パーム・ジュメイラは、ドバイで物件を探し始めると必ず名前が挙がる人工島です。ドバイ土地局(Dubai Land Department、以下DLD)が公開している登記の記録も、PALM JUMEIRAH という区画名でそのまま引けます。ところが、この名前の下には性格の違う2種類の住戸が、区別されずに並んでいます。塔の中の住戸と、1棟ずつ建っている住戸です。
そのため、この区画の「価格の中央値」は、どちらの相場も表していません。塔の住戸としては高く、1棟の住戸としては低い、2つの群のあいだに落ちた数字になります。当サイトの集計では、この区画の売買のうち物件の種別が Flat(アパートメント)として記録されたものがおよそ85%で、残りはそれ以外の種別です。1つの区画名の中で、母集団が割れています。
割れ目は、DLDの記録の「寝室の数」の列に見えます。寝室3つと寝室4つのあいだで、価格の中央値が約3倍に跳ねます。ほかの段は2倍前後です。寝室が1つ増えただけで価格が3倍になる住戸を、同じ種類の住戸が少し広くなったものとして読むのは無理があります。
もう1つあります。当サイトの表面利回りは、この区画では Flat にしか出していません。もう一方の種別は、賃貸か売買のどちらかが30件に届かないためです。この区画の利回りとして見かける数字は、島の片側だけの話になっている可能性があります。
この記事では、その割れ方をDLDの登記記録の集計から示します。水準そのものの数値は図と表に置き、期間と集計の定義を必ず添えてあります。本文に書き写すと、次の月ぶんを足したときに本文だけが古いまま残るためです。この区画のほかの指標も含めた一覧はパーム・ジュメイラのデータにあります。物件を紹介する記事ではなく、どの区画を買うべきかを決めるものでもありません。当社は値上がり、賃料収入、利回りのいずれも保証しません。
件数の数え方を先にそろえます
数字を比べる前に、何を数えたかを書いておきます。当サイトが「取引」と呼んでいるのは、DLDの記録のうち取引の種類が Sales の行だけです。抵当権の登録と贈与は数えません。贈与の価格は市場の水準を表さないためで、抵当権は所有者が変わる取引ではないためです。件数は行数、つまり登記された物件の数です。1つの取引番号が複数行に分かれることがあるので、「取引の件数」ではなく「登記された物件の件数」として読んでください。
| 数えるもの | 当サイトの扱い | 外しているもの |
|---|---|---|
| 売買 | 取引の種類が Sales の行 | 抵当権の登録、贈与 |
| 代表値 | 中央値(平均も持っていますが見出しには使いません) | 高額の登記に引かれる平均を主役にすること |
| 賃貸 | 住宅の新規契約で、1つの契約に1物件のもの | 更新の契約、労働者宿舎、複数物件の一括契約 |
| 面積あたりの単価 | 面積が記録されている行だけで計算 | 面積が空の行 |
この区画で中央値を使う理由は、両端が極端だからです。登記には1万AEDを下回る価格の行も、2億AEDを超える行も残っています。どちらも市場の価格として読める取引ではありませんが、登記の記録なので除かずに持っています。そのうえで中心を見るために中央値を使い、平均は参考として併記しています。この区画の平均は中央値の2倍を超えます。平均を見出しに使うと、実際にはほとんど動いていない価格帯を相場として示すことになります。
もう1つ、この区画はフリーホールドの割合が集計上すべてでした。所有権の種類が記録のうえで揃っているという意味で、特定の物件の権利を保証するものではありません。所有権の種類そのものはドバイ不動産の基礎にまとめています。
この区画の中央値は、ドバイ全体の上位1割の側にあります
図の下段がドバイ全体の分布です。この区画の中央値は、上位1割の境目より右側にあります。つまり区画の真ん中の取引が、市全体では上位1割に入る価格帯です。寝室3つの中央値と寝室4つの中央値は、どちらも上位5%の境目より外にあります。
同じ図で、もう1つ見てほしいところがあります。この区画のストゥディオの中央値は、ドバイ全体の中央値とほとんど同じ位置です。この区画の中にも、市全体の真ん中と変わらない価格帯の住戸が登記されています。「島の物件はすべて高い」という読み方は、この図の左側と合いません。間取りを決めずに区画の中央値だけを見ると、この幅が消えます。
分位は、同じ期間の売買を小さい順に並べた位置です。価格の水準そのものを区画どうしで並べたものはエリア別のデータにあり、価格という言葉で集まる数字の見分け方はドバイの不動産価格を比べるに分けました。
高いのは単価だけではありません
| 指標 | パーム・ジュメイラ | ドバイ全体 |
|---|---|---|
| 登記された売買の件数 | 769件 | 110,525件 |
| 価格の中央値 | 5,900,000 AED | 1,424,503 AED |
| 価格の平均 | 13,230,266 AED | 3,118,323 AED |
| 面積あたりの単価(中央値) | 39,003 AED | 18,510 AED |
| 面積の中央値 | 164.1 平米 | 77.6 平米 |
