「ドバイではこれだけの不動産取引がある」という件数を見かけたとき、それが何を数えた数字なのかは、件数だけを見ても分かりません。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)がオープンデータとして配っている取引の記録を当サイトが取得すると、2026年1月1日から8月25日までに入っている行は全体で146,369行ありました。ところが、この中から売買(Sales)だけを残すと110,525行になります。同じ期間の、同じデータセットから、条件の付け方だけで3万5千を超える差のある2つの「取引件数」が出てきます。
差を作っているのは、抵当権の登録(Mortgages)30,043行と、贈与(Gifts)5,801行です。どちらもDLDが扱う不動産の手続きですが、前者は所有者が変わらず、後者には対価がありません。これらを売買の件数として引用すれば、どちらの場合も誤りになります。
この記事は、ドバイの不動産取引件数を数える「前」に決めなければならないことを整理したものです。照会画面にどんな絞り込みがあるのか、そこで選んだ条件が件数をどう変えるのか、月ごとの件数を並べるときに何をそろえる必要があるのかを、同じ1つの集計から順に確かめます。価格や面積あたりの単価の読み方は、この記事では扱いません。量だけの話です。
出典の層を先に断っておきます。この記事に出す件数は、DLDが公表している集計ではなく、DLDが配っている原記録を当サイトが集計したものです。「DLDの公式データ」と「DLDのデータをもとにした当サイトの集計」は別のものなので、引用するときは後者として扱ってください。データ系列の入口はドバイのデータ、同じ系列の一覧は売買取引データにあります。特定の物件や事業者を勧める記事ではありません。値上がり、賃料収入、利回りのいずれも当社は保証しません。
照会画面には、件数を変える絞り込みが5つ並んでいます
DLDのオープンデータのページでは、データセットごとに照会の条件を選んでから結果を出します。取引(Transactions)のデータセットで選べるのは、期間のほかに次の5つです。
| 絞り込み | 選べる値 | 件数への効き方 |
|---|---|---|
| Transaction Type | All/Sales/Mortgages/Gifts | 売買以外の手続きを含めるかどうかが決まります |
| Registration type | All/Ready/Off Plan | 完成済みとオフプランのどちらを見るかが決まります |
| Is Free Hold? | All/Yes/No | 自由保有の区画に限るかどうかが決まります |
| Usage | All/Residential/Commercial/Other | 住宅・商業・その他のどれを数えるかが決まります |
| Property Type | All/Land/Building/Unit | 土地・一棟・住戸のどれを数えるかが決まります |
期間の指定(From Date と To Date)は、どちらも入力しないと照会できません。つまりこのデータから出てくる件数は、必ず「ある期間」と「5つの条件の組み合わせ」に対する答えです。条件を書かずに件数だけを引用すると、受け取った側は同じ数字を取り直せません。他社の資料と並べたときに値が合わないのは、多くの場合ここが違っています。
結果として出てくる列も確かめておきます。取引番号、日付、種類、細目、登記の区分、自由保有かどうか、用途、区画、物件種別、物件細目、金額、取引の面積、物件の面積、間取り、駐車場、最寄りの駅・モール・ランドマーク、買主と売主の数、マスタープロジェクト名とプロジェクト名が並びます。この並びには「契約の件数」という列がありません。件数は、条件に合った行を自分で数えたものになります。後の節で、この点が効いてきます。
売買・抵当権・贈与の3種類が、同じ記録に入っています
Transaction Type を All のままにすると、性格の違う3種類の手続きが1つの表に入ります。
| 区分 | 行数 | 何が登記されるか | 売買の件数に入れるか |
|---|---|---|---|
| Sales(売買) | 110,525 | 売主から買主への所有権の移転 | 入れます |
| Mortgages(抵当権) | 30,043 | 融資のために物件へ設定する担保 | 入れません |
| Gifts(贈与) | 5,801 | 対価のない所有権の移転 | 入れません |
