります。ADRECが自ら全部を実施するのではなく、認める側に立つ構えがここに現れています。
発表には関係者の言葉も載っています。ADRECの Director General である Rashed Al Omaira 氏は、仲介人が投資家にとって業界との最初の接点になることが多く、その助言の質が市場での経験を形づくると述べています。DGEの Undersecretary である Ibrahim Nasser 氏は国民の就業の文脈から、ADSMの Acting President である Dr Marc Poulin 氏は学術と市場基準の接続から、ThinkPropを運営する ADRES の Interim GM & CEO である Wajdi Ghoussoub 氏は実務研修への落とし込みから、それぞれ発言しています。各者の具体的な分担の割合や契約の期間は、発表には書かれていません。
Mawahebの先行実施は、2026年10月10日に始まっています
カリキュラムを最初に通すのは、Mawahebと組んだプログラムです。発表によると2026年10月10日に始まり、60人のUAE国民を免許を持つ仲介人として送り出すことを目的にしています。構成は、説明会(open day)のあとに1週間の研修、続いて3か月の実地研修で、受け入れ先は業界の主要な9つの組織とされています。
参加者には必要な認定を取るための支援が行われ、修了後には就業の機会につながる可能性があると書かれています。この枠はUAE国民の就業(Emiratisation)に関わる取り組みで、一般の受講者が同じ日程で受けられるという話ではありません。60人という数字を、新しい資格の保有者の総数と読み替えないでください。
同じ方向の取り組みは、ドバイ側にも別に存在します。ドバイではDLD(ドバイ土地局)が専門教育の課程を整えており、その中身と、いま仲介人に課されている条件はDLDが不動産の専門教育を拡大に分けて書いています。アブダビとドバイは別の機関が別の免許を管理しているので、片方の資格をもう片方で使える前提で読まないでください。相互の承認について、今回の発表には何も書かれていません。
発表が引いているのは、2026年上半期の実績です
ADRECは今回の発表の中で、市場の状況として2026年上半期の数字を引いています。アブダビで登録された不動産取引の総額はAED117 billionで、金額は前年同期比112パーセント増。ADRECが発行した不動産の専門職の免許は2,040件で前年同期比34パーセント増、そして免許を持つ仲介人は3,302人に達したとされています。
同じ上半期の数字は、アブダビ政府メディアオフィスの発表でも確認できます。そこでは取引の件数が61.7パーセント増、内訳として売買がAED86.1 billionで16,838件(金額で163.7パーセント増)、抵当の登記がAED26.7 billionで8,876件(金額で33パーセントを超える増加)と示されています。免許2,040件と仲介人3,302人も、この発表に書かれている値です。
ここで数え方を取り違えないでください。2,040は上半期に発行された件数、3,302は期末時点で免許を持っている人数です。性質が違うので、足し合わせても意味を持ちません。また取引の総額の伸び(112パーセント)は、価格が上がったことを示す数字ではありません。価格の変化率として公表されているのは別の値で、その読み分けはアブダビの不動産価格の推移にまとめています。
公表された項目と、書かれていない項目
右の列が埋まっているものが、いま確かめられる事実です。
| 項目 | 今回の発表の記載 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年10月12日 |
| 公表した機関 | ADREC(アブダビ不動産センター。自治体交通局の一部) |
| カリキュラムの名称 | Abu Dhabi Real Estate Broker Transformation Course |
| 位置づけ | 必須の免許取得カリキュラム。従来のブローカー研修を置き換える |
| 学ぶ範囲 | 法と規制、実務、職業倫理、市場の知識 |
| 実地の演習 | 取引を通しで模擬する演習(capstone transaction simulation) |
| 評価 | 専門家としての準備を見る最終評価 |
| 与えられる資格 | ADREC Certified Broker |
| 資格の更新 | 1年ごと。規則の変更を反映するため |
| 作成した主体 | 国内外の上位の仲介人による委員会。国際的な資格と対照 |
| 覚書の相手 | Mawaheb(DGE)、ThinkProp、Abu Dhabi School of Management |
| 覚書の範囲 | 研修の提供と共同開発、ADRECが認める課程と認証、応用研究 |
| 先行実施 | 2026年10月10日開始。UAE国民60人。1週間の研修と3か月の実地(9組織) |
| 受講料 | 記載がありません |
| 研修の時間数 | 記載がありません |