| オフプランの割合 | 32.1% | 68.6% |
| 新規の賃貸契約の件数 | 1,450件 | 173,959件 |
| 年間賃料の中央値 | 200,000 AED | 75,000 AED |
| 賃料の面積あたりの単価(中央値) | 1,382.2 AED | 972.8 AED |
| 表面利回り(Flat) | 3.54% | 4.74%(50組の中央値) |
表を上から読みます。価格の中央値はドバイ全体の約4倍です。その内訳は単純で、面積あたりの単価が約2倍、住戸の面積が約2倍です。掛け合わせると約4倍になります。総額の高さを単価の高さだけで説明すると、半分を取りこぼします。
この分解は、手頃な価格帯として名前の挙がる区画とちょうど裏返しです。JVCの不動産データで扱った区画は、総額が低いのに単価の下がり方が小さく、差のほとんどが住戸の小ささで説明が付きました。こちらは逆で、総額の高さの半分が住戸の大きさから来ています。区画をまたいで価格の水準を比べるなら、総額ではなく面積あたりの単価のほうです。区画別の単価は平米・sqft単価にあります。
オフプランの割合は、ドバイ全体と向きが逆です。全体では7割近くが完成前の登記ですが、この区画は3割程度にとどまります。すでに建っている住戸の売買が多数を占める、という意味です。手続きと書類はオフプランと完成済みで変わるので、どちら側の取引なのかで準備も変わります。完成済みの購入は中古・完成物件、区分ごとの全体像はオフプランのデータに分けてあります。
賃貸の側も見ておきます。年間賃料の中央値はドバイ全体より高く、面積あたりの賃料も4割ほど高い水準です。それでも表面利回りが低く出るのは、賃料の単価の高さが、価格の単価の高さに追いついていないからです。賃料が高いことと、利回りが高いことは別の話になります。賃料の水準を区画と間取りの区分で見たものは家賃データにあります。
寝室の列に、境目が出ています
段の間の倍率を見てください。寝室が1つ増えるごとの倍率は2倍前後で並んでいて、寝室3つから寝室4つのところだけ約3倍になります。縦軸は対数目盛りなので、段の高さがそのまま倍率です。ここに1か所だけ、ほかより明らかに高い段があります。
件数のほうは、寝室2つが最多です。そして区画の中央値は、この寝室2つの中央値とほとんど同じ金額になります。区画の中央値は、実質的に寝室2つの価格帯を見ている数字です。寝室4つ以上の住戸を探している人が、この中央値を予算の目安にすると桁を取り違えます。
ここで断っておきます。DLDの寝室の列は、物件の種別の列ではありません。当サイトが確かめたのは、売買のうち Flat として記録された行がおよそ85%で、残りが別の種別だということ、そして寝室3つと4つの間に最大の段差があることの2点です。この段差の位置が種別の境目と一致するかどうかは、当サイトは確かめていません。段差の位置と種別の構成が別々の列の話であることは、そのまま残します。
寝室の記載がない行も残っています。その群の中央値は、寝室4つの水準に近い高さです。間取りの空欄が混じるのは、住戸単位ではない登記が同じ列に並ぶためで、間取り別の数字を読むときは段に入っていない行がどれだけあるかを先に見てください。ヴィラとアパートメントが同じ計画地に並ぶ区画をもう1つ扱ったものがドバイ・ヒルズ・エステートの不動産にあります。
表面利回りが片方にしか出ていない理由
当サイトの表面利回りは、同じ区画・同じ物件種別で、面積あたりの年間賃料を面積あたりの価格で割ったものです。分子は住宅の新規契約、分母は取引の種類が Sales の価格です。そして賃貸・売買のどちらも30件以上ある組だけに数値を出しています。片側が数件の組で割ると、1件の値動きで利回りが跳ねるためです。
この条件に、この区画のアパートメントは入っています。賃貸も売買も件数が十分にあるため、数値が出ています。水準は3%台半ばで、当サイトが同じ条件で数値を出せた組の中央値を1ポイント以上下回ります。高い価格帯の区画で、表面利回りが低く出ています。驚く結果ではありません。分母の単価が大きいほど、同じ賃料でも利回りは下がります。
入っていないのは、もう一方の種別です。当サイトの集計では、この区画のヴィラの組に表面利回りが立っていません。条件は賃貸・売買のどちらも30件以上なので、少なくともどちらか一方が30件に届いていないことになります。ただし、どちら側が足りないのかは、この記事の集計からは分かりません。数値が無いことと、利回りが低いことも別です。この区画の「ヴィラの利回り」を見かけた場合、その数字は当サイトとは別の出所か、別の条件で作られたものです。
もう1つ、作りのうえでの限界があります。この利回りは、同じ住戸の賃料と価格を突き合わせたものではありません。別々の物件の中央値どうしの比です。個別の住戸の利回りではありません。分子と分母の標本がそろわないと何が起きるかはドバイ・マリーナの不動産利回りで扱いました。利回りの考え方は利回り・家賃収入、区画ごとの並びは利回りデータにあります。
その3%台から、まだ引いていないもの
表面利回りは、名前のとおり表面です。次のものを引いていません。
| 引いていないもの | どこで確かめるか | 区画の数字で代用できるか |