抵当権の登録が何なのかは、DLDの手続きの案内に書かれています。融資を行う側のために、物件に生じる権利を保全する目的で登録するもので、第一順位でも第二順位でも申請できるとされています。手数料は抵当権の額の0.25%で、所要時間は20〜25分と案内されています。ここで動くのは担保の権利であって、所有者ではありません。同じ物件が売買され、同じ月に融資を受けて抵当権が設定されれば、この記録には2行立ちます。
贈与も、所有権は移りますが性質が違います。DLDの案内では、対価なしに所有権の全部または一部を移すための手続きで、相手は一親等の親族(母、父、配偶者、子)または会社だとされています。対価がない以上、記録に入っている金額は市場で成立した価格ではありません。価格の集計に混ぜれば水準が歪みますし、件数として売買に足せば、市場で売れた数を実際より多く見せることになります。
当サイトの集計は、この3つのうちSalesの行だけを使っています。110,525行というのは、その選び方の結果です。抵当権30,043行は売買110,525行のおよそ4分の1にあたる量なので、含めるかどうかの判断は、小数点以下の誤差ではなく見出しの数字を変えます。なお同じ110,525行の取引額の合計は344,652,673,911 AEDです。金額の側をどう読むかはドバイ不動産の市場レポートに分けて書いています。
Salesに絞ったあと、Registration type でさらに分かれます。オフプランが75,805行で68.6%、完成済みが34,720行です。どちらも「ドバイの取引件数」ですが、売られているものがまったく違います。この分かれ方そのものはドバイのオフプラン取引データとドバイの中古(完成済み)取引データで扱っているので、ここでは件数が分かれる位置だけを示します。
件数の単位は「契約」ではなく「行」です
次に決めるのが単位です。当サイトが数えている件数は、条件に合った行の数です。DLDの記録では、1つの取引番号が複数の行に分かれることがあります。1件の契約で2戸を取得すれば、取引番号は1つでも行は2つ立ちます。
したがって、ここでいう110,525は登記された物件の数であって、成立した契約の数ではありません。契約の数はこれより少なくなります。どれだけ少なくなるのかは、取引番号の重複を数え直さないと分かりません。当サイトはその集計をまだ行っていないため、この記事では差の大きさを示せません。確かめていないことを推定で埋めると、その推定値が独立した事実として引用されていくので、ここは空けておきます。
単位の話はもう1つあります。DLDが発表として出す「取引件数」と、このデータセットの行数は別のものです。発表の側には手続き(procedures)という、売買も賃貸もサービスの申請も含んだ外側の数字があり、桁が1つ違います。発表の数字と自分で数えた行数を、同じ列に並べないでください。発表側の3段の入れ子はドバイ不動産の市場レポートで分解しています。
月の合計は、観測した日数がそろっていません
条件と単位が決まったら、ようやく月ごとに並べられます。ところがここで、もう1つそろえるものがあります。
| 月 | 売買の行数 | 集計に入っている暦日 | 同じ日数で比べられる相手 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月 | 17,413 | 31日 | 3月・5月・7月 |
| 2026年2月 | 17,028 | 28日 | 同じ日数の月はありません |
| 2026年3月 | 13,511 | 31日 | 1月・5月・7月 |
| 2026年4月 | 14,021 | 30日 | 6月 |
| 2026年5月 | 10,273 | 31日 | 1月・3月・7月 |
| 2026年6月 | 13,932 | 30日 | 4月 |
| 2026年7月 | 14,144 | 31日 | 1月・3月・5月 |
| 2026年8月 | 10,203 | 25日 | 同じ日数の月はありません |
合計の大小だけを見ると、順番を取り違えます。いちばん分かりやすいのが2月です。2月は28日分しか入っていないのに17,028行あり、31日分ある3月の13,511行を大きく上回っています。日数が少ないほうが多いのですから、1日あたりに直せば差はさらに開きます。
逆の向きの取り違えもあります。6月は13,932行、7月は14,144行で、合計では7月のほうが多く見えます。ところが6月は30日分、7月は31日分です。13,932を30で割った値と、14,144を31で割った値を比べてください。1日あたりでは、多い側が入れ替わります。月の合計をそのまま折れ線にすると、この入れ替わりは線の上から消えます。
8月はさらに注意が要ります。入っているのは25日分までで、月として完結していません。10,203行という数字を7月の14,144行と並べて「減った」と書くことはできません。残りの日数ぶんを比例で伸ばす処理も、この記事では行いません。月の残りに同じ割合で登記が入るという根拠が、このデータの中にないからです。