| 合格の基準 | 記載がありません |
| 必須化の適用開始日 | 記載がありません |
| 既存の免許保持者の移行の扱い | 記載がありません |
| 日本語での受講 | 記載がありません |
表の下半分が、この発表の限界です。適用開始日が示されていないということは、いま免許を持っている担当者がこのカリキュラムを通っているとは限らない、ということです。既存の保持者の扱いも書かれていないため、「新しい基準の研修を受けた担当者かどうか」は、発表の文面からは判定できません。担当者から新カリキュラムの修了を説明されたときは、その根拠がどの資料のどこに書かれているかを確かめてください。
受講の条件は、研修提供者の側で公表されています
ADRECの発表には金額も時間数もありませんが、覚書の相手として名前が挙がった ThinkProp は、自社のアブダビ向けブローカー研修について受講の条件を公表しています。これは政府機関の公表ではなく、研修提供者自身の公表値です。出典の層が違うので、ADRECが定めた内容として読まないでください。
| 項目 | ThinkPropが公表している内容 |
|---|---|
| 研修の量 | 40時間(対面または遠隔) |
| 受講料 | AED 3,675(VAT込み・1回の支払い) |
| 次の開講 | 2026年10月19日 |
| 言語 | 英語またはアラビア語 |
| 試験 | 45分の遠隔試験。多肢選択と正誤 |
| 合格の基準 | 70パーセント以上。無料の再試験が1回。3回目はAED 500とVAT |
| 修了証 | 合格後2〜4営業日で発行。ADRECへの免許申請に進める |
この表の内容が、今回公表された新しいカリキュラムをすでに反映したものなのかは、このページには書かれていません。発表はカリキュラムが前の研修を置き換えると述べていますが、提供者側の案内がいつ切り替わるのかには触れていません。受講を検討する立場であれば、申込みの前に提供者へ確認する必要があります。読者の立場としては、40時間と70パーセントという水準が「名刺に書ける肩書き」ではなく一定の時間と試験を伴うものだと分かるところまでが、この表から読み取れることです。
なお当サイトは、研修提供者の公表値を政府機関の公表と同じ扱いにはしません。ADRECの発表に書かれていない数字を、ADRECが決めた条件として本文に混ぜることはしていません。出典の層を混ぜない方針は、不動産の仲介で起こりやすい取り違えの一つに対応しています。契約や登録に関わるリスクの整理はアブダビで不動産を買うときのリスクにまとめました。
担当者の資格は、免許番号で照会できます
発表を読んだあとに、読者が自分で動かせることが1つあります。担当者の免許を番号で照会することです。ADRECはウェブサイトにDirectoryを置いていて、免許を持つ専門職、プロジェクト、ディベロッパー、政府機関、認定された研修機関、銀行などをまとめています。
専門職(Professions)のタブでは、免許番号(Profession License Number)で直接検索できます。職種は Broker、Evaluator、Developer に分かれ、分類として法人(Company)か個人(Individual)かも選べます。プロジェクト側はディベロッパー名や自治体・地区・コミュニティ、物件の種類で絞り込めます。肩書きや名刺の文言ではなく、番号で引けるところが要点です。
照会するときに気をつける点が2つあります。1つは、照会できるのはアブダビの免許だということです。ドバイで仲介する相手はDLDの登録を確かめる必要があり、その探し方はドバイの不動産仲介会社の選び方に分けて書いています。もう1つは、免許の存在が取引の安全を保証するものではないという点です。手続きの順序と誰が何を起票するのかはアブダビで不動産を買う手順で扱っています。
資格が整うことは、値上がりの根拠ではありません
仲介人の研修が必須になり、資格が毎年更新される仕組みになることは、制度が整っていく出来事です。それは、価格が上がることや、賃料が取れることの根拠にはなりません。当社は、値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
この発表から利回りを計算することもできません。カリキュラムの費用も、免許の総数がどう推移するかも、取引にかかる手数料の変更も示されていないからです。「規制が強化されたから安心して買える」という説明を受けた場合は、その説明がどの公表資料のどの記載に基づくのかを確かめてください。発表に書かれているのは、研修と資格の作り方までです。
この記事は、ADRECの発表、アブダビ政府メディアオフィスの発表、ADRECのDirectory、そして研修提供者ThinkPropの公表ページだけを材料にしています。必須化の適用開始日、既存の免許保持者の移行の扱い、受講の費用について続報が出た時点で、この記事を更新します。アブダビの市場全体の規模の読み方はアブダビ不動産の市場規模に、ADRECが進めている他のデジタル面の取り組みはADRECとHub71の覚書にまとめています。