|---|---|---|
| サービスチャージ(共同所有物件の管理費) | DLDの Service Charge Index。プロジェクト名・用途・年を指定して照会します | できません。照会の単位がプロジェクトです |
| 空室の期間 | 公表データにありません。成立した契約だけが記録されます | できません |
| 仲介手数料・登記関連の費用 | 公表されている料率と、売買の条件 | 物件ごとに条件が違います |
| 修繕と更新の費用 | 建物の管理の記録と、売主への確認 | できません |
このうち、読者が自分で照会できるのはサービスチャージです。DLDは Service Charge Index という照会のサービスを公開していて、不動産規制庁(RERA)が承認した共同所有物件のサービス費用を調べられます。入力はプロジェクト名、用途、年の3つで、窓口はDLDのウェブサイト(Mollakのシステム)とDubai RESTのアプリです。所要は即時、居住資格を問わず使えると書かれています(確認日 2026-10-09)。
照会の単位がプロジェクトである以上、区画の代表値としてのサービスチャージは存在しません。同じ区画の中でも、対象の建物が違えば金額が違います。表面利回りから手元に残る額へ近づけるには、候補の建物が決まってから、その建物の名前と年を指定して引き直すことになります。保有中に出ていく費用は購入費用・諸費用に分けてあります。
ここで注意したいのは、照会で分かるのが承認された費用だという点です。実際の請求額、滞納の有無、修繕積立の状況は出てきません。ヴィラのように共同所有の枠組みに入らない住戸では、この照会そのものが当てはまらないこともあります。2種類の住戸が同じ区画名に入っているということは、費用の確かめ方も2通りあるということです。
自分で引き直すときに使う絞り込み
この記事の問題には、画面の上で手を打てます。区画で絞るだけでなく、物件の種別と用途でも絞ってください。区画名だけで引くと2つの市場が混ざったままですが、種別を指定すれば分けて取れます。手順はこうです。
- 取引(Transactions)を選び、期間を指定する
- エリアに PALM JUMEIRAH を入れる
- 取引の種類を Sales にして、抵当権と贈与を外す
- 用途(Usage)と物件の種別(Property Type)で、見たい側に絞る
- 結果をCSVとして保存し、同じ条件で賃貸(Rents)も取る
同じ期間、同じ絞り込みで売買と賃貸の両方を取ると、自分が見ている市場がどちら側なのかがはっきりします。注意点が1つあります。照会のフォームにはCAPTCHAが付いています。人がいることを確かめるための仕組みなので、当サイトは機械で越えません。期間を指定すればまとめて取得できるため、回数自体は多くありません。
他社の数字と合わないときは、水準が違うのではなく含めたものが違う可能性を先に見てください。この区画では特に、種別を分けたか分けなかったかで数字が動きます。期間と定義をそろえた一覧はエリア別のデータ、エリアを同じ指標で横に並べたものはエリア比較にあります。
まだ埋まっていない項目
- ヴィラの表面利回り。賃貸と売買のどちらが30件に届かないのか、当サイトは種別別に集計していません
- 種別ごとの面積あたりの単価。アパートメントとヴィラを分けた単価を出していません
- 島のどの部分の登記なのか。DLDの区画名は島全体で1つなので、幹の部分と枝の部分を区別できません
- プロジェクトごとのサービスチャージの水準。照会はプロジェクト単位で、区画の代表値は公表されていません
- 短期の賃貸(ホリデーホーム)の扱い。当サイトが数えているのは登録された賃貸契約だけです
- この区画でこれから完成する住戸の数。プロジェクトのデータセットをまだ集計に使っていません
いずれも空欄のまま残しています。埋めるには、取得したデータへ別の集計を足すか、プロジェクト単位・建物単位で照会する必要があります。推測で埋めた数字をこの記事には書きません。
候補を絞るのに使える範囲
この区画の数字で決められるのは、価格帯の位置です。面積あたりの単価はドバイ全体の約2倍、住戸の面積も約2倍で、取引の多数は完成済みの住戸です。寝室2つまでなら市全体の上位の価格帯、寝室4つ以上なら桁が変わります。探している間取りを決めてからでないと、この区画の数字は使えません。
決められないのは、個別の住戸の利回りと費用です。表面利回りはアパートメント側にしか出ておらず、そこからサービスチャージも空室も引いていません。買う候補が決まったら、その住戸の賃料と価格、その建物の承認済みサービスチャージ、引き渡しの時期で組み直すことになります。区画の数字は候補を絞るためのもので、買う判断を代わりにはできません。
最後に更新のことを書きます。この集計は2026年8月25日までの登記記録です。DLDの公表は後から修正されることがあり、直近の期間ほど動きます。次の月ぶんを足したときに図の数字が変わっていれば、変わったのは相場ではなく登記の構成のほうかもしれません。その区別が付くように、当サイトは数値と一緒に件数を出しています。続けて追う場合はパーム・ジュメイラのデータを見てください。