暦日で割る方法にも限界があります。暦日には週末も祝日も含まれています。窓口が開いている日の数は月によって違うので、暦日あたりでそろえても、まだ完全に同じ条件にはなりません。営業日で割り直せば、順番がもう一度変わる可能性があります。当サイトは営業日のカレンダーを一次情報として持っていないため、この記事では暦日までで止めています。
自由保有と用途でも、数える対象が変わります
残り3つの絞り込みも、件数を動かします。当サイトの集計では、Salesの110,525行のうち自由保有(フリーホールド)の割合が97%、用途が住宅になっている割合が97.4%でした。どちらも高い割合ですが、「ほぼ全部だから無視してよい」とは言えません。Registration type で分けると、内訳が変わるためです。
| 集計の範囲 | 行数 | 自由保有の割合 | 住宅用途の割合 |
|---|---|---|---|
| Sales 全体 | 110,525 | 97% | 97.4% |
| うち Off Plan | 75,805 | 98% | 100% |
| うち Ready | 34,720 | 94.8% | 91.7% |
オフプランの側は、用途が住宅になっている割合が100%です。完成済みの側は91.7%で、1割近くが住宅以外です。「ドバイの住宅取引件数」を出したいのであれば、完成済みの34,720行をそのまま使うことはできません。用途の絞り込みを掛けるか、物件細目で住戸に絞る必要があります。絞り込んだあとに何が残るのかはドバイの中古(完成済み)取引データで扱いました。
5つめの Property Type(Land/Building/Unit)については、当サイトの集計はこの区分で分けていません。照会画面には区分がありますが、当サイトが持っている集計の側に土地・一棟・住戸の内訳がないため、「ドバイで取引された土地は何件か」という問いには、この記事では答えられません。持っていない数字を、近そうな値で埋めることはしません。
件数がどこに立っているかも、あわせて記録しておきます。期間を通してSalesの行が立っている区画は240、プロジェクトは2,896でした。区画ごとの偏りはドバイのエリア別データで扱っています。
件数を引用する前に確かめる4つのこと
ここまでを、引用する側の手順にまとめます。
4つのうち、現実にいちばん見落とされるのが3つめの日数です。条件の違いは資料の注記を読めば気づけますが、月の合計を並べた表には、たいてい日数の列がありません。表に日数の列を1本足すだけで、比べてよい月と比べてはいけない月が見分けられます。
4つめの単位は、自分で数えるときだけでなく、他人の資料を読むときにも効きます。「件」とだけ書かれた数字が、契約の数なのか物件の数なのかは、表記からは判別できません。判別できないまま自分の資料へ写すと、その先はもう確かめられなくなります。出所の条件を書き写せないのであれば、その数字は使わないほうが安全です。
この件数で言えないこと
最後に、この集計で答えられないことを並べます。
前年との比較ができません。DLDの照会画面は当年ぶんしか返さないため、当サイトの集計は2026年の中だけで完結しています。「前年同月から何パーセント」という形の数字は、この集計からは作れません。
契約の数が分かりません。上に書いたとおり、ここでの件数は行数です。取引番号の重複を数え直していないため、契約の数との差は示せません。
募集中の物件の数も分かりません。これは登記された取引の記録なので、売り出されている件数、成約に至らなかった件数、登記されていない取引は含まれません。登記の件数は売れた物件の数であって、市場に出ている物件の数ではありません。賃貸の側の件数は別のデータセットで、ドバイの家賃データに分けて書いています。
数字が後から変わります。DLDの公表は修正されることがあり、直近の期間ほどその可能性が高いです。この記事の集計は2026年8月28日に作ったファイルにもとづいています。同じ条件でいま取り直すと、過去の月の行数まで動くことがあります。当サイトでは90日ごとに取り直し、そのときは最新月を足すだけでなく、過去の月の値も見比べます。
そして、ここに並べた件数は過去に記録された事実の集計です。これからの取引量を示すものではありません。件数が多い月があっても、それはその月にそれだけ登記されたという意味で、今後も同じ水準が続くという意味ではありません。価格の水準についてはドバイ不動産の価格中央値で扱っています。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。